第3話『第一段階:人口倍増化政策②』
【注意】誤解忌避のため、最初に断っておきますが、加賀倉は、『優生思想』の崇拝者ではありません。IQ120の人が社会を作る、などというのは、あくまで俗的な考えであり、明確な根拠はありません。今作で強調したいのは、仮に、そういった前提(IQ120最適知能指数説、とでも言いましょうか、が採用される空想世界)で、構成要員皆がIQ120以上の巨大集団が現れてしまったら、世の中はどうなってしまうのか、IQが低い、とされる人々は彼らに支配されてしまうのか、という、根も葉もないお話です。その点をご留意の上、お楽しみくださいませ。
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「ねぇ、あなた聞いた? 『思考力テスト』ってやつ。今度美満が小学校で受けるみたい」
と、以千代。
人口倍増化政策が始まると同時に、ア国は自国民に向けて、国民の思考力を測る、『思考力テスト』なるものを定期的に実施するようになった。
「あれだろう? 『国民よ、賢くあれ』ってスローガン。思考力テスト……教育の一環だろうか? 政府は相当力が入っているみたいだな、ア国に生まれて本当に良かった!」
と、ア国政府のやり方に大満足な零士。
「本当に、あなたの言うとおりよ。至れり尽くせり。でも、私たちも受けなくちゃならないのは、ちょっと面倒ね」
と、以千代は少し不満がある様子。
「そうだなぁ。ま、いいんじゃないのか? お国の人は、僕たち大人に対しても、脳が衰えないようにって気を利かせているんだろうよ」
「そうだといいけど、なんだかちょっと、変な感じもするわ……」
と、以千代はささやかながらも、漠然とした懸念を抱えている。
そう。
不思議なことに、その『思考力テスト』とやらは、教育を受けている途中の若者のみならず、大人も含め、全ての国民に対して行われた。
「なぁ、以千代。初回の『思考力テスト』までに、美満に、『ひらがな練習帳』を買ってやらないか?」
と、零士。
「そうねぇ。周りのお友達はもう漢字を習い始めたって子も多いけど、美満、ひらがなもまだ読めないものね。数字も苦手だし……」
と、娘の知能発達の遅れを気にする以千代。
話していた二人の元に、美満が元気よく走ってくる。
「ぱぱままみてー! みま、すうじかけたよー!」
「おっ、偉いな美満! 見せてくれるか?」
と、零士。
「うん! はい、どーじょ!」
美満は、クレヨンまみれの画用紙を、零士に渡す。
「どれどれ……」
白地の画用紙には、赤いクレヨンを使って、得も言われぬ奇抜な書体で……
『99』
と、書かれていた。
〈第4話『第一段階:人口倍増化政策③』へ続く〉
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