30.突然の連絡

 ジェレミー派の話し合いが行われていたその頃、リゼはというと、例の喫茶店に来店していた。


「そういえば、お嬢様。あることに気づいてしまったんですよ」

「え、な、なに……?」


 喫茶店でポイントの交換画面を見ようとしていた矢先のことだったので、動揺してしまう。アイシャはステータスウィンドウを表示すると、リゼに共有してくる。ステータスウィンドウに目を向ける。


【名前】アイシャ・アレグリア

【性別】女

【年齢】十五才

【レベル】3

【職業】ランドル伯爵家メイド

【属性】土属性

【称号】なし

【加護】土の加護

【スキル】なし

【状態】健康

【所持金】4600000エレス


「見てください! この【加護】のところなんですよ。いままで気づかなかったのですが、『土の加護』っていうのがついてるんです。お嬢様には風の加護や氷の加護ってついていらっしゃいますか?」

「私は……今のところは付いてないけれど……おめでとう! 加護はそう簡単につくことはないから、すごいことじゃない」


 リゼがアイシャに加護を付与したのだが、気づかれないように話をうまくあわせておく。


「これは、耐性や威力が上がるらしいので、サンドシールドが壊れにくくなったのはこの加護の影響もあるかもしれませんね!」

「ということはきっと、攻撃魔法を覚えたらかなり威力が増すと思う。楽しみね」


 アイシャは一通り興奮すると静かに土属性の本を読み始めたので、リゼは交換画面を開く。


(さて! 今日も順番に見ていきましょうか)


【属性交換画面】こちらは属性交換画面です。ポイントを消費して属性を得ることが可能です。

【雷属性】200000000

【聖属性】5000000000


(うん。属性はとくに必要ないというか、そもそもポイントが足りない。えっと……次は【アイテム交換画面】を見てみましょう)


【アイテム交換画面】こちらはアイテム交換画面です。ポイントを消費してお好きなアイテムを獲得することが出来ます。

【魔法ポイント(大)】1000000

【スキルポイント(大)】1000000

【ニーズヘッグのお守り】5000000

【転移石】50000000 (限定1組)


 アイテム交換画面は少し変化があった。世界樹の葉や上級ポーションが選べなくなっている。しかし、新たなアイテムも追加されていた。


『ニーズヘッグのお守り 備考:蛇や竜系のモンスターから受けるダメージを低減させます』


(あ~、これはダンジョンでは役に立つかもしれない。ダンジョンにいつ潜るかと言われるとまだまだ先のことだと思うけれど)


 続いて【その他の交換画面】も確認してみたが特に変化はなかった。

 よって、今回の主目的であるスキルを見てみる。


【スキル交換画面】こちらはスキル交換画面です。ポイントを消費してお好きなスキルを獲得することが出来ます。

【レイン・ショット(ランス)】100000000

【アブソルーテリー・シールド(シールド)】250000000

【衝撃耐性】5000000

【八連斬り(ソード)】10000000

【デタランスソード(ソード)】8000000


 リゼはスキル交換画面を見て新しい項目が増えていることに気づく。攻撃用のスキルもあるようだ。その追加されたスキルに視線を集中させる。


『衝撃耐性 備考:体に衝撃を受けた際に、ダメージを軽減します。 ※育成型のスキルです』

『八連斬り(ソード) 備考:瞬時に八回攻撃をヒットさせます』

『デタランスソード(ソード) 備考:相手の攻撃やスキルを受け止め、その場に相手を拘束させます。拘束時間は七秒間です』


(衝撃耐性。これって、どういうことなのかな。突き落とされてしまったり、武器で攻撃されたときに体が受けるダメージを軽減できる……ということ? あ! そういえば、耐性シリーズについて思い出してきた。毒耐性、衝撃耐性、呪い耐性、麻痺耐性、睡眠耐性とか色々とあった。何かと便利なスキルなのに加護と同じように常時発動出来るから買っておくことにしましょう。さて、剣のスキルは……二つね。八連斬りはエルが使ってきたスキルの上位互換で剣術大会向きね。デタランスソードは……アイスレイでなんとかなるから……。ひとまずスキルは保留にして、【加護交換画面】を見てみましょう)


