第43話
俺がソフィアの方に手を差し出すと、彼女はしばらく俺の手を見てこちらを見てきた。
怯えていたような顔から、きょとんとしたような顔へ……そして今は、凄い嬉しそうに。
なんだよ、その表情は。
そんな反応はまったく予想していなかったので、俺は少し照れてしまう。
「……今は、学校の行事よ? 周りに見られたら、なんて言われるか分からないわよ?」
「別に……暗くてよく見えないと思うよ」
俺がそう言うと、「それもそうね」とソフィアは嬉しそうに俺の手を握ってきた。
……以前手を触れ合わせたときよりもいくらか温度は冷たい。
恐怖なのか、この山の森の中という気温故かは分からない。
ただ、俺の手の熱を確かめるように繋いできたソフィアの手をぎゅっと掴む。
そうしていると、ソフィアは指を交差させるように手を繋いでくる。いわゆる、恋人繋ぎ、という奴だ。
ドキリとさせられてそちらをみると、ソフィアはいつものようにイタズラっぽく笑う。
「……婚約者同士、この方がいいでしょ?」
……そう笑った彼女は、すっかりいつもの調子であったが。
どこからか聞こえた鳥か何かの鳴き声が響くと、びくっと背筋を伸ばし、顔を青ざめさせる。
……いつものようでいつも通りではないソフィアに俺は自然と笑みが溢れてしまい、それを馬鹿にされたと勘違いしたのか、ソフィアは頬を膨らませた。
俺たちは折り返し地点まで共に歩いていた。
……途中、生徒たちのライトがみえたところで手を離すなどはしたけど、基本的にずっと繋いで歩いて行った。
そのおかげか、途中怯えた様子を見せながらもソフィアは無事ゴールすることができ、俺たちはキャンプファイアーが設置されている広場まで戻ってくることができた。
班の中では、俺たちが一番乗りのようだ。まだ、本庄たちの姿はない。
「……まあ、子供騙しよね」
そういったソフィアだが、その子供騙しに何度か悲鳴をあげていたのは誰だろうか。
それを指摘すると、何倍にもなって返ってくるので俺は何も言わずにそのまま頷いておいた。
「何よ、その顔は」
……表情に、出てしまう癖は治さないとな。
俺たちはしばらくキャンプファイアーの火を灯すところで、様子を見ていた。
本庄たちが戻ってきて、それから少し遅れて高崎たちも到着した。
……高崎と久喜は妙に顔が赤い。出発した時と比べて明らかに様子がおかしい。
どうしたのだろうか? そんなことを考えていると、キャンプファイアーへの点火が始まり、ダンスのための音楽が流れていく。
花火なども用意しているようで、それぞれがそれぞれのやりたいことをしていっていた。
お祭り騒ぎ、という感じだ。
そんな中、高崎と久喜はキャンプファイアーの方へと歩き出し、その手を掴んだ。
お互いに顔を見合わせ、どこか照れ臭そうな様子で。
おお……まじか。
誘ったのは、さっきの肝試しの時だろうか? 二人はどうやら一緒にダンスを楽しむようだ。
本庄と戸塚はそれぞれ出そうになった声を誤魔化していた。
本庄は咳払いで、戸塚がニヤニヤとした笑みを浮かべた後、口元を手で押さえる。
「誘った、みたいね」
「だな」
どこかぎこちなさの残るまま、恥ずかしそうに周りに合わせて踊り始める二人。
……その姿は、とても輝いている。
……二人とも、凄いよな。
「うわぁ……青春してるなぁ、キラキラしてるなぁ」
その様子を眺めているだけで、戸塚は楽しそうだった。
気持ちは分からないでもない。あそこまで幸せそうなオーラを出している二人からは、きっと何か体にいい成分が生み出されているだろう。
「どっちから言ったたと思う?」
「高崎じゃねぇかな? あいつ、結構しっかり言うときは言うしな」
本庄も戸塚も、まるで親が子を見るかのような態度で眺めている。
「でも、久喜もかなり芯のある子だし……二人とも同じタイミングで切り出そうとしていたとかはあるかもねぇ」
……確かに、戸塚のいう場面は想像できてしまった。
そして、お互いに相手の意見を優先しようとしている姿までも幻視してしまい、俺は思わず口元が緩んでしまった。
きっと、どっちかが先に言ったとしても、その後でもう一人が気持ちを伝えていたはずだ。
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