第30話
「まあ、お互い両想いっぽいし、応援ってことはしなくていいんじゃないかと思ってる。お互いのペースで仲良くなってくれたらいいな、くらいだ」
余計なことしたら、嫌がるタイプもいるだろう。
一緒に行動できるように誘導くらいはしてもいいかもしれないが、あんまり露骨にしちゃうと気にするかもしれない。
『了解了解。へへ、なんか楽しくなってきたじゃねぇか』
「そういうわけで、まあ邪魔しないようにってことで本庄にも伝えておこうと思ったんだ。巻き込んで悪かったな」
『いや、むしろいいことを聞けたぜ。女側は知っているのか?』
「知ってるわよー」
ソフィアが俺の通話していない方の耳にまた囁くように言ってくる。
くすぐるような吐息に、びくっと肩が跳ね上がる。
その音を拾うか拾わないかの声でいうのをやめてくれ。
耳がくすぐられて熱くなっていたのだが、俺は必死に堪えて、続ける。
「あ、ああ。桐生院と戸塚も知っているそうだ」
『了解。んじゃあ、戸塚がオレにウザイくらい絡んできたのは、足止めみたいなもんだったってことか。まあ、邪魔しねぇからもう大丈夫だって伝えておいてくれ』
「了解。それじゃあ、またな」
『おう、またな』
上機嫌な様子の本庄との、通話はそこで途切れた。
……ふう。うまく電話できたな。
実を言うと、家族以外で電話をする機会なんてほとんどなかったのでかなり緊張していた。
それから俺は、途中でちょっかいをかけてきたソフィアへ視線をやる。
「ソフィア、途中からかってくるんじゃない……」
「いいじゃない。一生懸命我慢してて可愛かったわよ」
「……まったく。とりあえずこれで包囲網は出来上がったな」
「そうね。キャンプファイヤーのダンスとかも、班で仲良くやりましょう、とか言っておけば二人ペアを組みやすくなると思うわ」
なるほど、それでソフィアはさっきあのような提案をしてきたのか。
色々と勘違いしてしまった自分が恥ずかしいな。
その日の放課後作戦会議はそこで終わりとなり、俺たちは解散となった。
着々と林間学校の日が近づいてきた。普段以上にイベントを楽しむ気持ちがあったのは、間違いなく高崎と久喜がいるからだな。
普段ならば、楽しむよりことよりも皆の迷惑にならないことばかりを考えていた。
予定の宿は各部屋三人ずつだそうだ。
部屋割りについては改めて決める時間はあったのだが、俺の友人は高崎と本庄しかいなかったので、彼らと一緒の部屋となった。
高崎と本庄も、それでいいって言ってくれたしな。
友人が多いクラスメートは、班の時とは別のメンバーになることもあったようだが、だいたいが班で組んだ相手と同じようだった。
部屋決めも無事終わった放課後。
今日は特にソフィアと用事があるわけではなく、真っ直ぐ家に帰ろうとしたときだった。
本庄に声をかけられた。
「おう、高崎、道明寺。ちょっといいか」
ちょいちょいと手招きをしながら声をかけてくる本庄。
俺たちは何度かラインでもメッセージのやり取りをしているので本庄とはそれなりに仲良くなっていたのだが、それを知らない周りのクラスメートたちはどこか怯えた様子であった。
それこそ、カツアゲでもされるんじゃないかという感じで心配はされているようだ。
「どうしたの?」
高崎が首を傾げると、本庄はにやりと笑う。
「今回の林間学校、お菓子とかは自由に持っていっていいって決まりだろ?」
「そうだね」
「……とはいえ、荷物があんまり増えるのもあれだ。三人で手分けして色々持って行かねぇか?」
それは、見事な提案だ。
高崎がちらとこちらを見てきて、こくりと頷く。
「そうだね。同じものを持って行っちゃったらちょっと寂しいしね」
「だろ? そうと決まったら、早速これから買いに行こうぜ」
本庄が笑顔とともにそう言った。
特に放課後の予定はなかったので、俺と高崎は本庄とともに学校を出た。
学校から近い場所にあるショッピングモールに着いた俺たちは早速店内にあるお店目指して歩き出す。
「駄菓子屋もあるから、あとでそっちも見てみようぜ」
「詳しいね。よく来るの?」
「まあ、よく買いにくるもんでな」
「そうなんだ。本庄くんっていつも帰り早いけど、ここに来てるとか?」
高崎もよく本庄のことを観察しているな。
本庄は登校時間はギリギリで、下校時間はいつも早い。
「ん? まあ、ちょっとな。オレ一人暮らしだし」
「え? そうなの!? それって結構大変じゃない?」
「いやでも気楽だぜ? 親の目とか気にしなくていいしな」
「……でもお金とか大変じゃない? 家の仕送りがあるとか? バイトとかしてるとか?」
一人暮らしかぁ……ちょっと羨ましい。
家族で生活していると楽ではあるが、やはり周りに合わせる必要があるからな……。
「仕送りはないない。全部自分のバイト代だぜ」
「そ、そんなに稼げるの? ……闇バイト、とかじゃないよね?」
「ちげぇよ! ネットで配信活動してんだよ! あっ……」
つい、言ってしまったという感じだ。本庄は迷うような素振りを見せていた。
……確かに、人に伝えるのは恥ずかしい趣味というのものはある。
俺だって、自分の趣味についてはあまり人と話したくはないが、それは本庄もそうだったのかもしれない。
俺は、打ち込めるほどのものがあり、それで生活できるだけ稼いでいる本庄を凄いと思うのだが、本人がそうは思っていないのかもしれない。
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