32.期待と提案

 リゼの攻撃用スキルを習得するという目標宣言にラウルたちは賛成してくれる。


「良いと思うよ。僕もジェレミー王子も一個スキルを使える状態だからリゼが習得すれば模擬戦も良い相乗効果を得られるはずだ」

「スキル習得ってとにかく聖遺物ダンジョンで書物を手に入れるか、汎用スキルの書物を図書館で読むか、お店で購入するしかないと思いますのでアイシャと共にどうするか検討してみます。聖遺物ダンジョンの場合は手伝っていただいても良いですか?」

「もちろん大丈夫だよ」

「いけるよ~。あ、そういえばスキルの書物ではなくて悪いんだけどさ、これあげるよ」


 ジェレミーはポケットからペンダントを取り出すと、リゼに渡すのだった。青い宝石に、金の装飾、金のチェーンというペンダントだ。どこからどう見ても高価そうな代物で、さらに突然のプレゼントに驚いてしまう。


「え、これは……? ペンダントですか?」

「これ、すごくてさ~、このペンダントには剣が収納されていてね、いつでも出し入れが可能だったりする代物だよ」

「聞いたことがないですが……すごいです!」

「持ち主をリゼにセットしておいたから、頭の中で念じれば剣が出るよ。これを持っていればいつ攻撃されても安心でしょう~。いつでも帯剣出来るわけではないから、安心感が増すんじゃない?」


 リゼの不安を払拭ふっしょくできるものがないか、探しておいてくれたジェレミーなのだった。早速、首にかけてみる。これは非常に嬉しいプレゼントとなる。ポイント交換ではこのようなアイテムはなかったが、実のところまさにこういう護身用の何かが欲しかったのだ。


「ありがとうございます! 生活の安心感が増しますね……」

「マナを無力化する結界、つまり魔法が使えない状況でも無視して剣を出せるから常に持っておくと良いよ~」

「そうします!」


 青い宝石はサファイアでもなく、特殊な宝石で出来ているようで、金のチェーンはジェレミーいわく、剣を叩きつけても切れないらしい。そんな説明を聞いたラウルは疑問を口にする。


「ジェレミー王子、結構すごい代物のようだけど、これはどこで? それになぜ唐突にプレゼントを? まさか縁談の話がきっかけか?」

「それは王宮の……入手経緯は秘密かなぁ。それに、良い推理をするじゃないか」


 おそらく何かすごい代物だろうと察したラウルはこれ以上追求するのをやめることにする。こういう代物が置いてあるのは宝物庫しかないというのは誰もが百も承知だ。リゼはというと自分の世界に入り込んでいた。このペンダントはすごく嬉しいものだ。誰もペンダントに武器を隠してあるとは思わないだろうし、仮にどこかに閉じ込められたりしても抜け出すために使える。


「まあいいが…………それはそうと、カルポリーニ子爵令息と会うのは二日後だったかな」

「あ、はい、そうです……」

「母上に聞いてみたけど、ジェレミー派でもルイ派でもない中立派みたいだね。王位継承権問題で話を持ってきたわけではないと思うから……」

「やっぱり氷属性の件だと思いますか?」


 考えられる理由はおそらく氷属性なのだろうと考えるリゼはそう口にする。その意見にはラウルにジェレミー、そしてアイシャも同意なのか軽く頷くのだった。


「その可能性が高いだろうね……」

「どんな話になっても断るので、私としては特に重く捉えてはいないのですが、怒らせたくはなかったりします……」

「ふ~ん、まあ逆上するようだったら消すから安心してね。すでに消し去りたいけどね」

「いやいや、そういうのはダメですよ?」


 昨日から少し攻撃的なジェレミーに念のため釘を刺すが、ジェレミーはというと笑顔で呟く。


「どうかなぁ。少なくとも僕の脳内には好ましくない人物として刻まれてしまったよね~」

「君が言うとしゃれにならないんだよ、ジェレミー王子……」

「でも本当に怒り始めたら匿っては欲しいかもですね………………」

「おやおや、王宮に部屋は沢山あるから問題ないと思うよ」


 ジェレミーは「いつでも王宮においでよ」と、喜んで提案するが、「それは注目を浴びてしまうのではないか? それなら僕の家の方が良いだろう」と、ラウルがジェレミーを落ち着かせるのだった。結局、どっちの家にも逃げないということに決まる。

 そして練習を再開するリゼたち。その後は、魔法と剣術の練習をいつも通り行い、解散となる。リゼは部屋で一人になると、試してみようと考えていたことを試すことにする。


(えっと、一応、緊急事態のときのために剣を出す練習だけはしておこうかな……。剣の名前は『レーシア』という名前らしい。レーシア、出てきて!)


