14.波乱と決意
ラウルも唖然として状況を見守っていたが、リゼの求めにうなずき、ジェレミーに向き合う。
「ジェレミー王子、先程は失礼しました。しかし、リゼは僕のパートナーですし、これから一曲踊ろうとしていたところなのでお控えいただきたい」
「うるさいな君は~。君の意見は聞いてないんだけどなぁ」
「ジェレミー王子、あなたは強引すぎる。注目を浴びたくないというのが彼女の本望だ。リゼの友人だというのなら、ここは引くべきではないか? 友人を失いたくないならね」
「……ふ~ん、僕に逆らうとは君もなかなか面白いよラウル。分かった分かった、今日は降参だよ。リゼ、また近いうちに会うことになると思うからよろしくね~」
ジェレミーは庭園の時と同じようにゆっくりとした足取りで、周りの人たちに手を振りつつこの場を去っていく。リゼはあまりの出来事に意気消沈するしかない。そんなリゼを険しい表情で見つめるのはパーティー会場の参加者たち。ひときわ、ルイとエリアナは強い視線で見つめてきている。
その空気を察したラウルが助け舟を出してくれた。
「リゼ、ひとまず出よう。伯爵は……」
「あ、あぁ。参加者に説明するよ。この場を収めなくては……」
「お願いします。行こう」
リゼはラウルと足早に会場を後にする。そして、会場では密かに誰かがつぶやくのだった。
「面白い展開になってきましたね……あのジェレミーが……ふふふふふ」
パーティー会場を出て、屋敷の入口付近まで小走りでやってきた二人は少し息を整える。ラウルは申し訳無さそうにリゼに頭を下げた。
「さっきは口を挟めずに申し訳ない」
「いえ、ラウル様は守ってくださったじゃないですか!」
「彼が王子だと分かって動揺したのは事実だよ。君と彼の間に立って会話を終わらせるべきだった。しかしジェレミー王子とはどこで?」
「今日、庭園でたまたま……」
庭園でのことを思い出して、自分の頭を叩きながらそう答える。庭園での出来事だが後悔しかない。もっときちんと周りに人がいないか確認するべきだった。
ラウルはラウルで、ジェレミーのことに気づけなかったことを反省しているようだが、それは致し方ない。ジェレミーのお披露目会にはジェレミー派しか呼ばれていないだろうし、接点がなければ会うこともないのだ。会ったことがなければ顔も分からないのが広大なゼフティア王国貴族の現状だ。
近頃は大きな式典もなく顔を見たことがなかったのだろう。
そして、ラウルはもう一つ気になる点を確認してくる。
「魔法友達というのは?」
「あれはジェレミー王子が言い出したことで驚いてしまったのですが、魔法の使い方について少し話したのです」
今回のお披露目会はとにかく目立つことを避けたかったのに、完全に目立ってしまったということを自覚するリゼは、絶望した表情だ。ラウルはかわいそうだとは思いつつも、念のため忠告する。
「そうか……今日はある意味で悪目立ちしてしまったから君のことを探ろうとする連中が増えるはずだ。気をつけたほうが良い」
「やっぱりそうですよね……」
「今度の土曜日もだけど、ちょくちょく顔を出しても良いかな?」
「え、それは……はい、もちろんです。むしろお願いしたいくらいです……」
その後すぐに、伯爵が急ぎ足でリゼたちのもとへやってきた。ラウルは彼女らが馬車に乗るのを見届けてから自分の馬車へと向かっていった。馬車は素早く出発し、屋敷を目指す。
ラウルとダンスを踊っている最中はとても楽しい気分だった彼女だが、いまは何も考えられないほどに動揺していた。
「リゼ、これはまずいことになったかもしれないぞ。詳しく聞かせてくれないか?」
リゼは〈知識〉にまつわる部分以外の、氷属性を持っていることや、庭園での出来事を伯爵に話すのだった。幸いなことに、ステータスウィンドウを見せてくれとは言われなかったのが救いだ。
「そうか……氷属性なんて聞いたことがないな。まさか娘にそのようなものが備わっているとは……。しかし、リゼは風属性ではなかったかな?」
「風属性もあります。氷と風の魔法属性を持っていて同時に出せたりします……」
「ふむ。それでその場をジェレミー王子に見られたと」
「はい……」
リゼはうつむいて馬車の床を見つめるしかない。
「ルイ派にはなんとかうまく説明しておくが。しかしなぜ、ジェレミー王子がリゼに興味をいだいたのか……うーむ、氷属性を持っているからだと答えればなんとかなるか……。インパクトがあるからジェレミー王子に限らず、必然的に誰でも興味を持つだろう……これなら説得力があるか……。逆にそれ以外には思いつかないな……。氷属性の話は貴族たちにしてしまってもよいかい?」
