第28話




 放課後。

 俺は、ソフィアから呼び出しを受けていた。

 文芸部の部室へときた俺は、扉の前で待っていたソフィアと入れ替わるようにして鍵を開けた。

 ソフィアとともに中へと入り、俺の隣の席に着くと、ソフィアは背筋を伸ばす。


「無事うまく班決めできたわね。優人のおかげだわ、ありがと」

「……まあ、そっちもうまくやっててくれたみたいだったしな。戸塚も高崎と久喜のことは知ってるってことでいいのか?」

「ええ、知ってるわよ。それで、あたしはそれとなく、道明寺にも協力を頼んだ、とも伝えてあるのよ」

「それは、大丈夫だったのか?」


 さすがにそんなやりとりだけで俺とソフィアが婚約関係にあるとまでは疑われないと思うが、それでも何かしら気づく可能性はある。


「特に、大丈夫だったと思うわよ? 後は、二人が仲良くやってくれたらいいわね、って感じね」

「そうだな」


 そんなことを話していると、ソフィアは軽く伸びをしてから、笑みを浮かべた。


「本庄くん、意外とノリが良かったわね」

「……まあ、そうだな」


 最初に感じた通り、悪い人ではなさそう、というのは正しかったようで俺もほっとしていた。

 これでも、人を見る目を鍛えるように親父からは教えられていたからな。


「最初から、本庄の相手は任せろって感じだった夏樹も拍子抜けというか、悪い人じゃないと思うって言ってたし、なんだかんだ楽しめそうね」


 夏樹……戸塚のことか。

 戸塚のことで、少し思ったことがあるとすれば、


「本庄もVTuberとか詳しいのかもな。戸塚が……えーと、何かのVTuberの名前を口にしたときに反応してたし」

「ああ、本城リューキね。苗字が似てるから、名前を呼ばれたと思った可能性もあるんじゃない?」


 確かに、そういう可能性もあるか。

 ただ、それにしては少し動揺が激しい気もしたが、気のせいか。


「まあ、それもこれから交流が増えれば色々分かってくると思うわね」

「……そうだな」


 そんな普通の友達関係を俺が築けるのかどうかはともかくとして、ではあるが。

 パイプ椅子に深く座ったソフィアは林間学校が楽しみなのか、笑顔を絶やさない。

 その様子を見ていると、こちらも自然と口元が緩んでくる。


「楽しそうだな」

「こういう行事で、今までで一番楽しみかもしれないわね。ああ、そうそう。林間学校のスケジュールは見たわよね? キャンプファイヤーのときの踊る相手とかって決まってるの?」

「いや、決まってないけど」


 男女で、という決まりはないのだが、なぜか男女でペアを組もうとする人が多い。

 戸塚も言っていたが、実際それで関係が進んだ人も多くいるらしいからな。

 ソフィアはすっとこちらに手を差し出してきて、少し恥ずかしそうにこちらを見てくる。


「相手決まっていないなら、どう? あたしが一緒に踊ってあげるわよ」

「……それは、大丈夫か?」


 ソフィアなんて特に誘いが多そうだ。すでに、今日の班決めでもそうだったが、周りの男子たちからはこぞって班に誘われていた。

 キャンプファイアーの時だって、恐らくあちこちから声をかけられることになるだろう。


「同じ班だし、ちょっと仲良くしたっていいんじゃない? むしろ、あたしには婚約者がいるし、下手な相手と踊ったら怒られちゃう、とかにしておいたほうがいいと思うわ」

「……その相手は、戸塚の方が良くないか?」

「つまり、あたしとは踊りたくないってことね……」

「い、いやそうじゃなくて……! ……まあ、俺も、ソフィアと一緒の方が落ち着くからいいけど」

「……そ、そう? それなら、決まりね」


 彼女の差し出されていた手を握り返すと、ソフィアがいつものように笑顔を浮かべる。

 

 戸塚と踊る、という提案への返答は結局有耶無耶にされたまま、押し込まれてしまったけど……まあ、いいか。


 その手を離そうとすると、ぎゅっと軽く掴まれる。


「高崎くんと久喜さん。どこまで関係が進むと思う?」

「……え? どこまでって……」

「こんな風に手とか掴むのか……それとも、こんな風に腕を組んで一緒に歩くとか」


 ソフィアが俺の腕に腕を絡ませてくる。それはまるでカップルがするかのようなものであり、制服の下に隠れていた彼女の胸に触れる。

 柔らかな感触が左腕に訪れ、思わず息を殺したような悲鳴をあげそうになる。


「えっち」

「……そ、そっちが当ててきたんだろうが」

「感想はないの?」

「……」


 か、感想って。

 それを答えるとセクハラになるのではないだろうか?

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