40.贈り物
エリアスからの小包を受け取ったリゼ。
まずは手紙を読むことにする。伯爵たちも興味があるようなので、声に出して読み上げる。
「えっと、『親愛なるリゼへ。元気にお過ごしでしょうか。僕はあれから毎日この国のことを勉強しています。それから剣術に魔法の訓練も休まず行っていますよ。学園入学まで三年もないのでより一層頑張ろうと思います。それから先日、初めて騎士たちと共に
リゼが小包をあけると綺麗なブレスレットが同封されていた。聖遺物はそう簡単に手に入るものではない。ダンジョンのボスモンスターを攻略することで入手可能な代物だ。このブレスレットにはエリアスの苦労と気持ちがこもっているのを感じる。
(これが聖遺物……オーラがすごい。プラチナかな……プラチナのリングに側面にはダイヤモンドらしきものが精密に隙間なくはめ込まれている……。ジェレミーのペンダントもそうだけれど、なんだか私には豪華すぎる気が……。でもせっかくもらったものを
小包の中身がちょうど見えないのか、伯爵と伯爵夫人は中身が気になるようだ。
「リゼ、エリアス殿は何をくれたんだい?」
「えーっと、ブレスレットですね」
リゼはブレスレットを取り出して、伯爵たちに見せる。
「あら、素敵じゃない。でもこれ、売っているものではなさそうな気もするわね。このはめ込まれているダイヤモンドの量は珍しいですし、クラリティ、つまり透明度も高いわよきっと」
放つオーラに何かを感じたのか、伯爵夫人がそんなことを口にする。
「聖遺物みたいです。ダンジョン攻略で手に入れられたみたいですね」
「はっはっはっは、エリアス殿も随分と積極的だな」
伯爵は苦労して入手した聖遺物を送るという、エリアスの本気度合いを感じ取り、好感度が上がったようだ。ダンジョン攻略は容易ではない。
「本当にそうよね。なかなかゼフティア王国の貴族にはない積極性ね。別の国の文化が未だに残っているのを感じるわね。このプレゼントのことは手紙で……毎日つけてほしいって書いてあったかしら?」
「えーっと、そうですね。書いてあります……」
リゼが手紙を確認して、そう呟くと、伯爵たちは驚いてしまう。
「あらまあ」
「うーむ」
「なんて言いますか、グイグイとこられていますよね……あはは……」
リゼは苦笑しつつも、右の手首に通してみる。ちょうど良いサイズだ。何かしらの力を感じる。あとでアイテムウィンドウを確認したほうがよさそうだ。
「なかなか侮れないな、エリアス殿も。完全にターゲットとして見ているみたいだ……」
「そうね……あら、リゼ。そういえば前から気になっていたのだけれど、そのペンダントは?」
ブレスレットをはめたリゼをにこやかに見守っていた伯爵夫人が聞いてくる。リゼは(そういえば、話していなかったかも……)と、思いつつも質問に答えることにする。
「これは……ジェレミーがくれたものですね……」
「…………」
「…………」
「あ、あの友人として護身用にくれただけで他意はないと思います! これは剣が中にあって念じると具現化されるのです。その剣もすごくって。何かあった時のためにくれたのかと!」
ジェレミーの口ぶりを思い返しながら、疑惑を晴らそうとする。まさかあのジェレミーがエリアスのように好意を感じてこのペンダントをくれたはずがない。
「本当にそれだけかな」
「えっと、それだけだと思いますが……友人として私の護身用にくれたかと……」
「ふーむ。いまはそういうことにしておくしかないね。ジェレミー王子がそう言うならそうなのだろうね。きっと、他意はない、きっとね」
「そ、そうね……」
伯爵たちは顔を見合わせる。
「そうですよね? 私もそう思います。おそらく剣術が好きですし、何かあった時のために持っておくと良いよ、みたいな、そういう意味なのかなと!」
と、リゼが口にするものの、伯爵と伯爵夫人は顔を見合わせて意味ありげにうなずくのだった。伯爵たちとしては、リゼが身に着けるペンダントは上級ダンジョンでも手に入らないような代物だと予想しており、そのようなものをただの護身用として贈ってくるだろうかといったところだ。
そして、この日は夕方にラウルやジェレミーと練習場で合流する。
「あれ? 今日は随分と元気そうだね?」
「ラウル様、分かります?」
「うん」
「実はお茶会もなんとかなると思えてきています。明日、劇場にアイシャと行くので楽しみでして!」
