プロローグ③

 西暦二〇××年 今より約二十年前

 大規模な災害が、事件が、事故が立て続けに起きた。

 塞ぎ込む人の心を体現するように、霧が立ち込めるようになった。

 気候、地理に関係なく、決まって夜に。立ち込めるようになった。

 そしてヒトの文明は後退を始めた。

 不利益と、非合理と、無駄と切って捨てた『過去』によって。

 霧は内に怪物を飼っていた。

 妖精、UMA、妖怪、或いは精霊、天使、悪魔、或いは神。

 一時の娯楽のために使い潰すようになった、且ては畏れ、崇拝さえしていたもの。それらによく似る怪物を。

 エネルギー、物資、情報さえも『それまで』通りには行き渡らなくなり、ヒトの営みは霧と怪物によって破綻した。

 誰からともなく、厄災を齎す霧を指して『瘴汽スモッグ』と、怪物を『霧魔ナイトメア』と呼ぶようになった。

「これから」のことなどとても考えていられない。人類は如何にして「それまで」を取り戻すかに追われた。

 生態系の頂点に立ったと驕っていたいた人類に救いの手を差し伸べたものもまた『過去』、不利益と非合理と無駄だった。

 魔術、呪術に類する「儘ならぬもの」「常ならざるもの」を理解し扱う術が、瘴汽によってただの気休めから、確たる技術として息を吹き返したのである。

 人類は再び、「ありもしないもの」に縋る生活を始めた。

 魔術や呪術――総じて奇学。そしてその浸透を待たずして、更に人類は新たな変化の局面を迎える。

『知識』と『技術』ではなく、『体質』で奇跡を操る、異能者が顕れたのである。

 各国、各組織は様々な思想、思惑の元に、奇学と異能、これらを行使出来る人材の確保、育成を最優先で進めていった。

 国立対超常学園――日本国にあるこの学園も、霧魔や異能、奇学を悪用する犯罪に対処する『祓魔師』を育成するために設立された。

 半世紀以上も過去、この国は民草に殉死を義務付け、これを美徳と謳った。

 そして現代、その忌むべき『過去』の思想は再び、さも美徳であるかのように、霧と共に国中に蔓延しようとしている。

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