第42話



「確かにそうだねぇ。それじゃあ、あーしは本庄かな? 高崎の心にいる子ってあーしじゃないんでしょ?」

「え、うん」


 あっさりと返答され、少し落ち込んだ様子の戸塚。


「それなら、あーしは本庄と行って、本庄でもドキドキさせようかなって思って」

「なんでだよ」

「ほら、心の人がいないならあーしを好きになる可能性もあるっしょ?」

「オレの心弄んでどうするつもりだよ?」

「告白してきたら、ウンスタにでもあげよっかなって」

「最低だなおい! ……まあ、オレとしても久喜と一緒に行って、周りに変な誤解させたくねぇしな。」


 本音かどうかはともかくとして、とりあえず理由としてはまあ通ったようだ。

 高崎と久喜は「え? え?」と驚いている。


「高崎くんと久喜さんはそれでいい? ……二人も好きな人がいるわけで、周りに誤解されるのが嫌というのであれば、全員で動いてもいいと思うけど」


 これはソフィアからの最終確認だ。

 ソフィアの提案自体はまったく問題がない。あとは、ここで高崎と久喜がどんな判断をするか、だ。


 ソフィアの言葉を聞いた高崎は、しばらく迷うような素振りを見せていたが……強く頷いた。


「……僕は……それでいいよ」

「……私も、大丈夫です」


 それは高崎だけではなく、久喜もそうだった。

 ちょうど、俺たちのクラスの番となり、俺たちはバラバラのコースを歩いて行った。

 ……どう、なるんだろうな。


 俺たちは受け取っていたライトを使って、道を照らす。

 街灯一つとないこの森は、想像以上に暗い。月明かりが照らしてくれるのは本当に些細なものだ。


 こういった山には慣れているほうだし、今はライトがあるだけ随分とマシだ。

 それでも、渡されたライトでは、この暗闇の中を照らすには少し心許ないようで同じようにライトを持っていたソフィアが照らす光は、揺れていた。


「……」

「……ソフィア?」

「な、なに!? お化けがいたとかそういう話じゃないわよね!?」


 驚いた様子で声を上げるソフィアに、俺は苦笑を返す。

 ……ソフィアは、かなりこういったのが苦手なようだ。


「いや、そこに道順を示す看板があるみたいだ」

「……え? きゃああ!?」


 一応、道順は示されている。木にかけられた恐怖を煽るかのような看板たちがそれだ。

 ……俺としてはそこまで怖くはないのだが、ソフィアはその看板に書かれた血糊か絵の具で書かれた赤い文字にも怯えているようだ。


 普段は威風堂々としている彼女が今はそれほどまでに怯えているため、少し面白い。

 そんなソフィアの悲鳴を聞いてか、近くにいるであろう人たちが悲鳴をあげる。


「きゃ!?」


 その悲鳴にまたソフィアは驚く……という、なんともエコノミックな悲鳴の連鎖に笑いそうになっていると、ぷるぷると震えた怒り顔でこちらを睨んでくる。

 俺は何もしていない。……そんなに、表情に出てしまっていただろうか?


「……優人。笑ってない?」

「……笑って、ない」

「こっちをちゃんと見なさい」


 ……すまん。

 でも、ぷるぷると涙目で震えるソフィアはいつもと違って面白くもあったが、可愛くもあり……直視できない理由も一つではないというのを分かってほしいところだ。


 ソフィアはまだ怯えているようで、このままだとなかなか前に進まないだろう。


「厳しいなら、途中で引き返すか?」


 ……別にこの肝試しはあくまでレクリエーションの一つであり、教師もちゃんとゴールまで見張っているわけではない。

 本当に無理な生徒がいれば途中で放棄して引き返してしまっても問題はないだろう。


 しかし、その言葉はまずかったようで、ソフィアの負けず嫌いに火をつけてしまった。


「……絶対、途中でなんて引き返さないわ」


 ……ぼそりと呟くように放たれた言葉に、俺は諦めるしかない。

 それならば、別の提案をするしかないだろう。少し、恥ずかしかったけど……俺はソフィアに手を差し出した。


「手を、繋いでいくか?」

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