22.剣術を学ぶ意義と目標

 四人は練習場へと戻ると、ラウルの説明に集中する。


「さて、まずは剣術を学ぶ意義について話をさせてくれ。なぜ貴族が剣術を学ぶのか、それは嗜みという側面もあるが、いざ戦争になったら国王の招集に従い、貴族も戦争に赴くことになるからだ。基本的に戦闘で用いられる剣のさばき方は三十の型に落とし込まれて今に伝わっている。つまり、型をマスターしておけば、いざ戦闘になったときにもある程度は戦うことが出来るということだ。戦わずして殺されるというのはとても不名誉なことなので、貴族は型を必ず習うことになる。といっても数百年は大きな戦争が起きていないので、もっぱら役に立つことはないよ。一部の剣術に興味がある者は剣術大会やダンジョンでの戦闘で活かしているけどね。ここまでは大丈夫かな?」

「大丈夫です」


 リゼたちはラウルの説明を聞いてうなずく。ジェレミーは知っていたのか、うんうんと頷いているが、リゼとアイシャは必死に聞いている。伯爵家の騎士からも聞かされていない話だ。


「あー、でも学園に入学すると学内の剣術大会や少しだけ聖遺物ダンジョンではなく、汎用ダンジョンの授業があるね。戦争なんて起こらないだろうから、学園での授業のために剣術が必要になってくることになるね。ただし、ダンジョンでの戦闘というのは学園の課外授業で少し出てくるかどうかというところだから、あまり気にしなくても大丈夫だ。しかし、剣術大会はそれなりに参加することになるからこっちのほうが重要だね。剣術大会について簡単に説明しておこう。剣術大会は、まず一~三十の型を使って十回ほど打ち合う。攻撃と防御を順番に行い、瞬時に相手の型を見極めて適切な型を用いて防御をするということになる。例えば、型一と型二は対になっていてそれぞれが攻撃、防御と決められている。相手が型一で攻めてきたのに型四で防御を行うとルール違反で敗北となる。そして、十回ほどの打ち合いが成功したら魔法やスキルありの自由戦闘となる。この自由戦闘はどの型を使っても問題がない。理解できたかな?」


リゼは疑問に思ったことを口にする。


「理解しました。ですが、なぜ型を使って十回ほど最初に打ち合うのですか?」

「そこは貴族のマナーみたいなものかな。それに昔は打ち合いだけで勝敗を決めていたらしいよ。その名残で歴史を重んじて未だに残っているのかもしれない」

「そうなのですね……思っていたよりも重要な、歴史ある内容だったとは……ありがとうございました!」


 剣術を学ぶ意義についての講義を終了し、「さて」、とラウルは前置きをする。


「これから剣術について学んでいくわけだけど、目標がないとなかなか難しいと思う。なので、一ヶ月後の剣術大会にエントリーを行い、大会に向けた練習をしていきたい……みんな大丈夫かな?」


(剣術大会……実力を試すのには持ってこいよね。でも剣術大会は基本的に貴族のみしか参加できないはず。だからアイシャは……)


「アイシャは……出られないかもしれないけど、大丈夫そう?」

「私はお嬢様が勝ち進んでくれればそれで満足ですよ」

「分かった。私はそれで大丈夫です。念のため父には確認します」


 リゼはアイシャに確認を行いつつ、出場することを決める。剣術大会に出れば、少なくとも今の実力をある程度は計ることが出来るだろう。いまいる練習メンバー以外と戦うことで見えてくるものがあるかもしれないと考える。


「ふ~ん。僕は身分を偽って出るしかないかな~。ラウル的にそういう嘘みたいなこと、許せるのかな」

「む……確かに嘘は良くないがせっかく練習したのに試せる場面がないとモチベーションに関わるしね……。それに王族であるジェレミー王子が好き勝手に行動できないという立場も理解できる。だから……黙認しようと思う。それよりも、君は毎回この練習に参加するつもりかい?」

「もちろんさ。お邪魔かもしれないけど、毎回必ず絶対に参加すると思うよ~」


 ジェレミーは当然さとも言わんばかりの態度で答える。


「そうか……まあ、問題ないよ」


 昼に少し話したことで、険悪な雰囲気ではなくなったのか、ジェレミーの今後の参加を承諾するラウルであった。リゼは一点、気になることが出来たのか質問する。


「あのラウル様、その剣術大会って大きなものなのですか?」

「ん、小規模なものさ。だから目立たないので安心して」

「よかったです」


(攻略キャラたちで現段階で剣術大会に出るほど、剣術を学んでいる人はいないでしょうし、安全そうね)


