第4話『第一段階:人口倍増化政策③』

【注意】誤解忌避のため、最初に断っておきますが、加賀倉は、『優生思想』の崇拝者ではありません。IQ120の人が社会を作る、などというのは、あくまで俗的な考えであり、明確な根拠はありません。今作で強調したいのは、仮に、そういった前提(IQ120最適知能指数説、とでも言いましょうか、が採用される空想世界)で、構成要員皆がIQ120以上の巨大集団が現れてしまったら、世の中はどうなってしまうのか、IQが低い、とされる人々は彼らに支配されてしまうのか、という、根も葉もないお話です。その点をご留意の上、お楽しみくださいませ。



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 二十年後。


 ア国では、人口倍増化政策の結果、人口が激増していた。


 少子化気味だったあ国に、今では子供が溢れかえっている。


 この調子だと、人口倍増を達成する日も近いだろう。



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__ア国 くの字県 真中町まなかまち 安部家の自宅__


 安部夫妻には、第二子頼貴よりたかが生まれていた。


 これも、手厚い子育て支援のおかげだ。


 頼高は現在十八歳。


 彼の学業での成績はそこそこ良く、既に大学受験を終えており、地方公立大学への入学を控えている。


 長女の美満みまも高校は出たが、学力の不足から大学進学はせず、今や社会人になって八年目に入っている。


「頼高はすごいね、公立大学に受かっちゃうなんて。私は学校の勉強はさっぱりだったから」

 と、弟を褒めつつ自虐する美満。


「まぁね。でも、ねぇちゃんだって、イラストレーターの仕事、すごいじゃん? お勉強が全てじゃないよ」

 と、実力を認めつつ姉へのフォローも欠かさない頼高。


「ありがと! あ、これは自慢になっちゃうけど、この前は政府案件の、『国民よ、賢くあれ。そして、強くあれ』っていう標語のポスター作成依頼が来たのよ!」


「へぇ……その案件、あっちの方ははずむの?」


「まぁねぇ♪」


 二人の会話に、母以千代いちよが割り込む。


「美満みたいに手に職つけた方が、この先はいいかもしれないわね」


「どうして?」

 と、母に教えを請う頼高。


「だって、広く、浅くできる人は代わりが多いと言うし、特定の分野に特化した人の方が重宝されるんじゃない?」


「そっかぁ」


「頼高も、大学に通う中で、何かやりたいことが見つかるといいわね。ここのところ、ア国とイ国の関係も、かなり不味くなってきたみたいだから、仕事選びは大事よ……」


 そう。


 喜ばしくも人口が激増する裏で、恐ろしくも、ア国と、隣国イ国は、もはや一触即発の状況にあった。


 毎日のように、ア国国防省が国民に向けて、来るべき有事への備えを呼びかけていた。


 依然鎖国が続き、イ国からの情報は全く入ってこないが、とにかく、政府はそのように言っている。


 そして、ア国の東側である三角みかど県の東端、つまり、イ国との国境の手前側には、二国を分断する巨大な壁が建設されていた。


 壁は、有事の際に、イ国軍の進軍を妨害するためのものだという。



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 数ヶ月後。


 ア国政府は、ア国とイ国の関係はもはや、開戦前夜の状態であると、宣言した。


 いつ、イ国が攻撃を仕掛けてくるか分からないと言うことで、戦争に備え、『非常事大権』が発動された。


 非常事大権により、法の作成・発布・施行プロセスが簡素化され、国家主席のあらゆる権限が強化される。


 そんな中、ア国の人口が、ちょうど二十年前の人口倍増化政策開始時の『倍』に到達した。


 ア国民たちは皆、政策目標の達成に、歓喜した。


 そしてどういうことか……


 イ国との国境のみならず、第一次産業の中心くの字県と、都市部の三角みかど県の間に、突如として分厚い壁が築かれた。


〈第5話『第二段階:ビロウ・アベレイジ間伐①』へ続く〉

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