3章 劇場にて
37.古代魔法の習得
エリアナのお茶会に参加すると決めたリゼであったが、接触を避けたい彼女は悩んでいた。それもそのはず、お披露目会で最後に目にした彼女はと言うと、ジェレミーの突然の訪問事件に巻き込まれている時に、敵意を剥き出しにして睨みつけてきていたあの姿だ。お茶会でも色々と言われたが、決して快く思われていないということは分かっている。
「バルニエ公爵令嬢のお茶会。何を聞かれるのかな……? 果たして、何が目的なのか……」
「確実にジェレミー王子のことでしょうね。どういう繋がりなのか、本当にお嬢様がルイ派なのか、そんなところかなと思いますよ」
「行かないと角が立つから行くことにしたけれど、行きたくないのが本音…………」
深くため息を付きつつ、キュリー夫人から届いた古代魔法の書物の中でまだ整理で来ていなかった本たちを本棚へと入れていく。
アイシャは一緒に書物を整理してくれていたが、手を止めて口を開く。
「ちなみにお茶会はいつなのですか?」
「一週間後。土曜日に開催されるから魔法や剣術の練習にも影響が出てしまうから憂鬱……」
「それは……おつらいですね。でも今後もお茶会にパーティーは休日に開かれますから、こういう展開は起きるでしょうね。それにラウル様やジェレミー様もそれぞれご予定があるでしょうから効率よく練習していく必要があるかもしれません。あ、そういえばですが……貴族社会の趣味みたいなものについてメイドたちと話していたんですよ」
リゼは興味をそそられる話なのか、書物の確認を一度止めてアイシャに向き直る。貴族社会の趣味、一体どんなものなのだろうか。
「うん」
「お嬢様の場合、もはや魔法や剣術がおそらく趣味ですよね?」
「そうね……」
リゼは同意せざるを得ない。絵画なども趣味になってきているが。
「一般的な貴族のお嬢様方のご趣味は芸術関係らしいですよ。音楽や劇、絵画などあります。もしくは読書などでしょうか。あと刺繍などもあるようですよ。お茶会などでそういう話になるかもしれません」
「なるほど……。むしろお茶会ではそういう話のみだったら良いのに。でも私、絵画は好きで、アイシャも知っての通り商会に販売もしてるからその手の話になればついていけるかな」
リゼは〈知識〉の一部を取り戻したことで、絵画に対してはポジティブな印象を持っている。販売した三枚の絵画は美術館に展示されているらしい。
「そうですよね。とはいえ、言いにくいのですが、お嬢様は戦闘マニアみたいな感じになってきていまして、イメージが……。でも、貴族内にはお嬢様が剣術や魔法を頑張っていらっしゃるとは広まっていないでしょうし、もしバルニエ公爵令嬢様のお茶会でその手の話になったら貴族の子女らしい趣味があるということを分かってもらうためにも話しても良いかもしれませんね」
「確かに……そうね……!」
アイシャはリゼが絵を描いているところを何度も目にしているはずだが、やはり剣術や魔法の練習をしている時のイメージが強いようだ。
(私は前世のことを全て思い出せているわけではない。ルーク様に言われた通りであり、思い出せたのはゲームのこと、絵が好きだったことくらい。前世の人生についてはよく分からないけれど、〈知識〉の影響か、絵を鑑賞したり描くことが好きという感情は持ち合わせている……。エルとの縁談話にも決着がつき、少し生活に余裕が出てきたし……)
ふと、リゼが思いつきを呟く。
「美術館にでも行ってみようかな?」
「お嬢様が美術館……なるほど」
アイシャは驚きを隠せないようで、書物を整理する手が完全に止まってしまっている。それも無理はないだろう。アイシャの最近のリゼのイメージといえば、鉄のぶつかり合う音、発射される魔法といったところであり、絵を描くことはあっても、静かに絵を鑑賞するなど、想像できないのだ。
「確か王都にあるのよね、美術館」
「申し訳ありません、お嬢様。お嬢様から美術館という単語が出てくるとは思わなかったのでちょっと驚いてしまいましたが、良いですね。喫茶店に行くのも良いですが、たまには美術館で絵をゆっくり見るというのも楽しいかもしれませんね」
アイシャとしては、リゼのイメージは美術館とは真逆であるが、冷静さを取り戻して賛同した。
「そういえば、ラウル様やジェレミーにはまだ絵のことを話していなかったから、明日言ってみようかな……お茶会でその手の話になった時に話題にしても良いか確認も……」
「良いと思います!」
それから、しばらくアイシャと書物の整理をしたリゼは「寝るね」と伝えてベッドに入る。
(これまで、とにかく忙しかったから、一日くらいは美術館でゆっくりするのもありよね。少し癒やされたい気分。もしかしたらエリアナのお茶会のせいで少しなナーバスな気分になっているのかな。あっ、スキルのレベリングをしていなかったからしないと!)