 目立つこともなさそうで、さらに実力を計るには申し分がない剣術大会にリゼたちには参加するという目標が出来たのだった。

 それから四人は型の練習を夕方まで行い、今後の予定について話し合うことにする。


「さて、次の練習日についてだけど……」

「剣術大会は一ヶ月後ですよね? 出来れば土日を使って練習したいです。明日はいかがですか?」

「僕はかまわないよ。平日は厳しいのかな?」

「平日は決められた時間に決められた授業を受ける必要があるので……一応、平日は私の家の騎士と剣術の稽古もありますので型の方は日々上達すると思います。あとは空いた時間で自主練ですね」


 いつもアイシャと空いた時間に魔法の練習を行っているため、そういう時間を利用して剣術も鍛えていくしかない。なお、剣を振るだけでもポイントが入ることに気づいたリゼはやる気にあふれている。


「そうか、であれば平日に型を出来る限り身につけてもらって、土日にみっちり練習しよう」


 全員が集まっての練習は土日で行うことになる。リゼは平日のキュリー夫人の授業も重要だと考えているため、安心する。そして、型の方は確実に平日の間にマスターしようと誓うのだった。

 平日の授業の話を聞き、ジェレミーが口を開く。


「あれれ」

「どうしましたか? ジェレミー?」

「昨日、適当な時間にこの家に来たけど、もしかしたら?」

「あー、そうですね。授業の途中だったので切り上げましたね……」


 悪いと思ったのか、頭を一度下げるジェレミーだ。流石にそういった常識は身に付けている。貴族には貴族のなすべきことがあり、子女であるリゼは、必要最低限の貴族として知っておくべきことを学ぶ必要があり、それを邪魔するのはよくないことだと考えたのだろう。


「なるほどね~。今後は夕食の時間以降にお邪魔することにするよ」

「それはありがたいですけれど、頻繁に来る気は変わらないのですね……」

「もちろんさ」

「そうですか……夜に練習をするのでちょうど良いかもしれませんけれど……」


 なかなかジェレミーに気に入られてしまったようだ。ジェレミーとリゼの話を聞いて口を開いたのはラウルである。


「ジェレミー王子、君はそんなにこの家に来ているのかな?」


 と、流石に気になったのか彼に問いかける。困ったやつだという表情でジェレミーを見つめている。


「んー。来たのは昨日が初めて。まあ今後は、土日は来るとして平日は二日おきくらいの頻度になると思うよ。流石にやることが沢山あるからさ」

「僕もここに来てもよいとリゼからパーティーの日に言われているからね。ジェレミー王子を監視する意味でも出来る限り来るとしよう」

「監視って失礼だな~。仲良く話しているだけなのに」


 なんだかんだいって、打ち解けつつあるジェレミーとラウル。その後、二人を見送り、夕食で伯爵たちに本日の出来事を報告し、私室に戻ってくるリゼとアイシャだ。すると、アイシャが安堵の声を漏らす。


「お嬢様、私は安心しました」

「え、なにが?」

「メイドの私がこんなことを言って良いか分かりませんが」

「話してみて」


 なんだろう、と気になるリゼ。アイシャはというと、一呼吸置いてから話し始める。


「いままでのお嬢様はどう見ても箱入り娘という感じで。あと……お友達もいませんでしたし、大丈夫かと密かに心配していたんですよ」

「そうだったのね……?」


 まさかそんな心配をされていたとは……と、驚いてしまう。

 が、確かに交友関係は少なく、いや、おらず。さらに、あまり外にアクティブに出かけるタイプではなかったなと振り返る。


「はい。話し相手といえば、旦那様、奥様、私の三人が中心でしたからね。それが今となっては同世代のお友達も出来て、魔法に剣術と熱心に取り組まれて輝いていますよ」

「確かにいま生活が充実しているかも。目立ちたくないということに変化はないけれど、いま出来ることを精一杯やっているという気はしていて」

「そうですよね。私もわずかながらそのお手伝いができて嬉しい限りです」

「いつもありがとう、アイシャ」


(確かにいままでの私は、アイシャと雑談したり、庭を散歩したり、本を読んだり、家族でたまにどこかに出かけるくらいしか……してなかった。アイシャには心配かけてしまったよね。何かに打ち込んだこともなかったから、いま人生としては充実しているかも。この調子で頑張らなきゃ)


 リゼは日記を開き、今日のことを記していく。

 そして一ヶ月後の剣術大会の目標を書き込む。

 出るなら目標は優勝だ。

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