第34話
バスは順調に進んでいき、いくつかの観光スポットを巡っていった。
途中、昼休憩も挟みつつ、午後十六時。
予定通りに宿泊予定地へと到着した。バスに乗せていた旅行用の鞄を取り出した俺たちは、それから館内地図をもとにそれぞれの部屋へと入っていく。
部屋内は、三つのベッドが並んでいる。結構しっかりとしたホテルのような部屋だ。
室内には浴室もついているのだが、大浴場と露天風呂もあったので基本的には皆そちらにいくだろう。
部屋に荷物を置いたところで、軽く伸びをしていると本庄が旅のしおりを見ながら口を開いた。
「十六時五十分に、外に集合だったよな」
「夕食の準備だね。遅れないようにしないと」
この宿泊所の裏手に調理できる場所があり、そこでカレーを作るとのことだ。
明日の夕食はバーベキューなので、どちらも楽しみではある。
部屋でやることはすでに終わったので、すぐに向かってもいいのだがあまり早く行っても仕方ないだろう。
本庄は部屋にあった椅子に腰掛けながら、スマホを弄っていた。
「あー、やっとソシャゲのデイリー達成できたわ。こういうイベントがあるとなかなかやる時間取れないよな」
確かに……。
俺も、ひとまずログインくらいはしておこうか。
そんなこんなでスマホを弄っていると、ちょうどラインの通知が来た。
戸塚からグループラインに送られている。
『男子ーズ、しゅーごー』とのこと。
本庄も気づいたようで、画面を見ている。
「うおい、女子ーズから呼び出しかかってんじゃねぇか」
「何かあったのかな?」
「お菓子でもくれって話じゃないか?」
冗談なのか、本気なのか分からない調子でいった本庄に苦笑を返す。
「本庄じゃないんだから、さすがに夕食前に要求はしないと思うけど」
「なら、何の用だろうな」
「早めに向かって、料理の準備でもするんじゃないか?」
特にこれといって理由は思いつかなかったが、俺たちはジャージに着替えて外へと向かう。
今回、基本的に外で体を動かす場合はジャージで行うことになっている。
三人ともジャージに着替えてから、集合時間へと向かうと結構ギリギリの時間になってしまった。
「遅いんだけど。調理場の場所取り合戦負けてたらどうするつもりだったの?」
「場所取り合戦?」
調理できる箇所がずらりと並んでいて、すでにこの状況を分かっている班は配置についているようだった。
……これだけの広大なスペースはあるのだが、水道や食材などが置かれる場所は決まっているようで、確かに場所によってはかなり大変なことになっていたかもしれない。
「そういうわけで、あんまり体力使いたくなかったら近い場所を早めに確保する必要があるってわけみたいよ」
ソフィアの解説に、本庄と高崎は納得したように頷いている。
戸塚が感謝しろ、とばかりに胸を張っていたので、俺たちは望むままにお礼を伝えておいた。
「でもまあ、水を運ぶとかならオレがいくらでもやるぞ? これでも、体力には自信があるんだよ」
「さっすが不良」
「だから不良じゃねぇって言ってんだろうが。なんなら、オレより道明寺のほうが体力あるしな」
「うえ? マジ? さすが不良仲間じゃん」
「俺は不良じゃない」
「オレも否定しろって」
びしっと本庄がツッコミを入れてきた。
「体力あるって何かやってんの?」
「……何かっていうか、家が道場なんだよ。それでまあ、体をよく動かしてるっていうか」
高崎と本庄たちには、たまに一緒にいる時などに話していた。
「道場……って? もしかして道明寺って道明寺流の!? あーしも、昔護身術教えてもらいに行ったことあるし!」
戸塚が驚いたように目を見開いてこちらを見てきた。
……そ、そうだったのか。
「んあ? 有名なのか?」
「有名かどうかは分からないけど……まあ、近所の人とか」
「あーし隣町だったんだけど、教えてもらいに行ってたんだよ。ちょうど、なんかあーしの周りでストーカーの騒ぎとかあったしさー」
あっけらかんと語る戸塚だったが、ちょっとばかり表情は元気がなかった。
それに気づいたのか無意識なのか、本庄は舌打ち混じりに口を開いた。
「気持ち悪ぃ奴がいるもんだな」
「そんな見た目が悪いんだろとか言われるのかと思った」
「見た目は……自分のためにするもんだろうが。つーか、そもそもストーカーとかキメェし、不気味だし、さすがにそれをからかうつもりはねぇって……オレもなぜか正体バレてストーカーされた経験あるし……」
……配信者だし、本庄も厄介なファンとかに絡まれたことがあるのかもしれない。
「え? あーしならともかく、本庄ストーカーするって物好きもいるんだねぇ」
「てめぇ、言わせておけば好き勝手いいやがって。ま、今は何かあっても大丈夫だぜ。いざって時は道明寺がなんとかしてくれんだろ。な?」
「お前じゃないんかい」
戸塚がびしっと本庄にツッコミを入れる。
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