 スキルは思っていたような強力な攻撃用スキルがないため、ひとまずは保留することにした。ジェレミーが使ってきたスキルのような強さを求めているためだ。

 続いて、加護の交換画面を表示させた。


【加護交換画面】こちらは加護交換画面です。ポイントを消費してお好きな加護を獲得することが出来ます。

【風の加護】1000000


 リゼとしては欲しかった加護の一つであり、確実に手に入れることにした。そして、あることに気づいた。新しいタブが追加されているのだ。早速、開いてみることにした。


【魔法交換画面】こちらは魔法交換画面です。ポイントを消費してお好きな魔法を獲得することが出来ます。

【ライトニングトルネード(光)】8000000


 詳細を確認すると、上級魔法らしい。武の神ラグナルの加護により、異なる属性の魔法を二つまでは覚えられるため、少し考え込む。


(うーん。属性交換画面で仮に光属性などの基本属性が今後追加されたとしたら、ラグナル様の加護を無駄に消費することになってしまう。もう少し様子見ね。攻撃系スキルも私が求めるようなスキルはないから、今回は衝撃耐性を交換しておきましょう。あとは加護ね)


 リゼはその後、家に戻ると、ステータスウィンドウを確認しておく。


【名前】リゼ=プリムローズ・ランドル

【性別】女

【年齢】十二才

【レベル】5

【職業】伯爵令嬢

【属性】風属性、氷属性

【称号】なし

【加護】大地の神ルークの祝福(小)、芸術の神ミカルの祝福(小)、武の神ラグナルの祝福(大)、水の加護、土の加護、風の加護

【スキル】ルーン解読(固有)、毒耐性(レベル1)、衝撃耐性(レベル1)

【状態】健康

【所持金】120000エレス

【ポイント】119810000

【メッセージ】「ニーズヘッグのお守りを獲得しました、衝撃耐性(レベル1)を獲得しました、風の加護を獲得しました」


(我ながら充実したステータスになってきた。攻撃スキルがないのが玉に瑕だけれど……。衝撃耐性ってどういう効果なのかな)


 リゼは床に使っていない絨毯を引くと、試しに背中から倒れ、受け身をとる。倒れた後に起き上がるが、効果を実感することは出来なかった。死にはしないでしょう……と、思いつつ、さらにはしたない行為であるとは思いつつも、ベッドに上がり後ろから落ちてみる。当然受け身をとるが、思っていたよりも衝撃がないことに気づく。すかさず【メッセージ】を読んでみる。


【メッセージ】「衝撃を感知し、軽減しました(二回)」


「なるほど……! レベルを上げていけば強い衝撃もクッションのように和らげてくれるのかもしれない。ということは、こうして落ちるのが日課になるのよね。ジャガイモの芽を食べるのと同じで……怪しい行動に変わりないから見られないようにしないと……」


 なお、『ニーズヘッグのお守り』は小さい竜が掘ってある宝石付きのペンダントであった。これは左手に常に付けておくことにした。


 ◆


 数日後の土曜日、いつも通りリゼの家に集まる面々だ。


「結局、剣術大会は終わりましたが、ここに集まって練習する日々は続くわけですか……」

「そうだね。剣術のゴールは剣術大会への参加というわけではない。新たな目標を掲げて切磋琢磨していくのが良いと考えているよ」

「そうそう~、思ったよりもこの日々が日常になってきてしまっているからね~。いまさらやめるのは無理かなぁ」


 本日はリゼが授業で使っている部屋に集まっており、ラウルが剣術大会の戦績を黒板に書いていく。そして、一通り書き終えると、リゼたちの方に向き直る。


「君たちは初級クラスの優勝と準優勝、次からは中級クラスだ」

「あれ、そうなのですか?」

「そうだよ。準優勝のリゼも中級クラスに上がれるよ。僕も二回戦でヴァラン伯爵令息に敗れてしまったから、上級クラスに昇格は出来ず、同じく中級クラスだ。ちなみに上級クラスになると、少し上の年齢の人たち向けの剣術大会における中級クラスとして剣術大会に出ることになる」


