20.練習、顔合わせ

若干緊張気味の報告となったが、ラウルはジェレミーの来訪の件はとくに問題なく納得してくれた。

そして彼は意識を切り替えて、練習に関する話題を振ってくる。


「さて、彼を待つ? 先に始める?」

「そうですね、ゆっくりお話しするのはお昼にでも。いつ来るかは言っていませんでしたので、練習場で先に始めておきましょう。今日は魔法と剣術、どちらを先にやりますか?」

「そうだなぁ。午前中は魔法にしよう。といっても、魔法は僕がリゼに教えてもらう立場なんだけどね」


 ラウルがウインクしてくる。美形にウインクされたら普通は感じるものがあるはずだが、リゼとしてはそれどころではなく、練習の方が重要だ。


「きっとラウル様なら少し練習すればすぐにマスターしてしまうかと思います。頑張りましょう!」

「ははは、そうだと良いなぁ。リゼの指導にかかっているよ」


 話はそこそこに、ラウルとリゼ、アイシャは練習場に向かう。アイシャがジェレミーのことは練習場に案内するようにメイドに伝えたようだ。本来は出迎えしたほうが礼儀としては正しいのかもしれないが、いつやってくるか分からないため、ラウルと話し合った結果、メイドに任せることにした。

 

 それから敷地内にある練習場へとやってくる。ずっと使われていなかったのか、それなりに傷みがある。しかし、掃除はメイドたちが行ったのか、きれいな状態となっていた。なお、練習場は二つあり、屋外をベースとした一つは常に騎士が使っているため、古く誰も使わなくなった屋内タイプの練習場を使えることになっていた。

 練習場は模擬戦用のフィールドもあり、魔法を吸収する鉱石を等間隔にはめ込むことで、魔法で床や壁、天井が壊れたりしないような作りになっている。

 壁際には模擬用の木で出来た剣がいくつか用意されていた。

 簡単に施設を案内すると、いよいよ魔法の練習を始めることに。


「ラウル様は魔法の詠唱をしたことはありますか?」

「一度もないんだ。だから初歩的なところからお願いしたい」

「分かりました。まず、ラウル様は光属性ということで、現時点で使える魔法はライトスラッシュという魔法です。これはマジックウィンドウで確認可能です。ライトスラッシュはいまから私がお見せするスノースピアという魔法と同じ原理です。手を向けた方向に光線を飛ばす魔法ですね。それでは見ていてくださいね」

「了解。魔法は両親の詠唱を数回見たことがある程度で、あまり目にする機会がなかったから楽しみだよ」


(初級魔法の初期魔法は必ず誰もが習得済だから、ラウル様もきっとうまくいくはず。アイシャも出来たし、きっと大丈夫。ひとまずは、お手本ね)


「――スノースピア!」


 リゼの手から氷の粒が噴射される。エアースピアを併用しなくても、それなりの飛距離が出せている。これは毎日の練習の成果だろうか。鉱石は魔法を吸収し、色が少し変わった。


「おお。すごい」

「今お見せしたのは氷の粒なのですが、ライトスラッシュは光線になります。えっと、マジックウィンドウを開けますか?」

「ちょっと待ってね」


 ラウルはマジックウィンドウを開くと共有し、リゼにも見えるようにしてくれる。


【属性熟練度】

『光属性(初級):0000/1000』


【魔法および魔法熟練度】

『ライトスラッシュ(光):000/100』 


 ライトスラッシュという表示を確認できた。これなら、習得済であるためきっと魔法の詠唱は成功するだろう。通常は、一度でも詠唱すれば熟練度が「1」にはなる。魔法に興味がなかったのか、いままで一度も詠唱したことがないという話は本当のようだ。


「バッチリです! ライトスラッシュを覚えていらっしゃいますね。まずは魔法を発動してみましょう。手を発動したい方向に向けて、魔法の名前を口に出すことで魔法が発動します」


 ラウルは頷き、手を前方に向けた。そして集中する。リゼたちは固唾かたずを飲んで見守る。


「ライトスラッシュ!」


 ラウルの手から光線が射出される。といってもまだ初めての詠唱、ほぼ目の前に落ちる。だが、初めて魔法を発動したラウルは感動の声を上げた。


「おお! 出来た!」

「バッチリです!」

「これが魔法……父上や母上の魔法を何度か見たことがあったけど、自分で出すと感動するね……。もっと難しいものかと思ったけど、一発でできるなんて!」

「すごいですラウル様、やっぱりできましたね! あとは飛距離を伸ばすために繰り返し発動しましょう! 発動すればするほど、飛距離は伸びていきますよ!」

「ありがとう! 頑張るよ!」


 リゼの興奮気味の応援を受け、ラウルはやる気を出したようだ。それから数回、ライトスラッシュを発動し、喜びを爆発させる。リゼはと言うと、ライトスラッシュの飛距離をメモしていた。成長を実感するには計測が不可欠だからだ。アイシャは光属性魔法を見るのが初めてでだいぶ興奮しているようで、三人で盛り上がる。

