36.縁談騒動の終幕
心配するリゼとは裏腹に準備が整ったのか向き合う二人。挑発的な目つきのジェレミーとその目を真剣に見つめるエリアスという構図だ。
「ジェレミー王子、あなたのスキルは不可解な点が多い。警戒させていただきますよ」
「お手柔らかにね~」
「これは模擬戦だから三ヒットで試合終了だ。両者、準備は良いかな」
両者が位置につき剣を構える。そして、ラウルの合図で試合が開始された。まずは型の打ち合いだ。
(やっぱりエルの太刀筋はすごくきれい……でも、ジェレミーも負けず劣らずすごい)
と、リゼは感動する。自分で戦っていると、ジェレミーの剣さばきが美しいか否か、なかなか必死になっているので気づかないが、外野から観戦していると実感するのだった。型の打ち合いはすぐに終わる。
すぐさま自由戦闘に移行した。両者は打ち合いの後、即座に一定の距離を取り、魔法で牽制を行う。
「ファイアボール!」
ジェレミーは無詠唱で魔法を繰り出したため、手から光線が放たれる、対して、エリアスの手からは火の玉が発射される。光線と火の玉は激しく激突し爆発する。
(ジェレミーのライトスラッシュと相殺した! あれは火属性の初級魔法、ファイアボール……! エル、いつの間にか魔法も使う方針になっていたのね。私と戦ったときは剣だけで勝負という感じだったけれど)
剣術大会のときには見せなかったエリアスの魔法に少し驚いた表情を見せるジェレミーは拍手しながら尋ねる。
「へ~、まさか魔法を使ってくるとはね。一ヒットはいただくつもりだったんだけどなぁ」
「僕もここ数日間、遊んでいたわけではないですからね」
魔法による牽制は不可能と判断したのか、両者が素早く間合いを詰める。すぐに型の応酬、攻防が繰り広げられる。しかし、ジェレミーのスキルが炸裂する。
「ソードフェイカー」
ジェレミーのスキルにより攻撃がヒットする。
「なるほど。だいたい動きは分かりました。行きます」
ソードフェイカーがヒットした影響でノックバックし、少し後方に押し出されていたエルがジェレミーに向かい突き進んでいく。迫る速度を抑えようとするジェレミーと、攻撃が当たればチャンスが生まれるエリアスがまた同時に魔法を発動する。
「ファイアボール!」
先ほどと同じように魔法が相殺し、お互いにダメージはない。距離をつめていたエルが素早く下から切りつける。ジェレミーは攻撃を受け流すと体勢の崩れたエルに対して剣を振り下ろす。
エルは剣では受けずに体を使ってギリギリかわし、叫ぶ。
「四連斬り!」
「ソードフェイカー」
エリアスのスキルが発動し、素早く四連続で斬りつける動作に入る。ジェレミーもスキルを発動したのだが、お互いのスキルが一回ずつ当たったことになっていた。
(えっ、なぜ相殺されたの……?)
エリアスの魔法石は残数が一となる。
「くっ……ヒットを受けましたか…………」
「あれ、僕も一ヒット受けてることになっているなぁ。あえてみんなには秘密にしていたんだけど、攻撃系スキルを相手が打って来た場合、無効化して相手の剣の動きを止めて一方的に攻撃するはずなのになぁ」
(今なんて? ソードフェイカーって攻撃系のスキルにも使えるのね……。本当にチート級の強さ。となると、四連斬りに対してソードフェイカーを発動した場合、相手の効果を無効にして確実に攻撃を当てられるはず。でもジェレミーは一ヒットを受けているみたい。ソードフェイカーはもしかしたら、無効化できる数に上限がある? つまり三回分の攻撃は無効にできるけれど、許容数を超えた一打はヒットした?)
リゼはいま目の前で起きたことを頭の中で整理する。
「ほらほら、行くよ~」
ジェレミーはすかさず攻撃に出る。一方、エルは必死に防ぐ。剣術レベルにほとんど差がないのでお互いのヒットをなかなか許さない。このままでは埒が明かないと判断したのか、一旦攻撃をやめてバックステップで距離を置くジェレミーだ。二人は魔法で攻撃を行う。
「ファイアボール!」
魔法は今回も相殺される。無詠唱でも手を突き出すことから、相手が魔法を発動すると分かるため、相殺させるのは難しくはない。
(ジェレミーはソードフェイカーの再実行までの時間稼ぎかな……あと一回攻撃を当てれば勝利だから……)
「四連斬りの再実行時間って、もしかして結構長いのかな~?」
「よくわかりましたね……」
「僕って結構、勘が良いんだよね~」
「おそらくこの試合が決まるまでにはもう出せないでしょうね」
ジェレミーは四連斬りのデメリットに気づいていたようだ。エリアスは図星であったのか、手短に答える。
「じゃあ僕の勝ちかなぁ」
「ここからは通常の型をうまく使ってヒットできるように頑張りますよ」
その瞬間、エルはジェレミーに素早く突き進む。さっきよりも速い。そして素早く手をジェレミーに向ける。ジェレミーは相殺させようと素早くライトスラッシュを放ってくる。
エリアスは魔法は発動せずに光線をサイドステップでかわすとジェレミーに向け剣で突く。
しかし、ジェレミーは読んでいたようで体を反らしてかわすと、剣を振り下ろす。
「ディフェンスソード!」
「なに!?」
突き攻撃を仕掛けたため、体のバランスを崩していたエリアスだが、スキルでジェレミーの剣を弾き返した。
「ファイアボール!」
動揺するジェレミーに対してエルは素早く魔法を詠唱し、火の玉がジェレミーに当たる。そしてエリアスは体制を整えると距離を置く。お互いに魔法石の残数は一だ。
「……おや、いまのは汎用スキルのディフェンスソードか」
「えぇ。隠し玉は用意しておくものですよ」
「いいね。防御は大事だからね~」
「行きます」
一気に間合いを詰めると攻防が繰り広げられる。エリアスはソードフェイカーを警戒しているのか、踏み込みはせずにジェレミーの剣をさばいている。
しかし、気づけば場外負けになりそうなところまで追い詰められていた。
「やっと気づいたようだね?」
「仕方ない!」
エリアスは一か八かにうって出る。剣をジェレミーへと投げつけた。ジェレミーは驚いて目を見開くと剣を軽く打ち上げた。
「ファイアボール!」
すかさずエリアスは魔法を詠唱し、ジェレミーへと火の玉が迫る。しかし、ジェレミーは空中に打ち上げたエリアスの剣を掴むと火の玉を切り裂いた。
「ソードフェイカー」
もはやエルに防ぐ手立てはなく三ヒット目となり、試合終了となる。二人は礼をする。エリアスは悔しさをあわらにする。
「負けました、ジェレミー王子」
「最後のは驚いたよ。でも、短剣を投げつけてくるパターンもあると近衛騎士に聞いていたから、なんとかなったね」
「すごいじゃないかエリアス殿。ジェレミー王子のスキルは強すぎるからヒットしてしまうのは仕方ないにしても、二ヒットも与えたんだ。誇って良いと思う」
ラウルがそう言うと、エリアスは頭を横にふる。
「負けは負けですよ。でも、得るものもありました。スキルは魔法と同じで効果をあげていけますので、再実行時間を短縮できればと」
「お二人とも、お疲れ様でした。参考になりました」
リゼは拍手した。ラウルやアイシャもつられて拍手を行う。
(最後に剣を投げつけたエリアスの攻撃。あれは予想外で私だったら剣を避けるのに必死でその後の魔法にうまく対処できたか分からない……参考になった)
「皆さん、今日はありがとうございました。リゼ、これから強くなれるように訓練しておきますので、今度試合をしましょう」
「はい。私も練習しないと置いていかれそうなので頑張ります」
勝負とは奥が深いものだと改めて実感した彼女は、練習へのやる気があがるのだった。
「あと、ちょくちょく手紙を書きますね。返事をもらえると嬉しいです。それに、剣術大会でまた会えるのを楽しみにしています。剣術大会で王都に来たら今回みたいにしばらく滞在します。それからたまに勉強で煮詰まったら気分転換も兼ねて訪ねてくるかもしれないので……その時は二人で散歩の続きを出来ると嬉しいです」
「……分かりました。あの、縁談のこと、申し訳ありませんでした……」
「気にしていないので大丈夫です。逆にすんなりと話が進むよりも、燃えてくるものです」
エリアスは頑張るつもりのようだ。その気持ちがよくわからないリゼは苦笑することしか出来ない。ジェレミーは眉を顰め、ラウルは(なるほどね)といった面持ちで見守っている。
「そういうものですか……」
「そういうものですよ。では。失礼します。お見送りは大丈夫ですよ」
「ありがとうございました」
エリアスは子爵たちと玄関で落ち合い、領地に向けて帰っていくのだった。初めての縁談はなんとかリゼの願い通りに破談となり幕を閉じた。学園入学後に告白すると宣言したエリアスとそれを聞いた仲間たち。それぞれ思うところがあったというのは間違いない。
「それでリゼ、学園入学後に告白されたらどうするつもりなのかな~?」
「まだその話を引っ張りますか……どうもこうもその時になってみないと分からないですね。それにエルが他の方のことが好きになるということもあるかもしれませんし、いえ、その確率がきっと高いです……! あ、そういえば王妃様に話をしておいてくださいね?」
「難しいかもなぁ」
「お願いですからね? 話をしていただくまで、ずっと確認します!」
ひとまず、周りの縁談話にけりをつけるため、ジェレミーにも念を押すリゼであった。王子の相手など、絶対に避けなければならない。
「今後、こういう縁談話みたいな事が結構起きそうな気がするね?」
「ラウル様、不穏な発言はやめてください!」
「気をつけたほうが良いんじゃないかな~」
ラウルとジェレミーはからかい気味にそう言うが、彼女としてはスキルのレベリング、日々の練習、魔法の解明に集中したいというのが本音だ。しかし、避けようと考えていたにも関わらず、攻略キャラから好かれてしまった。とはいえ、良い点もある。エリアスは王国貴族として生きることに決めたようで、エリアスの独立戦争は彼と子爵の心境の変化によって、回避できたのかもしれない。リゼとしては今後も友人として見守っていくつもりだ。
それからしばらく、魔法に剣術、授業をこなし、はたまたルーン文字で書かれた書物を読み、いつも通りの日常を過ごしていた。
そんなある日のこと、リゼは伯爵夫人に呼び出されていた。
「リゼ、あなた宛よ。バルニエ公爵令嬢からのお茶会のお誘いみたいね」
「え、バルニエ公爵令嬢、ですか……?」
「ほら、これよ」
「……そう、みたいですね」
「参加するの?」
(エリアナからの招待状……参加しないと絶対に目をつけられるよね……いや、すでに目をつけられているのだけれど……)
「行かないとまずいですよね……行こうかなと思います」
「そう。今回はお茶会だけみたいだから緊張せずに楽しんでいらっしゃい」
「はい……」
忘れた頃にやってきたエリアナからのお茶会のお誘い。一体何が待ち受けているのか。
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