第40話



 ていうか、一応なのは間違いないだろう。


「……まあ、な。結局、どうなるかは分からないし」


 ……それはそうだろう。


 さっき、ソフィアが話した内容からして、彼女の心には今も初恋の人がいるわけなんだし。


「婚約者、っていってもそんな感じなのか」

「んじゃあ、道明寺自身はどう? 好きな人っていない感じ?」


 好きな人、か。

 ……正直な話をすると、よく分からなかった。


 気になる相手というのが今までにいなかった、というか……知らないうちに人を好きになってしまっていたのかもしれないが、俺は先に「自分には無理だ」という考えがずっとあったわけで、それ以上先に進もうとしたことは一度もなかった。


 だから、知らないうちに恋をして、知らないうちに失恋をしていたんだと思う。


「好きな人は……ぶっちゃけると、あんまりよく分からないんだ。でも――」


 でも、今間違いなく分かっていることは一つある。

 ソフィアと一緒にいると、楽しい。


 ……それは紛れもない事実であり、ここで何も分からない、で終わらせてしまってはせっかく皆が話しているのに空気を悪くしてしまうかもしれないだろう。

 だから俺は、言葉を続ける。


「一緒にいても沈黙が苦にならなくて……一緒にいて楽しい人っていうのはいる。……もしかしたら、その人のことが……好き、なのかもな」


 ……今はそれが、ソフィアだった。まだ、明確にこの感情の答えは出せない。

 そんな気持ちでソフィアをチラと見ると、彼女は……なんだか悔しそうな表情を浮かべていた。


 ……どういった感情なのだろうか? 俺がここで彼女のことを話してしまったのが、まずかったのだろうか?


「うーん……難しいって感じだな」

「まあでも、しっかり青春していけたらいいって感じじゃん。んじゃあ――」


 ……ともかく、これで俺たち全員の話は終わった。

 最後は、久喜だ。


「最後は久喜だね!」


 じっと戸塚が久喜に視線を向ける。もちろん流れとしては当然なのだが、久喜は緊張した様子だ。


「わ、私ですか……?」

「好きな人がいればその話でもいいし、付き合ってる人がいるならそれでもオッケー。あっ、婚約者ももちろんね」


 おいおい戸塚。

 高崎の顔がどんどん絶望に染まっていくから余計なことはあんまり言わないでやってくれ。


「……す、好きな人」

「あっ、別にそれが嫌なら好きな作品のキャラクターとかでもいいよ?」


 まあ、戸塚も本庄もそんな感じだったからな。無理強いをしちゃっても良くないだろう。


 しかし、久喜は少し迷うように視線を下げてから、ぐっと唇を噛んだ。

 それから、ぎゅっと目を瞑りながら声を上げた。


「私は……好きな人……いますよ」


 今度は高崎が絶望的な顔をしていた。お、お前もにぶちんか!

 図書室での様子を見ていれば、誰でも分かるだろうに……!


「……同じ、クラスの人ですけど……その人はいつも一生懸命で、優しくて……」


 久喜が楽しそうにその男性のことを話していくと、高崎は絶望的な顔をして乾いた笑いを浮かべていた。

 このにぶちん共め。


 ……ある意味、お似合いの二人なのかもしれないな。

 そこで、消灯時間も近づいてきたので、話し合いは打ち切りになった。

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