第32話



「んじゃ、あーしらの分もお願いしていい? 向こうついたら取りいくから」

「パシらせようとしてんじゃねぇぞ」

「いーじゃん、別に。お礼にパジャマ姿で遊びに行ってあげるけど?」


 その言葉に、真っ先に反応したのは高崎だ。


「本庄くん! 持っていってあげようよ!」

「高崎!? おまえ、女子のパジャマそんなにみてぇのか!? パジャマフェチか!?」


 その言い方だと高崎が変態になるからやめなさい。

 ただ、高崎は久喜のパジャマ姿が見たいだけだ。


「ち、違うよ! そういうわけじゃないよ! 別に戸塚さんのとか興味ないし!」


 ぶんぶんと首を横に振って叫ぶ高崎に、戸塚が少しおちこんでいる。


「……それ、目の前で言われるとさすがに思うところあんだけど」

「あっ、ご、ごめん……」


 高崎の熱心な様子に、本庄も久喜と高崎のことを思い出しているようで、どうまとめるか迷っていたようだ。


「……まあ、別にいいけどよ」

「うわ、やっぱりパジャマ見たかったの?」


 戸塚がからかうようにそういうと、本庄はすぐに否定しようとした。


「ちげ………………ああ、そうだよ! 見たかったんだよ! いいだろ別に!」


 だが、本庄は話が堂々巡りすると思ったのか、仕方ないといった様子で叫んだ。

 すまん、本庄。高崎のためにそんな無茶なことを言わせちまって。

 戸塚が小馬鹿にしたような視線を向けてから、ちらとソフィアたちの方を見た。


「ちょうどよかった。男子ーズの意見も聞きたいから、一緒に選んでくれない?」

「あ? オレたち忙しいんだけど」


 ……お菓子選ぶだけだから、あんまりそういうことを言わない方がいいと思う。


「お菓子選びするだけっしょ? そっちもあーしらが手伝ってあげっから」


 ほら見ろ。やっぱり指摘されたから。


「……で、でもここ女性用のお店だよね? 僕たち入ったら捕まらないかな……」


 それはさすがに過敏すぎるぞ、色々な人たちが。

 戸塚はケラケラと笑いながら、本庄を指差す。


「大丈夫大丈夫。補導される可能性があるとしたらこいつだけだし」

「んだとてめぇ……」

「……まあ、意見がどれだけ参考になるか分からないけど、俺たちで良かったら協力するよ」


 高崎も見たいみたいだしな。

 俺たちは戸塚に連行されるようにして、店内へと連れて行かれる。


 女性物の服屋なので、当然そういった商品が多く並んでいる。


 周囲を見ただけですでに高崎は顔を赤らめているのだが、待っていた久喜も同じように恥ずかしそうにしている。

 それから、俺たちは並んで歩いていく。


「パジャマじゃなかったのかよ?」

「春服だって色々見ておきたいっしょ? これからゴールデンウィークなんだし」

「……はぁ、オレはいつも同じシャツとズボンしかはかねぇからわかんねぇな」

「は? まじで?」

「しらねぇのか? 服を選ぶ時間がもったいないってことで、有名なやつでも同じ服しか持ってない奴はいくらでもいんだぞ」

「無駄にスタイルいいくせにもったいなー」


 戸塚は小馬鹿にしているが、褒めてもいるようだ。

 本庄はまったく気にしていないようだったが、服を色々と見ていく。


 最初こそ一緒に動いていたけど、バラバラと動き始めていく。

 ただ、戸塚がスタスタと歩いていき、本庄がその後を追っていく。


 戸塚はいつもの自分のペースで動いていくのだが、明らかに俺たちと分断しようとしている。

 たぶんだが、高崎と久喜が二人きりになるようにしているのだろう。


 そうなると、俺はソフィアと行動するべきだ。

 さすがに女子の誰かから離れると店内にいるのが気まずくなるので、俺はソフィアの方へと歩いていく。


 高崎と久喜は完全に出遅れたようで、俺たちの後を追ってきてはいるが、みたいものを見ていくことに。


 ただ、完全に二人きりにしてしまうと露骨すぎるからか、戸塚が時々戻るようにして久喜に服を勧めている。


 ……とりあえず、問題なさそうだな。

 遠目にその様子を見ていると、ソフィアが一つの服を手に取っていた。


 スケスケのネグリジェだった。ていうか、気づいたらかなり際どいものが置かれたスペースへと連れ込まれていた。

 しまった、これはソフィアの罠か。


「これ、パジャマにしたらどうかしらね」

「……だ、大問題だろ」


 ソフィアがつけている姿を想像してしまい、耐えきれずに顔が熱くなる。


「ふふ、そうよね。優人は、どれか気になるものってある?」

「……い、いや別に」

「じゃあ、別にあたしのはどれも見たくないってこと?」

「……」


 いや、それはそういうことはないのだが。

 だからといって、どれかを選べと言われても難しいわけだ。


「……見たい、とは思う」


 せっかくだし。


「……そ、そう。それならちゃんと選ぶの手伝いなさいよね」


 ソフィアがそう言って歩き出す。

 元のゆったりとした服が並ぶスペースに戻ってきて、服を選び始める。


 どれがいいか、と言われてもどれも似合うよなぁ……としか思わない。

 しいてあげるなら、水色とかが好きなので、好きな色を基準に話していくくらいだった。


 時々、高崎たちの方へと戻り、服の提案をしてみるなどをしていく。

 ……高崎と久喜を応援するつもりでここに来たのだが、それ以上に俺が疲れることになるとは思ってなかった。


 それでも、無事パジャマ選びとお菓子購入はうまくいった。

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