5.課金アイテムと交換
エリアナのお披露目会に招待されたリゼは心の中で考える。
(行動は早ければ早い方が良い。せっかくいただいた加護を宝の持ち腐れにするのはよろしくないから)
「お父様、明日アイシャと街を見てきても良いでしょうか?」
「ん? 構わないよ。王都だから安全とはいえ、護衛はつけていかせるよ」
「わかりました。大丈夫です」
「アイシャ、頼むよ」
「かしこまりました」
リゼの専属メイド、アイシャは壁側に待機しており、伯爵に声をかけられると会釈する。
このアイシャは幼少の頃から長年、彼女にメイドとして使えてきた人物で、薄茶色の髪で、長い髪は後ろでお団子にしている。目は深い海を連想させるような青色だ。
アイシャが談話室から私室に戻る途中で行き先を確認してくる。
「お嬢様、ちなみになのですが、明日はどこに行かれるのですか?」
「ちょっと見たいお店があって」
リゼは廊下を歩きながら、考えを巡らす。
想像以上にエリアナとの接触が早まったため、早々に加護をフル活用していくことにするのだ。
(エリアナに何を言われてもなんとか出来るように強くならないと。二周目以降のハードモード周回のために使っていたあれを手に入れる……!)
サブキャラであり魔法も風属性で特徴がないリゼとしては、テコ入れを行う必要が出てくる。
(リッジファンタジアはコンシューマー向けに発売されたゲームだけれど、スマホ版アプリもすぐにリリースされて、課金アイテムを購入すると逆輸入できた。街の特定の喫茶店に入ると、交換画面を表示されるという仕様だった。ルーク様のこだわりか何かでしょう。ルーク様はチートを避けるとおっしゃっていたけれど、うまく交換できたとしたらこの時点でわりとチートよね……普通に生きていたら手に入らないでしょうし……)
「明日は喫茶店でゆっくりお茶するということで良い?」
「久々に喫茶店ですか。お供しますね」
部屋に戻ると日記を広げる。スマホ版アプリについて思い出せることをメモしておいた。
『アプリ版リッジファンタジア』
ジャンル:乙女ゲーム。パズルゲームなどのミニゲーム要素あり。
舞台 :コンシューマー版と同じ。
内容 :シナリオは基本同じで、読み進めるためには『赤ハート』が必要。ミニゲームのクリアや毎日ログインで『赤ハート』がもらえた。課金して手に入れることも可能。メイン画面でお気に入りに設定しているキャラをタップすると喋ってくれる。アクションパートはカードバトルに変更されている。ガチャで強いキャラカードを手に入れる必要があった。ハードモードがないため、特定キャラの攻略が不可。課金アイテムの交換はマップから喫茶店をタップする。この仕様は謎すぎるとSNSで話題になった。なお、交換した要素はランダムな文字列のコードを生成してコンシューマー版に逆輸入できた。
(こうして可視化してみると、随分と異なるものだったのね。そして、自分で書いておいて困るのだけれど、SNSが何かは分からない……)
そして、きちんと想定通りにポイントで交換出来るのかという緊張感を抱きつつ、眠りについた。
◆
夜が明け、朝になる。
伯爵が玄関に馬車を用意してくれており、馬車に乗る前に母である伯爵夫人に挨拶を行う。伯爵は用事があり、お見送りは伯爵夫人のみだ。
「行ってきます!」
「気をつけてね? アイシャ、目をはなさないようにしてね?」
「
少し心配そうな伯爵夫人だが、お披露目会を済ませた十二才ともなると、メイドや従者を連れて外出するのを止めるわけには行かない。
リゼは馬車に乗り込むと、手を振るのだった。御者が馬を走らせる。
「えっと、お嬢様、どのお店に向かいますか?」
「お父様にお伝えしておいたから馬車はそこに向かっていると思う。中央通りの青色のお店。アイシャも遠慮なく注文してね?」
「お心遣い感謝します。あの少し古びた感じの貫禄のあるお店ですね」
