第38話
逆に言えば、俺たちには自然体で話してくれているというわけで、なんだかそれは嬉しい気がした。
「それじゃあ、次は高崎どうだよ?」
「あー、あーしも気になってる。高崎普段大人しいけど、実は獰猛な獣かもしれないし」
「け、獣じゃないよ、別に……」
……本庄と久喜が本当に聞きたい話はここだったのだろう。
それは俺もソフィアも同じだ。視線を向ければ久喜は少し緊張した様子で高崎を見ていた。
久喜は、まさか自分だとは思っていないようだ。鈍い、にぶちんめ……! と言いたくなるが、それがこの二人の距離感なのだからこちらから何かするというのも違うだろう。
「高崎はどうなんだ?」
「ど、道明寺くんもワクワクしてないで……」
「いや……これでもラブコメとか好きなんでな。気になるんだ」
「あーしもラブコメ好きなんだよね。ワクワク」
「ちなみにあたしもよ」
俺たちの追撃を受け、高崎はもはや逃げ場をなくしたようだ。
一瞬だけ久喜の方を見てから、それから口を開いた。
「……僕は……好きな人いるよ」
「そ、そうなのか?」
そ、そうだよな。と言わなかった自分を褒めたい。
本庄と戸塚も少し身を乗り出すようにして高崎の話に耳を傾ける。
……久喜は、何やら絶望的な表情である。おい! お前のことだよ! と叫びたくなったが、ぐっと抑えた。
「……うん。……その人を見ていると、なんだか元気になってくるんだ。一緒にいると、何もしてなくても、楽しくて……別れると、胸が苦しくなって……モヤモヤとして。……そんな感じの人がいるんだ」
「そ、そう……なんだな。その人と……結ばれるといいいな」
「…………うん」
こくりと小さく頷いた高崎に、久喜がまたしても元気がなくなっていく。
これはまずい。完全に高崎の好きな人を自分以外の誰かと考えてしまっているようで、絶望してしまっている。
俺は慌ててフォローするための質問をする。
「うちの、学校の生徒なのか?」
「……う、うん」
高崎は決意を固めたようすで頷いた。ソフィアが、恥ずかしそうに口をパクパクとしている。珍しく、戸塚もちょっと興奮しているようで頬を赤らめている。
本庄は腕を組み、何やら師匠ヅラで頷いている。
ただし、久喜の絶望顔は変わらない。も、もう少し……条件を絞った方がいいかもしれない。
「……い、一年生?」
「……うん」
久喜の表情は絶望的なものから、変わらない。なぜそこまで自分を対象外にするんだ……!
ま、まだ絞った方がいいのか? 高崎もめちゃくちゃ恥ずかしそうにしていて、これ以上追及するのはとも思ってしまうが、久喜の心を救ってやりたい気持ちもあった。
「……もしかして、同じクラスの人……とか?」
「………………うん」
高崎は迷っていたが絞り出すように頷いた。
お、おおおお!
これはもはや間接的な告白ではないだろうか。
俺がちらと久喜を見ると、彼女は乾いた笑いを浮かべているだけだった。
ここまで絞ってもまだ絶望してんのか! にぶちんめ!
ていうか、さっきよりも落ち込んでるまであるぞ……。
さすがに、これ以上絞ったらそれはもう強制的に告白させているようなものであり、二人の関係にもあまり良くないだろう。
俺たち、事情を知る四人は顔を見合わせ、理解を共有し、そこでそれ以上の質問はやめることにした。
ソフィアが、高崎に問いかける。
「その人をキャンプファイアーのときのダンスに誘ったらどうよ?」
「……え? で、でも……」
「まあ、一つのいい機会じゃない? あれって、同性で一緒に踊ったら、ずっと仲良くなれて、男女で一緒に踊ったら恋人になれるっていう噂があるわよね」
……え? そんな噂あるのか?
まあ、俺とソフィアの間には恋愛的な関係はないわけだが……それでも、ずっと仲良くやっていけるのなら悪い気はしない。
「それだと同性カップルに配慮してねぇな」
冗談めかしく本庄が言う。……高崎の作り出した恋の空気を払拭する意味もあるのだろう。
「まあ古くからの言い伝えだし、時代が違うのよ。あたしも、面倒だから風除け代わりに道明寺くんに相手を頼んでおいたのよね」
いきなり俺の名前が出てきて驚いたが、もしかしたらソフィアは根回しをしているのかもしれない。
本庄が納得した様子で頷いている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます