第29話




 いや、そもそもが仕掛けてきたのはソフィアからであり、これを不快に感じればソフィアから俺へのセクハラということになるのだが、ソフィアからのそれを不快に感じるわけはなかった。


「……特に」

「何も感じてくれないのね……」

「い、いや……良かった。良かったから!」


 その悲しそうな演技なのか本気なのか分からない態度を取るのをやめてほしい。

 すぐに感想を伝えるとソフィアが笑顔を浮かべる。


「えっち」


 どっちに転んでもそうなる運命なのか。

 なぜか未だに腕を組んだままのソフィアに、ひとまずこうなった原因である高崎と久喜の関係について改めて答えよう。


「……まあ、ここまで進むかどうかは、告白が成功してからになるんじゃないか?」


 二人とも真面目なので、付き合う前から何かしようという感じではないと思う。


「……告白、ねえ。もし、久喜さんに相談されたらどうしよう。あたし、自分からの経験なんてないんだけど」

「その時は、戸塚にパスするのはどうだ?」

「いや……夏樹も告白されたことはあるけど、ないタイプよ。小学校の時から漫画大好きで、当時は漫画のキャラと結婚するって本気でいってたし。中学の時にデビューした例のVTuberにハマってからは完全にその推しだし」

「……そ、そうなのか」

「あたしに色々な漫画を勧めてくるのも夏樹よ」


 ……なるほど。

 ソフィアが大人気作品以外にも精通しているのは、久喜の影響がかなりありそうだ。


「そっちはどうするのよ? 高崎くんに相談されるようなことがあったら、誰が答えるのよ? 優人? それとも本庄くん? ていうか、本庄くんはどうするの? 話しておいて、味方につける?」

「俺も答えられないから……本庄にお願いするか。先に話しておいたほうがいいかもしれないな」


 本庄もいきなり言われたら驚くかもしれない。もしかしたら、今日の班決めの時の反応で気づいているかもしれないが。

 今、電話はできるだろうか? 学校が終わった後だし、部活とかしていないだろうか?


「ちょっと、今電話してみる」


 ソフィアはこくりと頷いて口を閉ざした。

 俺はスマホを取り出し、早速ラインから本庄に連絡を取ってみる。

 何度かのコールの後、本庄が出てくれた。


『ん? どうしたんだよ、道明寺』

「ちょっと、相談したいことがあってな」

『相談したいこと?』

「ああ……えっと……」


 どう切り出そうか迷っていると、スマホを当てていない方の左耳に、息が吹きかかった。


「っ!?」


 驚いてそちらをみると、からかうような表情のソフィアがいた。

 い、いきなり何をしてくるんだ。ソフィアをじっとみると、彼女はいつもの調子で笑っている。


『んあ? どうしたよ?』

「い、いやなんでもない。それで、ちょっと相談なんだけど……今日の班決めの時見て、何か気づいたことなかったか?」

『……戸塚が、面倒な感じだったぜ』


 スピーカーモードにしていたからか、その話を聞いたソフィアが声に出さないように口元を緩めていた。


「高崎と久喜で何か気づいたことはないか?」

『どっちもいい奴そうだったぜ? それが何か?』

「……そうか、気づいていないか」

『なんだよ? そんな黒幕の正体にでも気づいたみてぇなセリフは』

「本庄は演技って得意か?」

『話が見えてこねぇな……。まあ、結構得意なほうだぜ?』

「それなら……ここからの内容は内密に頼む」

『お、おう……』


 俺の気迫が伝わったのか、本庄が真剣な様子で答えてきた。


「高崎は久喜のことが……気になっているんだよ」

『んな! まじかよ? ほ、ほの字ってやつか?』

「……たぶん。そんでもって、久喜も高崎のことが恐らくそうなんだよ」

『おいおい、マジかよっ。ってことは両想いか……!』


 なんだか、本庄が興奮した様子で答えてくる。

 思っていた以上に食いつきがいい。やっぱり、俺たちくらいの年代ともなるとこういう話が一番盛り上がるのかもしれない。


「それを、ソ――桐生院から聞いてな。俺はパーティーメンバーとして高崎と本庄を誘ったんだ」


 あ、危なかった。今日は名前を呼んでいなかったが、よく考えたら人前でソフィアの名前なんて呼んだら一発アウトだった。

 ソフィアのことを苗字で呼んだからか、ソフィアは少し不満そうにこちらを見てくる。


『そうだったのか……なるほどな。……な、なんかちょっと体熱くなってきたかも』

「……風邪か?」

『恥ずかしくてだよ! ……な、なるほどなぁ。ってことは何かオレたちで二人の仲を深めることをした方がいいのか? オレ、不良役とかならやってやらんこともないぞ?』


 適材適所ではあるのかもしれないが、顔バレしてるからな……。

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