第27話
それが終わったら、夜は肝試しとキャンプファイヤーを行う、とのこと。
……実を言うと、この時間が一番人気らしいというのは普段の教室での会話でも聞こえてきていた。
なんか、好きな人を誘うなんとか。
そして、最後の三日目は移動日で、家に帰る、とのことだ。そして、その後振替休日となる。
「基本班行動だから、本庄他校のやつに喧嘩とかうらないようにね」
「……うらねぇよ、別に」
「てか、この林間学校で結構カップルもできるってお姉ちゃん言ってたんだよねぇ」
そう言って、俺たちを見てきてはいたが、戸塚が一番注目していたのは高崎のようだ。
高崎と久喜は露骨に一瞬反応していて、ソフィアが首を傾げてきた。
「そんな話あるの?」
「そだよー。色んなことを協力して、やってくうちに色々芽生えるんだってさ。それで、一番盛り上がってる肝試しからの、キャンプファイヤーとかで告白する人多数なんだってさ」
「へぇ、青春してるわね」
「でも、吊り橋効果みたいな感じで勘違いしてたとかで案外すぐに愛が冷めることもあるらしいよー」
「生々しいところまで話すのはやめてくれない?」
そうだそうだ。さっきまでなんだか嬉しそうにしていた高崎と久喜の表情がちょっと沈んじゃってるじゃないか。
「でも、そこで仲良くなって、その後にゴールデンウィークちょっと外れたタイミングに振替休日あるじゃん? そこ利用して遊びに行くこととかもあるってわけ」
「……なるほど。林間学校は意中の相手と仲良くなる、絶好のイベントってことよね」
「そうそう。少子化対策になってるかもね!」
やめなさい。
また高崎たちがちょっと恥ずかしそうにしているじゃないか。
それを察したのか、本庄が小馬鹿にしたように問いかける。
「んな大事なイベントだったらもっとちゃんと班を決めた方が良かったんじゃねぇか?」
「はっ、別に、あーしリアルに興味ないし」
「なんだよそりゃ。二次元とかそういうのが好きってことか?」
「そ。あーしの推しはVTuberの本城リュウキ様だしー」
VTuber。絵などを使って配信活動を行う人たちだ。
俺も配信を見るまでは行かないが、切り抜きなどがたまにおすすめに出てきて、そう言う時に見ることはあった。
「……んなっ」
本庄は驚いたように声を上げ、それから視線を迷わせる。
その態度に、戸塚は慣れた様子で声を上げる。
「あっ、きもっとか思った感じ?」
「いや、別に……人それぞれ趣味はあるからな……別にバカにしてるとかじゃなくて……だな」
困った様子で彼は、さっきよりもトーンの高い声で反応していた。
「ま、どー思われても別にいいけど。そういうわけで、あーしはどうでもいいってこと。青春したい人たちは、頑張ってーって感じ。あっ、応援はするからあーしに相談してもいいよ。知識は豊富だから」
「漫画とかの、だけれどね」
ソフィアがそう付け足したことで、恐らく高崎も久喜も相談はしないと決断したようだった。
……戸塚は、凄いな。
自分の趣味を堂々と話せるんだから。俺は……結局ソフィアにも本当の趣味については話していなかった。
拒絶されるかも、とかそういうことは考えないのだろうか?
そんなことを考えながら、視界の端にいる本庄は露骨に様子がおかしかった。
動悸が早まっている。呼吸の感覚が短くなっている。
……先ほど、戸塚の話を聞いた時からだ。
戸塚が恋愛に興味がない、というのを聞いてから……ではあるが、別に戸塚に興味があるとかはなさそうだった。
焦りや不安。
今の本庄からはそういった雰囲気が感じ取れる。明らかに、弱点を剥き出しにしている状態であり、もしもこれが喧嘩ならばそこを突くことになるだろう。
……今は別に、道場にいるわけではないのでそんな思考は置いておくとして。
考えられる可能性として……一つ思いついた。
もしかしたら、本庄も先ほど戸塚が話していたVTuberのファンとかなのだろうか?
……だとしたら、この林間学校中に同じ話題で話ができるような機会ができたらいいのかもしれないな。
そんなことを、ぼんやりと考えていると、班決めにとっていた六時間目は終了となった。
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