 剣術大会のルールについておさらいした四人。上級クラスはほぼ人がおらず、大会としては人数が集まらないため、少し上の年齢のグループに参加することになる。しかし、リゼとしては模擬戦でほとんど勝ったことがないラウルと同じグループということは、優勝の確率が遠のくのも事実であり、(頑張らないといけない)と、内心で考える。ちなみにアイシャは平民も参加可能な大会があるため、そちらに出ることになるだろう。


「ラウル様も同じなのですか……私の優勝する確率、低そうですね…………あ、そういえばジェレミー」

「ん?」

「ソードフェイカーって何なのですか? あのスキルです」

「あ~、そういえば教える約束だったね。予想は?」


 少し考え込む。防御用魔法がきかないということは理解できているリゼだが、細かいスキルの内容は見当がついていなかった。


「全く見当がついていません。ウィンドプロテクションがきかないことくらいしか……」

「まあ、正解」

「えっと……?」

「防御系の魔法を無効化して必ずすり抜けて攻撃を当てるわけ」


 ジェレミーが答えを明かすと、リゼとラウルはあっと驚く。アイシャは客席から観戦しているときに見当がついていたのか、黙って見守っている。


「つまり、どんな状態でも必ず攻撃が当たるということですか? 魔法以外は……例えば、相手が盾を持っている場合もですか? 剣には?」

「流石に盾や剣をすり抜けるということはないから、使いどころが肝心なんだよね」

「なるほど……そんなにすごいスキル、どうしたのですか…………?」

「え、王宮の禁書庫で手に入れたに決まってるじゃないか」


 軽い口調で禁書庫で入手したと言ってきたが、そんなことが許されるのかとリゼは驚くしかない。ラウルは「まったくジェレミー王子は……」と、首を振る。


「え、え! それって入って良いところなのですか?」

「まあ、時と場合によるんじゃないかなぁ」

「もうこれ以上は聞かないでおきますね……」


 予想外のレアスキルをしれっと入手したジェレミーは、今後も予想外のことを繰り返すだろう。禁書庫に入れる権利を持つ、そういうところは、流石は王子なのだと実感する。リゼもある意味で神々の加護により、交換画面を見れることから、禁書庫に出入りしているのとほとんど同義ではあるのだが。


(ソードフェイカー、そういう効果だったのね、〈知識〉では出てこなかったレアスキルね。交換画面にあったデタランスソードでソードフェイカーを無力化出来そう。確かスキル効果を無効化してその場で動けなくさせるという感じだったから。今度交換しましょう!)


「ジェレミー王子、そこまでして剣術を極めたいと考えたわけか、それとも良いところを見せたかったのかどっちなんだい?」

「好きに受け取ればよいよ」

「なるほどね……」


 ラウルとジェレミーが話をしている間にリゼは、その隙に浮かんだ質問をジェレミーに聞くことにする。スキルの再発動時間、つまりクールタイムについてだ。


「ジェレミーの熱心さ加減には感心しますが、ソードフェイカーのクールタイムは何秒ですか……!」

「それは秘密~」


 そんな話をしていると、屋敷のメイドがやってきてアイシャに耳打ちする。アイシャは意外そうな顔をしてメイドを下がらせると、リゼに向き直って言いにくそうに伝える。その様子を見ていたリゼたちは何事かとアイシャの話を待つ。


「お、お嬢様……! 実は……大変です。いますぐ御主人様のお部屋へ参りましょう」

「どうしたの、アイシャ? 何事?」

「あの……言いにくいのですが、お嬢様に縁談の申込みが…………」

「え………………」


 完全に予想外の展開であったのか、リゼは言葉を失う。もちろん事情を知るアイシャも困り顔だ。

 ラウルとジェレミーはなぜか怒り心頭のようで顔を見合わせる。


「アイシャさん、それは一体誰だ!」

「リゼが縁談は受けないスタンスだって知らないやつなんじゃないのかなぁ。つまり馬鹿だね」

「あ~、名前は忘れましたが、お二人も来ていただければ分かるかと……」


 突然のことではあるが、リゼは生まれて初めて縁談の申込みを受けたのだった。

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