ランドル伯爵邸から目当ての喫茶店までは馬車でニ十分程度。しばらく馬車で揺られていると街が賑やかになってくる。
(思えば、あの時に絵画のことを考えなければ、前世の記憶を思い出しそうになることもなく、神々と
絵画を描く人々を眺めながら、リゼはそんなことを感じるのだった。それから、アイシャから「どのような紅茶をお飲みになりたいのですか」という話題を振られ、「ブルガテド帝国で取れる茶葉の紅茶があれば良いのだけれど。あれ、大好き」と、話をしていたらいつの間にか目当ての喫茶店に到着する。
青色を基調とした色合いの店で、少し貫禄を感じる佇まいである。
「ここね……」
「やけに緊張されておりますね?」
リゼは緊張でゴクリと喉を鳴らす。
想定通り交換画面が表示されなかった場合、エリアナのお披露目会までに行き当たりばったりで色々と試すしかない。
(ポイント――うまく使えれば良いけれど…………)
護衛の騎士は店の外で待機となり、いざ入店となる。アイシャが扉を開けて、リゼが通れるように道を開ける。
いよいよ加護の力を使う時が来た。
「いらっしゃいませ、貴族様」
「こちらはランドル伯爵令嬢様です」
「失礼しました、ランドル伯爵令嬢様。こちらへどうぞ」
初老の男性に出迎えられる。店内は歴史を感じるアンティーク品をベースに構成されており、コーヒーや紅茶の匂いが充満している。少し暗めで、落ち着ける雰囲気に調整されていた。掃除も行き届いており、小洒落た喫茶店という雰囲気の店に仕上がっている。
また、大地の神ルークの大きい絵画が飾られていた。
席に案内されメニューに目を通すが、緊張しているのでどれも同じに見えてくる。
「お嬢様、何にされますか?」
「う~ん、アイシャと同じで大丈夫」
「分かりました。ではこのブルガテド帝国産のティーセットを二つお願いします」
「
注文が完了し、リゼはアイシャから紅茶に関する豆知識を披露され、「そうなのね~」と何処吹く風で聞いていた。
それも仕方ない。もうすぐ交換画面が表示されるのか、分かるのだから。
リゼはティーセットが運ばれてきてから交換画面を出そうと決めていた。手持ち無沙汰の状態であるため、アイシャの話に相槌を打たないと怪しいからだ。
それから十分程度が経っただろうか。ティーセットが運ばれてくる。
「こちら、ティーセットがお二つになります」
ティーセットに目を向ける。運ばれてきたのはおしゃれなティーセット。クッキーが二つ添えられている。鼻をくすぐる良い香りが漂ってくる。
(いよいよね――)
リゼは目をつぶり紅茶を少し飲み、心を落ち着かせ、(ポイント使用!)と、心の中で呟いた。
――すると……リゼの目の前に交換画面が映し出される。無論、アイシャからは見えない。
(……来た! 成功! えっと、『好きなアイテム、属性、スキル、加護、その他とポイントを用いて交換してください』っと――。よし、ポイントの使い道は決まっている。〈知識〉が告げてくれている……散々、ゲームで利用したことがある……属性!)
この世界には魔法が存在する。そして、人間たち全員に、土、風、火、水、光、闇のいずれかの属性が備わっている。平民は基本的に土で、風以上が貴族となっている。父親と母親の属性のどちらかが子供に受け継がれるが、闇や光は受け継がれにくい。
また、風、火、水と順を追うごとに属性を保持している人口が減るのも特徴だ。主人公であるレイラは闇属性の持ち主でとても貴重であるため、平民ではあるが学園に特例として入学してくるのだ。
(私は風の属性が備わっていて、これは貴族の基本的な属性ね。正直、特徴はあまりなく、風属性だけでは攻撃をされたときに自分の身を守れない――ここはレベリングしていけばかなり強力な力を発揮する課金属性を手に入れて、風とのハイブリッドにするのが良いよね。よし、属性をチェック!)