 するとペンダントから白い光が放たれ、剣が出現した。剣はペンダントの前に出現し、空に浮いているため手にとってみるリゼだ。豪華なデザインで、持ち手は金色で、細かい青と赤の宝石が均等に埋め込まれており、見るからに豪華な銀色に輝く剣だ。


「これは………………高そうな剣……たぶん外見の感じから、〈知識〉にはないけれど、課金アイテム級よね? それに、見た目のわりに軽い! いいのかな……こんな高そうな剣をもらってしまって………………アイテムウィンドウで詳細を見てみましょうか」


『ハンカチ 備考:フォルチエ店のハンカチ。材質は絹』

『レーシア 備考:名匠「コルトン=シメオン・クレバリー」作の宝剣。敵対対象に攻撃する際に、体内へのダメージを相手に蓄積させる』


 リゼがアイテムウィンドウを表示すると、レーシアの詳細を確認できた。


「な、何これ! 攻撃すればするほど、微量のダメージが追加効果として入るということ? レーシア、戻って」


 リゼが言葉を発すると、ペンダントに収まるレーシアであった。念じても、口に出しても効果があるのは魔法に近いのかもしれない。


(王宮って結構課金アイテム級のスキルや武器が保管されているのかも? ジェレミーのスキル、ソードフェイカーも相当強すぎるスキルだし……。ポイント交換画面にあるスキルも強かったけれど、王宮の禁書庫や宝物庫にある代物たちはそれに匹敵する気がする。むしろそれ以上かも。使う機会がなければ良いけれど、常にこのペンダントはつけて生活することにしましょう。あ、そうそう、スキルはどうしましょうか。刺客に襲われたら対抗できるようなスキルがないと確実に殺されてしまう気がする……。そういう人たちってあぶないスキル持ちでしょうし。剣術大会でジェレミーやエルのスキルを見て、スキルが思ったよりも強いと実感できたから参加して正解だったと思う。今後、定期的に喫茶店へと通って良いスキルを探しつつ、ダンジョンでも探すか、少し検討しないと)


 次の日のキュリー夫人の授業では、授業には関係のない話だがダンジョンについて質問をすることにする。


「なるほど、ダンジョンについてお知りになりたいというわけですね。ちなみに、今回も長くなりますよ? では、説明します。この世界のダンジョンは二つの種類が存在しています。一つ目は人工的に作られた固定型のダンジョンで、学園の課外授業などでも用いられます。汎用ダンジョンと呼びますね。二つ目は武器や書物など、様々な聖遺物が存在するダンジョンです。こちらは難易度の高いダンジョンであればあるほど、貴重な聖遺物が眠っていることが多く、攻略が完了されると自然消滅してしまいます。また、聖遺物ダンジョンがどこにどのように発生するかは解明されておりません。たまたま遭遇するというのがお決まりパターンとなっております。私もどうして発生するのか調べてみたことがあったのですが、答えにはたどり着きませんでした。それと、長らく攻略が完了されていない極度に難易度の高いダンジョンは消えることなくずっと残っていますが、いつの間にか誰も挑戦することがなくなり、入り口付近が観光スポットと化してしまっているパターンもあるようですよ」


 それなりにきちんと説明をしてくれるキュリー夫人だ。キュリー夫人に礼を言い、本来の授業に戻るのだった。


「さて、リゼさん。今日は少し高度な、本来は学園の授業でも生きる上でも必要のないことなのですが、あなたは魔法について詳しく知りたいようですので、特別にお教えしましょう」

「はい! 是非お願いします」


(キュリー先生は何を教えてくださるのかな?)


 内容の見当もつかないリゼはそう答えつつ、ノートの準備を行う。


「先日、無詠唱魔法について、色々とお伝えしたかと思います。では、今日はまだ解明されていない魔法についてお話しましょう。太古の昔には魔法習熟度が上がれば覚えられる魔法以外に、様々な魔法が存在しました。こちらを見てみてください。古代文字で魔術式、魔法陣が書かれていますよね。いままで研究者たちがこれらの魔法たちの解明に取り組んできましたが、ほとんど解読することは出来ませんでした」


 リゼはキュリー夫人の持つ本を見せてもらう。そこには、魔法陣が描かれていた。古代の文字らしきものがびっしりと書き込まれている。リゼは魔法陣を見て、これは……という表情を浮かべる。


「古代の魔法は遺跡などで発見されておりますが、内容を解明された数は一パーセントにも満たないのです。よって、リゼさんに一つお願いがあります。解明のために協力いただけませんか? 私もそれなりに年齢を重ねて今後は活動を行うことが難しくなりました。それに、戦争もなくとっくの昔に魔法を研究する機関も消滅したことで、誰も魔法の解明を行えなくなってきているのです。なので、こんなことを頼んでしまって申し訳ないのですが、どうでしょう? なお、当時の機関が保管していた書物などは私の屋敷にありますので、全てお渡しします。リゼさん、あなたの熱意を見込んでのお願いです」


 リゼは当然受けることにする。何と言っても魔法陣を見てから一つ気づいたことがあるためだ。


「是非、やらせてください。ちなみにキュリー先生は、まだ解明されていない魔法はどのようなものがあるとお考えですか?」

「あくまでも持論ですよ。いいえ、妄想と言っても良いかもしれません。おそらくは、ですが……現在では考えられないようなマナの使い方、応用がなされているのではないかと思います……」


 キュリー夫人は、確実な話ではないため、控えめにそう答える。


(魔法の解明で、より便利な魔法を詠唱できるようになれば、当然生き延びるための手助けになるはず。キュリー先生は理論を重視する方。ある程度の確証めいたものがなければ、こういった発言にはならないはず……強力な使われなくなった魔法が存在するのかも。よし、やってやろうじゃない!)


 リゼは古代文字、つまりルーン文字で描かれた魔法陣を見つめつつ、やる気を出した。

 スキルを習得しており、文字を読むことが出来るので解明が可能かもしれない。

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