35.譲れない戦い
エリアスから散歩の提案を受け、承諾したリゼ。
しばらくランドル伯爵家の庭園を散歩し、ベンチに座ることにする。
(それにしても攻略キャラのエルとこうして仲良く散歩しているという状況、まずい方向に向かっているのよね……。エルは攻略キャラの中でも戦争ルートということで、完全に危険な存在に分類されるし……でもいまのエルは〈知識〉とは完全に別人にも見える。剣術友達という位置づけのいま、エルが〈知識〉のようにこじらせないように友人として見守る……という方がよいかな? 問題なのは明らかに私に好意を持ってくれているみたいだけれど、でも、レイラが出てきたらきっと惚れ直すでしょうし、それまではひとまずはこのまま見守りましょう……!)
庭園のベンチに座り、そんなことを考えていると、エリアスが何気ない口調で聞いてくる。
「そういえばですよ、リゼ」
「何でしょう?」
「剣術大会に一緒に来ていた方は誰なのでしょうか。確かバヤール=ボワデフル、ボワデフル男爵令息という名前だったような、お友達ですかね? 随分と仲良しでしたけど」
「そうですね……友人です」
ジェレミーの正体がバレるのはまずいと考えたリゼは、ごまかすようにそう答える。流石にジェレミーとの関係はあまり人には言わない方がよいだろう。相手は王子であるし、ランドル伯爵家はルイ派貴族であるためだ。
「彼とリゼの決勝戦は観戦していましたが、よく分からなくて困りましたよ」
「と、言いますと?」
決勝戦を思い返し、何か分からないポイントがあったかどうか考え込む。エリアスは疑問点を口にしてくる。
「リゼの風魔法ありましたよね、僕にも使ってきていたあれです」
「ウィンドプロテクションですね」
「そうです、ウィンドプロテクションを発動していたので、防げているように見えたのですが魔法石へのダメージは入っていましたから。どういう原理なのかなと思っていたんです」
リゼは「あれですか……」と、前置きをしつつ、答える。
「あれは………………私からはなんとも説明が難しいので、彼と対戦したときに聞いていただければと思います」
「分かりました。こっそり聞いたらフェアではないですしね」
そんな二人に話しかけてきた人物がいる。ちょうど話題にしていた人物だ。
「こんにちは~」
「リゼにエリアス殿、失礼。お邪魔をして申し訳ない」
エリアスに対しての警戒心を隠すことなく試すような声音で挨拶をするジェレミーと、貴族らしく律儀に礼をするラウルだ。リゼは驚いて、ベンチから立ち上がる。
「あれ、ふたりともなぜここに? 部屋で待っているという話では……」
「リゼ? こちらの方々は誰でしょうか……?」
「あ、えっと、友人です」
突然の来訪者に驚くのはエリアスだ。リゼは友人であることを説明する。
「どうもはじめまして、この国の王子、ジェレミー=エクトル・ゼフティアだよ。よろしくね、エル?」
「王子……、失礼しました。エリアス・カルポリーニと申します。お見知りおきを。失礼ながら……エルという呼び名をご存知なのですね?」
「ふ~ん、気づかないものなんだね~」
相手が王子だと知ってさらに驚くエリアスは、礼儀正しく挨拶をするが、愛称を知られていることに驚きを隠せない。ジェレミーと会った記憶などないのだから当然か。
「ジェレミー王子、そこはあとで説明したほうが良さそうだ。僕はラウル=ロタール・ドレ。エリアス殿、いきなり話しかけて申し訳ない」
「いえいえ、とんでもないです。ラウル殿。エリアス・カルポリーニと申します」
ラウルが挨拶を終える。気になっていたのか、すぐに確認をしてくるのはジェレミーだ。
「それでリゼさ~、縁談は?」
「本人たちの前でそれを聞きますか……お断りしましたよ」
「なるほどね。当然だよね。あれ、そのペンダント、付けてくれているんだね?」
「あ、はい……そうですね…………」
自分がプレゼントしたことをわざと分からせるように話すジェレミーに、エリアスは眉をひそめる。ジェレミーはというと、笑顔でエリアスを見つめている。エリアスはジェレミーにリゼとの関係性について確認することにしたようだ。
「失礼ながらジェレミー王子はリゼのご友人ということで良いんですよね?」
「どうかなぁ」
「友人です。友人以外の何ものでもないです」
リゼは即座に友人以外の可能性を否定する。エリアスに勘違いをされて気分を害されては困るのだ。実際、友人以外の関係性になった記憶もない。確かに王妃よりジェレミーの相手としてリゼはどうかという話があがったこともあった。しかし、その話はジェレミーに拒否してもらうことになっていて解決済みのはずだ。
「ひどいなぁ。母上の説得はまだ終わってないからさ~」
「え……? そこはお願いします……きちんと話してくださいね? 解決済だと思っていました……」
リゼは想定外で驚いてしまう。そんなリゼを見ながらエリアスが口を開いた。