ベッドから即座に起きると、日課の衝撃耐性と毒耐性のスキルをレベリングする。まだレベル2にはならないが、継続が大事だ。
それから、眠くないためキュリー夫人から送られてきた本を開く。タイトルはルーン文字で書かれているが、『魔術式の理解と応用』という本だ。この本はというと、図などもほとんどなく、ひたすらルーン文字で書かれていることから、いままでの研究者は意味が分からずに即座にギブアップしたのだろう。ページをめくった痕跡がほとんどない。
「さて、この本は魔術式、つまり魔法陣の正確な描き方が詳細に記載されていてついに読み終えた。そして、こっちは風属性魔法の本がある。マナへの接続術式などが書かれているので魔法陣として仕上げてみましょう。魔法陣を描くには
リゼはアイテムボックスには前世のデータが一部引き継がれている。
『ブリュンヒルデ(剣) 備考:戦いの女神をモチーフとした神剣。レベルが上がれば様々な効果が解放されます』
(ブリュンヒルデ。これはおそらく神剣ということもあり、聖別された剣と同じような存在であるはず)
リゼは初めてブリュンヒルデをアイテムボックスから取り出した。少し濃い銀色の鞘に収まっており、持ち手は細身でやはり濃い銀色だ。なお、持ち手の部分には水色の宝石が一個埋め込まれている。剣を引き抜くと、明るい銀色の剣身だ。それに神聖さを感じさせる輝きを放っていた。太陽光や部屋の明かりを反射しているわけではないのに輝いている。
「すごい……レーシアは金色をベースとした剣だからちょうど対になる感じね。でもこの剣は外ではあまり使わないようにしないと。こんなに光る剣とか普通ではないし……」
魔法陣は紙などに描いても良いそうであるが、剣ではきちんと描くことは出来ない。そのため、こんなこともあろうかと、軽い材質の石板を伯爵にいくつか買ってもらって部屋の隅に置いてある。リゼは風属性魔法の本を読み解きながらまずはチョークで魔法陣を石板に下書きをして、ブリュンヒルデを使って削りながら描いてみた。ルーン文字を刻むのがなかなか大変であったが、ニ時間掛けて完成する。
「よし! やっと出来た。あとは手を掲げて魔法名を告げる……だったはずよね」
リゼは床に置いた石板に手をかざして魔法名を告げる。
「ウィンドウェアー!」
すると、魔法陣が白く輝き、少しすると収まるのであった。
(えっと、成功……? マジックウィンドウで確認してみましょうか)
【属性熟練度】
『風属性(初級):0499/1000』
『氷属性(初級):0504/1000』
【魔法および魔法熟練度】
『エアースピア(風):100/100』
『ウィンドプロテクション(風):056/100』
『ウィンドウェアー(風):000/100』
『スノースピア(氷):100/100』
『アイスレイ(氷):049/100』
マジックウィンドウにはリゼが告げた魔法名が表示されていた。
(良かった……! 魔法陣の描き方、間違っていなかったみたいね。それにブリュンヒルデはやはり聖物された剣と同様の効果が!)
そしてすぐに魔法の詳細を念のため確認する。
『ウィンドウェアー 備考:風をまとうことで動きが俊敏になります。持続時間は五十秒です』
リゼは興奮して早速試してみた。
「ウィンドウェアー」
すると、リゼの体の周りに風が巻き起こった。少し走ってみると、いつもよりだいぶ素早くなっている気がした。
(最高よ。これはかなり使える魔法ね。普通には覚えられない魔法なのだけれど、色々な運が重なって習得できた。満足……!)
古代魔法の中でも初級魔法となる魔法を一つ習得したリゼ。この魔法は動きの俊敏性があがるため、戦闘では活きてくる上に、逃げるときにも使えそうだと考察した。
そして、石板を確認すると描いたはずの魔法陣が消滅していた。習得すると消えてしまうらしい。
この日は満足して眠りにつくことにした。
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