伯爵は頭を抱えながらリゼに確認を行う。リゼはもう諦めました……と言わんばかりの表情で返答する。
「もう仕方ないです……お父様がルイ派で悪い立場にならないようにお話ください。下手に隠せばジェレミー派のスパイとか疑われるかもしれませんし……」
「その通りだ。すまないね。氷属性が珍しくてジェレミー王子が興味を惹かれているという話にしておくよ」
「わかりました。そういえばお母様は……?」
「あ、あぁ。あの場をおさめるために会場に残ってくれたよ。私もすぐに戻るつもりだ」
リゼは申し訳なさそうにうなだれるのだった。
◆
その日の夜遅く、寝付けない彼女にアイシャが付き添っていた。
「なんでこんなことになっちゃったのかな……」
と、か細い声でつぶやく。せっかく立てた目標が崩れ落ちたため、気が滅入っているのだ。それに、良くない方向に確実に近づいたはずだ。アイシャはしばらく考えた後に、優しく語りかける。
「お嬢様、起きたことを悔いても仕方がありませんし、お話を聞く限りお嬢様は何も悪いことをしておりませんよ。また喫茶店にでも行ってリフレッシュしましょう?」
「う、うん。そうね……」
(ポイントは一億ポイント弱とはいえ、まだまだある……けれど、この状況をどうにかできるスキルなんてあるわけない。まだ使い所ではないよね。今回のことで敵対する人が増えてしまったかもしれない。それならば、少しでも生きるために必要なことをしていかないと。スキルの成長や、魔法に剣術よ。思っていたよりも早かったけれど、VIP事業証明カードを有効に使うときが来たかもしれない)
一度冷静に目をつぶり、シャキッとする。いずれ、学園に入学すれば少なくとも、それなりの時間を同じクラスで過ごすことになっていたのだ。それが少し早まったと考えるしかない。くよくよしていても
「リフレッシュといえば、魔法の練習じゃない? それに今度の土曜にラウル様が剣術の稽古もしてくれるみたい」
「あー、お嬢様にとってのリフレッシュはそうですね……。それに、え、すごいじゃないですか! ラウル様が誘ってくださったのですか?」
「う、うん。そうだけれど、もちろんアイシャも参加ね?」
興奮気味にアイシャが話すため、少し驚いてしまった。
アイシャは色々と考えを巡らせたようで、気を使ってくる。
「私もですか、お嬢様……どう考えてもお邪魔では?」
「そんなことないから安心して。ラウル様も喜んでいたし」
「そ、そうですか……う~ん、本当にそうですかね……。それにしても、お嬢様はなぜ目立ちたくないんでしたっけ……?」
「えっと、そうね……できる限り静かに生きたいからかな……」
リゼは曖昧に返事をしておく。そういえば、王位継承権問題に巻き込まれたくないという話をしていたなと思い出したアイシャは納得する。その実、断罪される可能性や攻略キャラクターの周りには戦争や争いの火種が沢山あるという〈知識〉があるため、避けたいのだ。しかし、それを話せないため歯がゆい。
それから、安心させるために「もう大丈夫よ」と、アイシャに伝える。
寝る前に洗っておいたアジサイの葉を摂取してみたところ、毒レベル1であり、無事に解毒された。アイシャにはアジサイの葉を洗っているところを見つかり、「お嬢様、もしかして押し花でも作るんですか?」と聞かれたので、「趣味で集めていて」とごまかしたら笑われてしまった。
落ち着いてきたリゼはベッドに入る。
(……寝よう。今日は疲れた。でもその前に現状を整理しておきましょう。まず、メインキャラクターのルイ、そのパートナーで悪役令嬢のエリアナ、そしてその取り巻きからは目をつけられたかな……。あと、同じく攻略キャラではないけれど、重要人物であるサブキャラのジェレミーからは魔法友達? と認識されてしまった。魔法友達ってなんだろうか。友達ってことよね。唯一の救いはメインキャラでもサブキャラでもないラウル様の存在。出来る限りサブキャラを含む主要キャラとの接触を回避して、ラウル様と魔法や剣術の練習をしていきましょう……最悪のときに備えて!)
波乱のパーティーとなったその日の夜、リゼは今後の方針を改めて決意した。
波乱の幕開けだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます