第33話
林間学校当日。
前日はドキドキとしていて、なかなか寝付けなかったため、少し寝不足である。
学校の校庭に集まった俺たちは、出発前の校長先生のありがたいお言葉を聞いてから、待っていたバスへと乗り込んだ。
ここからはバスでの移動となり、途中観光地をいくつか寄りながら宿泊地へと向かうことになる。
バスでの座席に関しては班ごとに六席分確保されているので、あとは自由に座ってくれという感じだ。
俺たちは入り口付近の座席だ。前から順番に座っていく。
席の配分は色々と迷ったのだが、結局男女で仲良く隣り合わせで座ることになった。
他の班だと男子同士、女子同士で固まる方が多かったが、俺たちの場合は高崎と久喜のことがあるからな。
前から順番に、高崎と久喜、本庄と戸塚、俺とソフィアの順番だ。
俺たちが席に座ると、ほぼ全員が着席完了となりバスはゆっくりと走り出した。
バスの中は、ガヤガヤと賑わい出す。皆がそれぞれ自由に話をしていて、少しうるさいと思えるほどだった。
早速旅のしおりを取り出したソフィアは、それを眺めていた。
彼女もいつもよりも楽しそうな様子だ。俺もお菓子でも食べようかと思い、鞄をあさってチョコレートを取り出す。
個包装されたものの一つを取り出して口に運ぶと、ソフィアがこちらを見てきた。
「あたしも食べたいわ」
「はいよ」
鞄から取り出したチョコレートを彼女に渡すと、満足そうに食べていく。
皆で選んだお菓子だからな。誰でも自由に食べて問題ない。
しばらくしてバスは高速へとのり、スムーズに動きだす。
その時、俺の左手をソフィアがぎゅっと掴んできた。
驚いてそちらを見てみると、ソフィアがさらにぎゅっと力をこめてくる。
「お、おい……どうしたんだ?」
みると、いつものようにからかうように彼女が笑っている。
「周りの人たちに気づかれないように手を握るゲームよ。あたしの記録は十秒ね。次、優人よ」
小声でそう言ってくるソフィアは、それから自分の膝に手を乗せて待ち構えている。
スカートも短く、膝が見える程度であり、ついつい視線がそちらに向いてしまう。
……た、確かに座席の関係もあって周りの人たちもこちらに注目しなければ見ていることはないと思う。
だが、隣側の席からは見ようとすれば見えないこともないわけで、そんな遊びをするのはいかがなものだろうか。
……隣の席を見てみるが、それぞれ普通に話しているようで特にこちらをみるようなことはない。
「ほら、どうぞ」
とんとんとアピールするようにソフィアは自分の膝を叩いていた。
くっ……やるしかないのか。俺はぐっと力をこめるようにして、彼女の手を握りしめた。
どうせならば、負けたくはない。
心の中で時間を数えながら、周囲の状況を気にして手を握り続ける。
そうしていると、不意に前の座席で動く気配を感じた。
手を、繋ぎ続けるか? いや、だが前の席は本庄と戸塚だ。何かあるとすれば、俺たちに声をかけてくる可能性がある。
その次の瞬間、座席の頭部分から本庄の茶髪が見えた。
これは、まずい。少し立ち上がって、何かするつもりだ。
俺はすかさずソフィアから手を離した次の瞬間。前に座っていた本庄がこちらの座席を覗き込み、持っていたポッキーの袋を向けてきた。
「ポッキー食うか?」
お菓子担当の本庄はそれはもう幸せそうな表情ですでにポッキーを食っていた。
隣に座っているだろう戸塚も、食べていることだろう。
「頂くわ」
「ああ、俺も。こっちもさっきチョコ食べてたんだけど、食べるか」
「おお、くれくれ」
俺はポッキーを受け取って口に咥えながら、足元に置いたリュックサックからチョコを四つ取り出す。
「高崎たちにも渡しておいてくれ」
「りょーかーい」
……俺たちの鞄にはたくさんのお菓子が入っているが、これはかなりのペースで食べそうだな。
本庄が買い込んでいた理由も、よくわかる。
ポッキーを食べていたソフィアはそれから、こちらに手を向けてきた。
「さっき、七秒だったわね。再挑戦する?」
「……い、いやいいや」
……負けたのは悔しいが、さすがに先ほどの緊張感をもう一度味わいたくはなかった。
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