リゼは劇場に行くことになったことをラウルやジェレミーに話して聞かせる。
「劇場か。息抜きとしては良さそうだね」
「リゼが劇場ねぇ」
「あ、また私には似合わないとか言うつもりですね?」
先日の出来事で懲りたのか、すかさず突っ込みを入れる。それ以上、先を言われたらまたラウルと一緒に笑いだすと思ったのだろう。
「徐々にツッコミ速度が上がってきていてリゼの成長を感じるなぁ」
「でも初めて行くので、どのように振る舞って良いかは分かっていなかったりします……」
ジェレミーの発言を無視しつつ、劇場に足を踏み入れたことがないリゼは漏らす。
「ふーん、なら今度一緒に行ってあげようかな〜?」
「思いの外、ハマってしまったらお願いできますか?」
軽く言ってみただけであったジェレミーは思わぬ食いつきに少し慌てる。
「あ、あぁ、もちろんよいとも。……予習しておくか……な」
「ラウル様も行きますか?」
「ん? そうだね。是非とも行こう。チケットは用意するよ」
流れで劇場に行く約束をする三人だった。それから少し劇について歓談をしていると、ラウルがあることに気が付く。
「ところでそのブレスレットは?」
「これは……実はエルがくれました。ダンジョン攻略をしたときに見つけた聖遺物らしくて」
「そうか。なかなかエリアス殿も隅におけないな」
ぶつぶつと感慨深げに呟くのはラウル。ジェレミーはエリアスに対して思うところがあるようだ。
「どうせ僕があげたペンダントに対抗したとかじゃないのかなぁ」
「そう考えると僕だけがリゼに何もあげていないわけか、今度何か考えておくよ」
ラウルはペンダントやブレスレットを眺めつつ、少し考えこむとそう言った。いちいちエリアスに突っかかるジェレミーを見て、(なぜ仲良くできないのかな……)と、考えていた矢先のラウルの話を聞いて慌ててしまう。
「いえあの、ラウル様、気になさらないでくださいね」
「楽しみにしていてくれ。絶対に贈るからね! 絶対!」
「えーっと、そうですか……。分かりました……」
「みんなして僕の真似するんだから、困っちゃうよなぁ」
少しぼやくのはジェレミーだ。積極的でぐいぐい来るエリアスの登場によって、リゼたちの関係性も少しずつ変化してきているのかもしれない。
その日の夜、リゼはアイテムウィンドウを表示する。
『ハンカチ 備考:フォルチエ店のハンカチ。材質は絹』
『クロエス 備考:名匠「コルトン=シメオン・クレバリー」作のペンダント。持ち主は剣を収納可能。持ち主、リゼ=プリムローズ・ランドル』
『レーシア 備考:名匠「コルトン=シメオン・クレバリー」作の宝剣。敵対対象に攻撃する際に、体内へのダメージを相手に蓄積させる』
『カルミネ 備考:ブレスレット。魔法の威力を増幅させる』
「流石は聖遺物ダンジョンの宝ね。名前もついている。えっと、魔法の威力を増加! エル……こんなに貴重なブレスレッドをありがとう……。本当にみんなには感謝しないといけないよね。きっとエルは好意もあるのでしょうけれど、私が身を守るのに使えそうだからこれを贈ってくれたのだと思う」
リゼは改めて感謝する。エリアスへの返事をきちんと書き、本を読んで勉強を行い、日課をこなして眠りにつく。
そして、次の日。劇場に向かうための準備を行っていた。今日は貴族用の席ではないということで、目立たないように控えめな服装をチョイスする。深い紺色をベースとしたスカートだ。
それから本を読んでいると、いよいよ出発の時間になる。
馬車に乗り込み、街を目指すリゼとアイシャ。リゼはというと、自分の絵が美術館でどのように飾られているのかを考えていた。
「お嬢様お嬢様」
「んー?」
ぼーっと、考え事をしながら外を眺めていると、アイシャが話しかけてくる。
「あのお店、この前のお店ですよね。美味しい紅茶でしたよね」
「あ、そうね。雰囲気も良かったし、また行きましょう」
アイシャが指をさした店は、ポイント交換を可能とする例の喫茶店であった。
(ちょうど今後のために、そろそろ攻撃スキルを一つ手に入れておこうかと考えていたところ……。この前行ったときには攻撃スキルがなかったけれど、ラインナップが変わっているかもしれないからまた行かないと)
喫茶店を通り過ぎながらリゼは心の中で考えるのであった。
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