課金属性は、アプリ版は簡単であるため、主にコンシューマー向けのハードモードクリアの手助けのために実装された特殊な魔法属性だ。
映し出された交換画面は各項目でタブ分けされており、目線で切り替えられるようだ。早速、属性タブに目線を向けたところ、画面が切り替わる。
【属性交換画面】こちらは属性交換画面です。ポイントを消費して属性を得ることが可能です。
【氷属性】200000000
【雷属性】200000000
【聖属性】5000000000
(よし、氷属性がある! でも……そうよね。二億ポイント。思った通り、必要なポイント数が多い。これは『何でもかんでも手に入れさせないよ』というルーク様のチート防止策のひとつなのかもしれない。あれ、それにしても雷属性と聖属性って何かな……? これらは〈知識〉を持ってしても知らない……。そういえば、ルーク様がリッジファンタジアの『続編』の話をしていたような。その『続編』に関連するもの、かな? それか、前世の私が死んでから追加された属性なのかも。でもまあ、使い慣れている氷属性一択よ。氷属性を使うと、鬼畜なハードモードもかなり楽になった。主人公のレイラは強いから主に攻略キャラを強化するのに使ったのだけれど。必要なポイントが多いし、残り一億ポイントになってしまうけれど、背に腹は代えられない。氷属性と交換実行!)
すると、一瞬、足元に魔法陣が展開される。かくしてリゼは新しい属性を身に着けた。
交換画面はステータスウィンドウなどと同じように念じれば閉じた。
(えっと、初期状態だと初級魔法が自動的に使えるようになっているはずだから、家で試してみましょう! あ、交換可能なスキル一覧とかを見るのを忘れていた……。ずっと交換画面を見続けるのも怪しいからまたの機会ね。次回は本でも持ってきて読んでるフリをしましょう。今回は突発的に思い立ったからそこまで頭が回らなかった……)
「お嬢様……?」
「ごめんなさい、聞いてなかった……」
アイシャの声にハッと我に返り、慌てて返事をする。慌てて取り繕いつつ、聞き返すことにする。
「何の話?」
「今度、バルニエ公爵のパーティーに参加されるのですよね?」
「そうね……」
招待を受けた貴族としては失礼な態度だが、少し声のトーンが落ちてしまう。
「あれ、あまり楽しみではないのですか?」
「う~ん……バルニエ公爵令嬢とはまだ一度も会ったことがないし、ちょっと緊張しているのかも。それにほら、私、お友達いないし……他に来るご令嬢たちのことも知らないし……」
「あー、いままで同世代の貴族の方と会う機会がほとんどなかったので仕方ありませんよ。今後は機会が増えていかれると思いますし、これからですよ! そうそう、何やらルイ様と婚約されるとか……私たちメイドの中でも最近はこの話ばっかりですよ。バルニエ公爵令嬢様はルイ様派閥ですし、仲良くなれると良いですね!」
「うん……」
その後、この話題に乗り気ではないことを察したアイシャが空気を読んで話を変えてくれた。紅茶のうんちくを聞いて少し頭が良くなった気がしたリゼ。なお、交換画面を見ているときに、アイシャの話を適当に聞き流していた自覚があるため、真面目に聞いて、アイシャに心の中で謝罪した。
支払いをしようとしたところ、アイシャがマネーウィンドウの操作にて一瞬で終えた。
このゼフティア王国や隣国ではマネーウィンドウによる支払いが基本であるため、硬貨や紙幣という概念がなく、キャッシュレス社会となっている。これも芸術の神ミカルが作り上げたといわれている。
帰り際にリゼはというと店内を失礼にならない程度に見渡すのであった。ルークが交換画面を開くための場所として指定したのはどういう理由があるのだろうかと考えたからだ。残念ながら大きな絵が飾ってあること以外にはルークに関連した要素を見つけることは出来なかった。
店を出るとちょうど昼過ぎで、まだまだ時間がある。
屋敷に戻ったらすぐに魔法の確認だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます