第37話
「いいな、その話」
「ど、道明寺くんまで!?」
「よーし、んじゃあ早速話をしていくか!」
本庄がテンション高くなったところで、部屋の扉がノックされた。
こんな時に誰だろうと思い、俺が席を立って入り口へと向かう。
扉を開けると、気さくな様子で手を上げてきた戸塚がいた。
その後ろにはソフィアと少し恥ずかしそうな様子の久喜の姿もあった。
「おいっすー、お菓子もらいにきたぞー」
テンション高くやってきたのは、ソフィア、戸塚、久喜の三人だ。
全員パジャマ姿だ。俺たちのようなジャージといった味気ないものとは違い、可愛らしさのあるものだ。
皆、風呂上がりということもあってか縛っていた髪を下ろしている。
……ソフィアのそれは、初めてみたな。
「マジでパジャマ持ってきたのかよ」
本庄が声をあげると、戸塚はピースを作っていた。
「だって、ジャージじゃあダサいっしょ。ほらほら、お菓子パーティーするんしょ? 失礼するよー」
高崎は目が釘付けになっている。……あんまり露骨に視線を向けていると、バレるぞ。
俺の視線に気づいたソフィアが微笑を浮かべているあたり、な。
ジロジロとソフィアを見てしまった俺は、おそらく気持ち悪がられていることだろう。
彼女らを中に入れると、戸塚は奥のテーブルに広げられたお菓子を見て、声をあげる。
「うわっ! もうお菓子パーティーしてんじゃん」
「ったく、タイミング悪ぃなおい。これから、恋バナで盛り上がろうと思ってたのによぉ」
「えっ、恋バナ!? めっちゃタイミングいいじゃん!」
戸塚のテンションが上がっていく。高崎と久喜としては、内心穏やかではないのかあわあわとした顔をしている。
……まあ、二人の場合はお互いに想いあっている人がいるわけなんだからそうなるよな。
戸塚は本庄の前の席を陣取り、俺たちはそのテーブルから一番近いベッドへと腰掛ける。
テーブルに広げられたポテチを食べながら、本庄が戸塚を見る。
「んじゃあ、その盛り上がっているお前が代表者で話し始めてくれっか?」
「それなら、本庄からじゃない?」
「あ? オレ? オレかぁ……別に好きな人とかいねぇしなー。憧れの人とかはいるけどよ」
「憧れの人?」
「そ。好きな配信者がいるんだよ。あんな感じになりたいなーってのはあんだよ」
本庄が配信者であることは、俺と高崎しか知らない。
俺も高崎も誰にも話していないので、この女子ーズは知らないので、いまいちピンとはきていないようだが楽しそうに話す本庄は立派だった。
……自分の好きなことを話せる本庄は、素直に凄いと思っている。
「ふーん、じゃあ。初恋の相手とかはいないの?」
「……初恋って……たぶん、したことはあると思うがよく覚えてねえなぁ」
「え? そんなもんなの?」
「幼稚園のときかね? もうさすがによく覚えてねぇけど、一緒にいたい子がいて怖がられた覚えがあんな。そっから、あんま興味なくなってったかもなー。おまえはどうなんだよ? 色々恋バナあんじゃねぇの?」
本庄はちらと戸塚を見る。確かに、戸塚は話せる話題が友人含めて結構ありそうだ。
「あーしは、ずっと二次元好きだったし、中学からはリューキ様の推しになって今も恋焦がれ中だからね。特にそういうのないし。しいてあげるなら、あーしの恋の歴史は、フォーグ様に始まって、ベストール様、海斗様となってリューキ様って感じ?」
「……」
本庄の頬が引き攣った。リューキ様、というのは確かVTuberの人だったか。
本庄は同じ配信者として、ライバル意識でもあるのかあんまり好きじゃないのかもしれないな。
それでも、否定しない辺りが本庄の優しい部分だろう。
ソフィアはいつもの調子の戸塚に苦笑しつつ、久喜も慣れた様子であった。案外、受け入れられているようだ。
本庄が機能停止状態になったので、俺が代わりに質問する。
「リューキ様、大好きなんだな」
「マジ好き! ゲーム配信してる人で、時々歌ってみたとかも上げててマジですげぇイケボだから。渋めの低い声でそりゃあもう、耳が孕むーって感じ!」
「は、はら……っ」
……久喜が恥ずかしそうにしてるから際どい表現はやめなさい。
「……そ、そうか。まあ、その推しがいるってのは悪くない、よな。うん」
気持ちは分からないでもない。俺も好きな二次元のキャラクターなどはいるわけだしな。
「お、オレも同意見だ」
復活した本庄はいつもよりも高い声で返事をしていた。
本庄、俺たちと話している時は低い声なのだが、女子と話す時はいつも高い声になっている。
あれか? お母さんが電話に出る時理論というやつだろうか? なぜかうちの母親は知り合い以外と電話するとき、いつもより声が高くなるのだが、そんな感じだろうか。
……本庄にとっては、まだ女子ーズは外部の人間という感じなんだろうか?
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