「一応、宣言させてもらっても良いでしょうか? 縁談は破断になりましたが、学園入学後に告白しますとリゼに伝えたところです」
ジェレミーはその話を聞くと、試すような口調で呟く。いつの間にか二人は対峙して険悪な雰囲気になりつつある。
「えっと、エルはリゼのどんなところに惹かれたのかな?」
「細かい話を沢山しても良いのですが、端的に言いますと全てです。全て好きです。一番は優しさですね」
「そんなに付き合いも長くないのにすべてを知った気になっているのかぁ。すごいな~」
幸いにも低い声で話したこともあり、ジェレミーの不穏な発言はエリアスには聞こえていなかったようだ。リゼにはバッチリ聞こえており、戦争ルートにつながるおそれがあるエリアスとジェレミーの間がこじれることを恐れ、素早く間に入る。
「あー、あ、そういえば! 今後も剣術大会で顔を合わせるメンバーですよね! 仲良くしましょう?」
「ジェレミー王子も剣術大会に参加されているのですか? ラウル殿も? 中級クラスなのでしょうか、それとも上級クラス……」
「いつまでも気づかなさそうだから教えてあげるね? 僕がバヤール=ボワデフルだよ。あれは変装していたってわけ」
「そうでしたか……」
「つまり強さ的には、僕、リゼ、エルの順番になるわけだね~。ラウルとは本気で戦ったことがないからわからないけどね」
相変わらず挑発的なジェレミーの口ぶりに、喧嘩を売られているとそろそろ気づかないわけがないエリアスもにこやかな笑顔で口を開く。
「確かにジェレミー王子、あなたは強かったです。まさかあんな剣術の使い手だとは思いませんでした。ですが、その強さ順になるかは分かりませんよ」
「ん~?」
「僕があなたに勝つという可能性もあるかと思います。可能性というものは何にでも言えることですけど、0パーセントということはほとんどないわけですから、リゼが学園で僕の告白を受け入れてくれるかもしれない可能性と同じく、あなたに勝つ可能性もあるはずです」
エリアスはそこまで言い切るとジェレミーの反応を待つようだ。
(エル……流石は攻略キャラね。恋愛関連の話を何かと挟み込んでくるし、グイグイと来る……)
少しジェレミーは黙っていた。エリアスのイメージが剣術大会で見た時とはだいぶ異なっているので少し驚いているのかもしれない。
それから「なるほどね」と呟き、さらに言葉を続ける。
「大きく出たね~。でもそれはどうかなぁ」
「ちょうどポケットに模擬戦用の魔法石が2つあるのですが、どうでしょう。僕と一試合しませんか」
「準備が良いなぁ。もしかしたらリゼとまた戦ってみるつもりだったとか?」
取り出された魔法石を見つめながら、ジェレミーが言った。元々の予定を見破られたエリアスは素直に認める。
「元々はそうでした。かっこ良いところを見せたかったので」
「ふ~ん。でも僕に負けたらかっこ悪くない?」
「確かにかっこ悪いかもしれません。ですが、学園入学までの三年の間に訓練してより強くなって告白するので問題ありませんよ。それに簡単には負けません。ご心配ありがとうございます。リゼになんとしても認めてもらうように努力していきますよ。自信もあります」
学園での告白を何かと持ち出すエリアスに対して、少し思うところがあるジェレミーは深くため息をつく。
「は~………………そう。じゃあやろうか」
「いや、あの待ってください。喧嘩みたいになっていませんよね?」
「リゼ、きっと彼らは男同士で確かめたいこともあるんだろう……見守るしかないよ」
「そうは言っても…………」
あたふたとするリゼをよそに、バチバチと見つめあうエリアスとジェレミーの二人。(どうしてこんなことに……)と、リゼは溜息をつく。
「審判は僕が務めよう。場所は練習場で良いかな。十分後に始めることで良いかな?」
ひたすらにあたふたするリゼを静止しつつ、ラウルが審判をかって出る。ジェレミーとエリアスは頷くと、ラウルに続いて練習場を目指す。アイシャは「きっと大丈夫ですよ」と、リゼに声をかけるのだった。しかし、それでも心配であるリゼは練習場に到着し、準備を始める二人に目を向けつつ、ラウルに話しかける。
「ラウル様、本当に大丈夫でしょうか……? なんとなくジェレミーがエルに突っかかっているような気がして」
「彼らも剣術大会の参加者だ。ルールは守るさ。それに実力者同士の試合は面白いと思わない?」
「それは、たしかに気にはなりますね……でも……」
(なぜか二人が試合をすることになってしまったけれど、あの二人は防御魔法を覚えていないから打ち合いになるはず。どう戦うのかな……)
何を言っても試合は中止にならないと理解したリゼは、仕方ないため、試合を観戦することにするのだった。
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