第6話『第二段階:ビロウ・アベレイジ間伐②』
【注意】誤解忌避のため、最初に断っておきますが、加賀倉は、『優生思想』の崇拝者ではありません。IQ120の人が社会を作る、などというのは、あくまで俗的な考えであり、明確な根拠はありません。今作で強調したいのは、仮に、そういった前提(IQ120最適知能指数説、とでも言いましょうか、が採用される空想世界)で、構成要員皆がIQ120以上の巨大集団が現れてしまったら、世の中はどうなってしまうのか、IQが低い、とされる人々は彼らに支配されてしまうのか、という、根も葉もないお話です。その点をご留意の上、お楽しみくださいませ。
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邪悪なる国家主席カタカナ・カンジーの一声で、『知能濃縮法』が施行された。
安部家全員のIQスコアはそれぞれ、長女
よって、IQ100に満たない美満のみが、西の
安部一家はもはや分断されたと思われたが……
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__ア国 くの字県 ノケモノ
安部美満は今、安部家のあった
「おい! そこの女!」
と、背後からア国軍兵士のドスの効いた声が。
美満は、ビクッ、とする元気もなく、ただ立ち止まり、無表情に、ゆっくりと振り返る。
「なんでしょうか」
美満の目にねじ込まれたのは、不必要に大きなアサルトライフルを背に担いだ、全身完全防備の黒ずくめ。目元の部分のみ、肌色が見える。
兵士はその両手に、夥しい数の名前が並んだ紙(おそらくは強制労動所への移送者名簿らしきもの)と、美満の顔写真が貼られ、ごちゃごちゃとした数値の羅列が特徴的なシート(十中八九思考力テストの履歴)を携えており、それらと美満の顔を順繰りに見て照合する。
安部美満を安部美満と同一視したようで、書類一式を荒れた道に放り捨て……
「安部美満だな?」
と言って、美満の腕をがしっと掴む。
抵抗の兆しのない美満は、
「そうですが……」
と声にならない声をか弱く発する。
兵士は一切感情のこもらない、ロボットのような無機質な声で……
「来い、お前は幸運にも国家主席に選ばれた。アノマリーズ特別措置で、三角県に移送する」
そう言うと、美満の腕をぐいと引き、労動所へと向かう
「どういうことですか、私はもう終わった存在……」
美満は音のない涙を流しながらボソリ。
兵士は、状況を飲み込めない美満に苛立ち、
「わからんのか、追加合格だと言ってるだろ! 平均以下の知能はこれだから!」
と、
——アノマリーズ特別措置。
思考力テストが弾き出した、全検査知能指数を構成する複数項目のうち、そのほとんどが平均値を下回っているものの、特定の項目が突出した者が稀に存在する。これを知能濃縮法施行下のア国では、
美満は、兵士からの蔑みに対し、
「すみません、私馬鹿なので、法律とか難しいこと、わからなくって」
と、自らへの蔑みで返す。
兵士は美満の無気力かつ自虐的態度に呆れて、
「なら馬鹿にでもわかるように説明してやろう。お前の場合、ほとんどの検査項目が平均値以下の散々な結果だが、『空間認識能力』と『空間記憶力』の指標が突出していて、『150』を超えている。これはなんらかの形で、国の役に立つだろう。まぁそれも国家主席がおっしゃっているだけだ、本当に役立つ存在なのかどうかは、三角県に行ってから証明するんだな」
と、懇切丁寧に説明してやる。
自分の置かれた状況を理解した美満は、ほのかに口角を上げ……
「そうですか。よかった……フフフ」
と呟き、眼前の、断頭台へ向かう烏合の衆の流れを、細く開いた冷笑的な目で見送るのだった。
〈第7話『第三段階:アベレイジ・オア・アバブ倍増化計画』へ続く〉
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