第31話

「え? そうなんだ? 稼げるほどって凄いね!」

「……ま、まあそうなのかね?」

「俺も……凄いと思うぞ。ユウチューブとかでやってるのか?」

「あ、ああ。別のサイトでやるときもあるけど、基本そこでやってるな」

「チャンネル名とか教えてよ! 今度見にいくよ!」

「い、いや、やめてくれ。恥ずかしいっての!」


 高崎はずいずいと突っ込んでいく。高崎は、人見知りなのかもしれないが、仲良くなった相手には結構しっかりと話ができるタイプなんだよな。


 顔を赤くして、首を横に振る本庄が珍しくて俺は苦笑していた。

 ……立派なことなんだから、自信をもっていいと思うんだけどな。


「俺も見てみたいけど……まあ、頑張ってな」

「お、おう。ありがとよ。ここまで、すんなり受け入れられるとは思ってなかったぜ……」

「やりたいことやってるんだから、別にいいと思うけど……なあ、高崎」


 俺の問いかけに、高崎も大きく頷いていた。


「うん。僕……そういう打ち込める趣味とかなくて……。周りに合わせて色々やることはあるんだけど、どうしてもすぐ飽きちゃうから……だから、そこまで熱中してるの、凄いと思うよ!」

「あ、あんま褒めんなって」


 本庄は恥ずかしさを誤魔化すように、高崎の肩を組んでその口を封じにかかった。

 ……ちょっとすれ違う人に心配そうに見られているのは、本庄の見た目もあってだろう。


「周りにビビられてるから、そのくらいにしといたほうがいい」


 俺まで仲間だと思われている可能性があるので、本庄にそう呼びかけたのだが、これはこれで俺が真の黒幕みたいな感じがしないでもない。


「ああ、そうだったな……いい加減、この髪も戻すかなぁ」


 本庄はそう言って、染めた髪の先を弄る。


「それ、中学からずっとやってるわけじゃないのか?」

「ちげぇよ。中学までは地味ザジミーだっての。髪とか適当に固めて、髪染めてみたらこうなっちまったんだよ」

「……高校デビュー失敗、って奴か?」

「だああ! そういう言い方すんじゃねぇ! そうだよ! 周りからは完全に不良だと思われちまってこうなったんだよ! でも、途中で戻すってのもなかキモいだろ?」


 ……まあ、気持ちは分からないでもない。

 例えば、俺がいきなり髪を染めるとかしようものなら、周りからどんな風に見られるかという不安がある。

 いきなりイメチェンなんてして、何が目的なんだと言われるかもしれないと思うと恥ずかしいし。


「どんな本庄でも、本庄だと思うから今から変えても別に何も思わないけどな」

「うん、からかうくらいはするかもだけど」


 高崎も、意外といい根性してるな。


「……はは、そうだよな。周りの目、気にしすぎてんのかもな。でもなぁ……うーん、どうっすかなぁ」


 うんうん悩むような声をあげながら本庄が歩いていき、途中で見かけた服屋に何気なく視線を向けた時だった。

 戸塚とソフィアの姿を発見した。よくみると、奥の方には久喜の姿もある。


 あっ、と思った次の瞬間、戸塚もこちらに気づいたようだ。ソフィアの肩を叩いてから、こちらにやってきた。


「あれ? 男子ーズ、何やってんの?」


 戸塚がそう言って、こちらに声をかけてきた。学校の外で話しかけられることを想定していなかったのか、高崎はびくりと肩をあげてそちらを見ている。


「あぁ? そっちこそ、何してんだ?」


 たぶん、本庄が不良と思われるのはこの初対面での眼力の強さ故だと思う。

 あと、口調。

 戸塚はしかし、ケラケラと笑う。


「目力やばー。完全に高崎が不良二人に絡まれてるみたいに見えるんですけど」

「俺まで巻き込まないでくれ」

「おい、道明寺。オレのことも否定しろや。てか、何しにきてんだ?」

「うわ、変態じゃーん」

「何がだよ!」 

「あーしらは林間学校で、着るパジャマ選びに来てたんだよ。それを聞いてくるなんて、変態じゃーん」

「ぱ、パジャ……っ」


 高崎が久喜のパジャマ姿でも想像したのか、久喜の方へと視線を向けていた。

 その久喜はというと、ソフィアがちょうど俺たちの存在を教えるように声をかけていて、たまたま持っていた服を慌てた様子で棚に戻していた。


 赤くした顔をぎゅっと絞り込むように、下を向いてしまう。

 本庄と戸塚はちらと高崎を見ていたが、特に触れることはしない。


「マジかよ……んなもん荷物増えるしジャージでよくねぇか?」

「は? ジャージなんかダサいし嫌っての。二日目の登山がジャージでやるってのも聞いて萎えまくってんだけど」

「そりゃあ、登山はあぶねぇからなぁ」

「大した山じゃないんだし、別に動きやすい服装なら何でもいいんだし、そこは自由にしてほしかったし」


 女子ーズは、というか戸塚は色々と考えているようだ。

 俺たち男子ーズには分からない美意識のようなものがあるようだ。


「そっちは何しにきたし? わざわざ三人でってことは、林間学校絡みなんじゃないの?」

「オレたちは、お菓子買いに来たんだよ」

「ぷっ、子どもじゃん」


 あっ、笑われた。ソフィアもこっち見て笑ってんじゃない。

 ……確かに、女子たちは服を選びに着て、俺たちは持っていくお菓子だ。


 なんなら、途中トランプとかの遊び道具をどれだけ持っていくかについても話していたくらいだしな……。

 本庄が頬を引き攣らせながら、熱弁する。


「舐めんなよ。三人で手分けして色んなお菓子持ってくんだよ!」


 そこは自慢にならないって……。

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