第36話
「そう、なんだな」
「ええ、そうよ」
とりあえず食材を運んでいくと、早速汚れを落とすためにバケツに入れて運んできていた水で食材を洗っていく。
戸塚と高崎がその作業を行っていて、俺は汚れの溜まった水を変えるための役割だ。
洗い終わった食材は、久喜と本庄が切っていく。
顔だけを覗かせるようにして戸塚がその様子を見る。
「久喜は相変わらず手際いいけど、本庄もマジでできるのウケるんだけど」
「ウケてんじゃねぇ。米も洗っておけ」
「はいはーい」
「あっ、僕やるよ。結構重たくなると思うからね……」
用意されていた鍋でご飯を炊いていくことになるのだが、各班結構な量を炊くことになるからな。
戸塚と高崎が協力しながらやっていると、久喜はちょっと気になるようでちらちらと見ては、少し頬を膨らませている。
「……あれは、嫉妬ね」
特別作業のなくなってしまった俺とソフィアはその様子を観察していた。
「……嫉妬、だな」
「本庄くんはうまく料理側に二人を配分したつもりのようだけど、ちょっと惜しかったわね」
とはいえ、あれは仕方ないだろう。
戸塚と高崎が急接近しているように久喜からは見えるのかもしれないが、高崎は一生懸命久喜にいいところを見せようと頑張っているようだな。
「おい、久喜。こっち終わったからそっちの食材かしてくれ」
「あっ、ご、ごめんなさい……っ。遅くなっちゃって……」
久喜は高崎の方をちらちら見ていたために、出遅れてしまっていた。
すでに完璧に切り分けられた野菜たちを見て、久喜が申し訳なさそうにしている。
「んあ? 気にすんなよ」
「あ、ありがとうございます……これ、お願いします……」
久喜は残っていた野菜の半分を本庄に手渡す。その際、少し手が触れた。
それを、高崎は見逃していなかった。今度は、高崎が本庄に少し嫉妬した様子で見ていた。
「……嫉妬だな」
「……嫉妬ね」
俺たちはそんなこそをボソボソと話しながら、料理の手伝いを行なっていく。
切り終えられた野菜たちを鍋に入れて火を通し、頃合いを見てカレーの料理を進めていく。
米の方も久喜と高崎が火の番を務めていく。すでにやることを終えた本庄は席に座り、仕事を終えたあとの一呼吸を入れていた。
俺は……カレーが出来上がっていくのを見て、感動していた。
山でのサバイバルといえば、虫を食べて生活するのが基本だったからな……。
昆虫食は、あれはあれでそれぞれ独特の美味しさがあるのだが、やはり俺はこういった食事のほうがいいな……。
ひとまず、途中気になる部分はありつつも、高崎と久喜も仲良くやれているようだし、この配分は問題なかっただろう。
夜。一時間ほど山での歩き方や、万が一野生動物と対峙した場合についての方法などの話を聞いてから、俺たちは部屋へと戻った。
ここから二時間ほどは自由時間となり、二十二時が消灯時間だ。
この時間は宿泊施設の外に出ない限りは、自由に活動してもいいということで、俺たちは自分たちの部屋でお菓子を広げて楽しんでいた。
お風呂も入ってきて、すでに寝巻きに着替えた俺たちは部屋でぐだーっと過ごしていたのだが、そんなとき本庄が思い出したように口を開いた。
「……やっぱ、こういう日の夜ってなると恋バナとかするもんだよな」
そういった彼は、にやりと口元を緩めていた。
ちょうど、スマホを見ていた高崎が慌てた様子で顔を上げる。
「えっ、こ、恋バナ?」
「そうだぜ。ほら、やっぱりこういうときにそういう話をするもんだろ? そんでもって、明日はキャンプファイアーだろ? 誰か誘うやつとかいねぇのか? って話だよ」
確かに……。
明日の夜に話をするよりは、今日の夜に話しておいたほうが今後に繋がるな。
しかし、高崎はすでに意中の相手がいるわけであり、この話題は少し恥ずかしそうだった。
俺としても、高崎の心中に関しては気になっていたので、少しでも聞きたいと思っていた。
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