タイムマシン 下
暗い倉庫の中、俺とブラウン先輩は息ぴったりに驚いた。
「えっ、タイムトラベルができないってどういうことですか?!タイムマシンなのに!タイムトラベルができないとは?!」
「そうなんだよ、タイムトラベルは不可能なんだ。そもそもねぇ、時間というのはエネルギーの付随現象でしかないのだよ」
「付随現象?」
「そう!エネルギーによるね!パラパラ漫画で考えてみるとわかりやすい。まず、パラパラ漫画というのは何枚も絵を重ねてできるものだろ?」
「はい」
「じゃあ、もしそれがたった一枚の静止画だったら?その状態でいくら長い時間放置したって静止画であることには変わりないよね?」
「当たり前じゃないですか」
「じゃあ、パラパラ漫画はどうだろう?さっき言ったとおりパラパラ漫画は静止画の重ね物だ。パラパラ漫画を成立させるには、指でページを捲る必要があるよね?じゃあ例えば捲るというエネルギーを何枚も重なった静止画に与えてみたらどうなる?」
「そりゃ、パラパラ漫画ですよ」
「そう!だけどそれは何枚も重なった静止画にエネルギーを与えた結果であって、もしそれにエネルギーを与えなければ何枚も重なった静止画であることに変わりはない。つまり静止画にエネルギーを与えることでその静止画には時間が生まれパラパラ漫画になるんだよ」
「えっと、つまりは時間があるから現象があるのではなく。現象があるから時間があるということですか?」
「さすがブラウン!大正解!だからそもそも時間の構造が明らかになっても現象に関する秘密は何も隠されていない。過ぎたものは過ぎたもの、未来のことは未来のこと。つまり時間というのはエネルギーの流れでしかないということだ」
「はあ、なるほど。確かにタイムマシンは時間が現象の上にあることを前提に作られていますよね」
「言われてみれば確かに、、、」
「だがしかし!もしもの話しだが。この理論が間違っていたとして、実際時間が現象の上にあったとしても(どう考えてもないのだが)矛盾だらけなんだ。二人は縁起という言葉を知っているか?」
「仏教の釈迦がこの世の構造として語った言葉ですよね、簡潔にいえばこの世は関係でできいると」
「ベイリー君大正解!そのとおり!もしかして仏教徒だったりする!?」
「違いますよ」
「縁起とは関係。つまりこの世は関係で成立しているという論理だ、〇〇があったから〇〇が起きる例外はこの世のはじまりぐらいしかない。例えば時間軸の移動だと考えた場合ある人が時間移動ホールみたいのに入って時間を巻き戻したとするだろ?そうすると時間は元に戻るから物質だって元に戻る、そうすると例えばその人が地面に足跡を付けたとするとその人は時間軸にいないから時間軸を巻き戻してもその足跡は残る。だけどその足跡は数週間前にはないわけだ、だけどその足跡は残る。実はこれでパラドックスが起きる、時間軸の移動だったら足跡は残らないはずだがその足跡を残した人物がいなきゃ足跡は残り続ける。つまり足跡が過去になかったとするとその人のために夕食を準備している奥さんもいない訳だし、その人を産んだお母さんやお父さんもいない、更には先祖もいないことにしなくてはいけない。それによって最終的には宇宙がなかったことにならなくてはいけないんだ」
「バタフライエフェクトみたいなものですか」
「まあ、似てるけど正確にはやっぱり縁起だ。だからそもそも時間軸の移動というのは成立するはずがない。つまりどちらにせよ過ぎたものは仕方ないし、未来の物は待つしかないということ。結論!タイムトラベルは不可能!」
「なるほど理由は理解できましたが、ならばタイムマシンという物もないということじゃないですか?」
「ベイリー君、そこで思考を止めてしまうのは我ら科学部の部員がすることではない」
「なら一体どうやって?」
「簡単だよ、それと同じ現象を作ってしまえばいいだけだ」
「現象を作る?タイムトラベルをですか?」
「そう!現実では不可能だとしても人間にそうさせることは可能なのだ」
「はい?つまりどういうことですか?」
「つまり勘違いさせるってことじゃないか?」
「いや、勘違いなどそんな簡単なことはしない!私は理想高き科学部部長スタニスワフ・レム!そんな妥協を許すはずがない!」
「いや、どういうことだよ」
(ブラウン先輩が真面目にツッコンだ!?)
「い、いやだけど本当にどういうことですか?タイムトラベルが不可能なのに」
「フッフッフ、人間が現実を認識するのは単なる五感だ。じゃあ!つまり!!この五感を作ってしまえばいい!!!」
「て、言うかそろそろ電気つけてくれませんか?つけないなら私がスマホでつけますよ」
「まてまて、すぐ説明する。つまりこの機械はエネルギーを観測及び予測する装置なんだ。まずコンピュータはこの地球の情報を全て記憶するんだ。それは原子のレベルまでね」
「なんだかすごいですね!」
(急に食いついたな)
「で、そうしたあとにそのデータを基にコンピュータがこの世の物質現象の根源から現在の地球に至るまでのシュミレーション、まあつまり予測をさせるわけだ」
「つまり過去の可能性を予測されるんだな」
「そう!それで、その後はある程度情報を打ち込んで行きたい場所や年月日などを特定してその中から選択する。この機械はできる限りの可能性を全てシュミレーションしているからどれだけ絞っても選択肢は多いが、基本的にある程度情報を打ち込んだ物だったらあまり大差ない物だと思ってくれていい。そして最後に選択まで終えたら後はコンピュータがどうやってその状況を生み出すかを考案及び実行することで(コンピュータは原子の位置及び配置をシュミレーションしているにすぎないので)あら不思議!過去にタイムトラベル大成功!というわけだ」
「なんだかもはやよくわかりませんが、とりあえず電気つけましょう。さあレム先輩!」
「なんかワクワクしてきた」
「おうよ!」
カチ
レム先輩が懐中電灯をつけた瞬間倉庫中が光に包まれ、コンピュータが姿を現した。
「うおっ、すごいなこりゃ」
「レム先輩!これからどうするんですか?」
「あれ?起動した瞬間、地球の現在が記憶されるからモニターにその様子が映るはずなんだけど、、、おかしいなぁ」
レム先輩は真っ黒な正四角形の画面を見つめた後に周りを見渡すと急にピンときた様な顔をした。
「あっ、なんか水漏れてる」
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