 その瞬間のことだ。


「やってる、やってるね~」


 背後から声がする。いつの間にかジェレミーが練習場へとやってきていた。ジェレミーはラウルを見つめながら、おや、君も居たんだね、とでも言いたげな表情をしている。


「む、ジェレミー王子……」

「おやおや、ラウルじゃないか。数日ぶりだね。僕のことを覚えてくれたみたいで嬉しいなぁ」

「あ、あの!」


 少しの沈黙の後、ラウルが口を開きかけたので、危険な空気を察知してリゼは会話を遮断する。


「どうしたのリゼ、慌てふためいて」

「別に慌てていません。今日はアイシャも含めて四人で魔法や剣術の練習をするわけですし、自己紹介しておきませんか?」


 彼女の提案を良しと考えたのか、まずジェレミーが手を上げつつ発言する。


「いいよ。じゃあ僕から。今更かもしれないけど、ジェレミー=エクトル・ゼフティア。十二歳。この国の王子さ。魔法は光属性だからかなり珍しいだろうね~。そしてリゼの魔法友達でもあるよ。よろしくね~」


 最後の方はラウルを見つめながら魔法友達というところを強調していたが、ラウルは反応せずに無視した。リゼがラウルを見ると、お先にどうぞと合図をしてくる。彼女は頷き自己紹介をする。


「あ、ジェレミー、自己紹介ありがとうございます! えーっと、では次は私ですね。その次にラウル様、最後にアイシャという順でお願いします。私はリゼ=プリムローズ・ランドル。魔法は風と氷です。十二歳です。趣味は魔法について知ること、疑問を解消していくことです。剣術も頑張ろうと思っています。そして、出来る限り目立たずに長生きするのが夢です」

「ぷぷぷ。おっと失礼。リゼが相変わらず訳の分からないことを言い出すからさぁ。そういえば、庭園でアジサイの葉を――」

「次はラウル様、お願いします」


 リゼはジェレミーを無視しつつ、話を遮断して話を進める。


「僕を無視するとは図太くなってきたなぁ」

「……僕はラウル=ロタール・ドレ。十二歳だから君たちと同じだね。得意なことは剣術、魔法は光属性だ。魔法については初心者なので、これから頑張っていきたい。よろしく」

「あれ、ラウルも光属性なのか。君に対して少し親近感が湧いたよ」

「それはありがとう。僕としてはリゼにひどいことをしなければ君と事を起こすつもりはない。これからよろしくジェレミー王子」


 ラウルの発言を聞き、おや、と驚いた様子を見せ、挑発気味に発言する。


「ふ~ん、過保護すぎるのもどうなのかな~。だいたい君はリゼの何なのかな、例のお披露目会ではダンスのパートナーだったようだけど。まさかとは思うけど……」

「ん?」


 状況を察したアイシャはすぐさま自己紹介を始める。


「えー、僭越せんえつながら私も自己紹介させていただきますね。私はリゼお嬢様の専属メイドのアイシャです。お嬢様よりも三歳年上ですので現在十五歳です。平民ですので魔法の属性は土です。サンドシールドくらいしかまだ使えませんし、皆様とお話するのも本来失礼に値してしまうかもしれませんが、どうぞ宜しくお願いします」

「よろしくね~」

「アイシャさん、身分など気にせず共に切磋琢磨していこう」

「自己紹介も済んだことですし、喧嘩をせずに仲良く練習しましょうね? 絶対に喧嘩はダメですからね? 午前中は魔法、午後は剣術の練習です。魔法は……発動自体は皆さん出来るようになっていますので、あとは試行回数を増やして効果を高めていきます。各自練習にしましょう。測定は各自で行ってあとで見せ合うということで。何かあったら意見交換ということでお願いします」


(よし、少し不穏な空気になったけれど、アイシャがうまくかぶせてくれたから助かった……。ジェレミーはきっと大人しくしようとしているのよね……? 噂を聞く限り、もっと問題児のはずだから我慢しているのかも。それでも挑発的な発言は少なからずある……でも、ラウル様が大人びているからなんとか最悪な事態にはなっていない……)


 ラウルとジェレミーが顔を合わせるのは今日でニ回目。不穏な空気の中では落ち着いて練習をしていられないので、出来る限り仲良くして欲しいと心の中で願うリゼであった。


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