第26話



 とりあえず、班が決まった俺たちは机をくっつけて席に座る。

 男子側のリーダーは俺という認識のようで、真ん中の席に座らされてしまった。

 女子側のリーダーはソフィアなのか、俺の向かい側だ。

 あとは、ソフィアと戸塚が気を遣ったのか高崎と久喜が向かい合わせになるように座っていた。

 と、とりあえず……どうする? 班が決まった人たちは別段特にやることはなく、班同士で話をしていてくれということのようだ。

 ……か、軽く自己紹介でもしあうか? と思っていたのだが。


「なんかこうやってると合コンみたいだね」


 戸塚がケラケラと笑いながらそんなことを言っていた。

 さすがギャル。合コンの経験もあるようではある。ただ、渡りに船である。

 俺は戸塚の提案に合わせ、笑顔とともに口を開いた。


「そ、それじゃあ、自己紹介でもしとくか?」 

「自己紹介って、お互い知らない仲じゃないっしょ? 高崎、道明寺に、不良くん」

「……不良じゃねぇよ」


 戸塚が冗談なのか本気なのか分からない調子で言うと、本庄はふんっとそっぽを向いた。


「冗談冗談。てか、マジで目つき怖くてやばー。何人くらいやったことあんの?」

「冗談って言ってなかったか?」


 本庄が頰を引き攣らせながら、机に拳を叩きつけるように言うが、戸塚は楽しそうに笑っていた。

 ソフィアは特に動じることはないのだが、高崎と久喜は完全に怯えてしまっているようだ。


 ある意味、二人きりにさせるということは成功しているのだが、このままだと二人の精神的負担が大きくなるだろう。

 なんとか、場を和ませつつ、本庄が怖くないことを伝えなければ…!


「ほ、本庄は、生まれつきこういう目なだけであって、そこはもう仕方ないんだと思う」

「フォローになってねぇぞ、道明寺……」


 俺が言うと、本庄がじろっとこちらを見てくる。ソフィアがくすくすと笑っていたが、本庄へのフォロー自体は失敗してしまった。

 ……しかし、ここまでやっても本庄が別に手を出してくることはないということで、高崎と久喜もひとまずは落ち着いてくれたようだ。


「まあ、今ので大体男子側は分かったっしょ。次はこっち? ソフィアでしょ、あーしでしょー、あと高崎ちゃんね」

「てめぇの名前はあーしかよ」


 さっきの仕返しとばかりに戸塚に言い返す本庄。


「なになに、あーしの名前知りたいの?」

「知ってるっての」

「うわ、変態じゃーん」

「……こいつッ」


 ケラケラと笑う戸塚に、本庄が拳を固めている。

 と、とりあえず……本庄の扱いは戸塚に任せておけば問題なさそうだ。


「え、えっと……よろしくお願いします」

「僕も、よろしくお願いします」


 眼鏡の位置を直すようにしながら、久喜が丁寧に頭を下げ、高崎も皆に挨拶をする。

 恥ずかしそうに俯く久喜の表情はとても可愛らしく、高崎が見惚れている。


 俺も思わず見惚れそうになっていると、いたっ!?

 コツコツと脛のあたりが蹴られている。

 視線を向けると、ソフィアがじとーっとした目を向けてくる。


 作戦に集中してる? という感じなのだろう。

 俺たちの目的は、高崎と久喜が仲良くなれる場を提供すること、だったもんな。


 本来の目的を見失わないよう、教えてくれたソフィアに感謝する。


「とりあえず、そういうわけでだいたい皆のことは分かったと思うし、よろしくな」

「よろー。とりあえず、全員のグループライン作っておくから、招待するねって……二人の名前ないけど、別の名前使ってんの?」


 戸塚がさっさとスマホを操作し、俺たちに問いかけてくる。

 もしかしたら、クラスラインのメンバーとかを見て聞いてきたのかもしれない。

 名前が見当たらないとなれば、本名以外で登録しているという考えるのは普通だが、そもそもそのクラスラインにクラスの人全員が入っているわけじゃないんだな、これが

 ……はぁ。


「いや、俺は……その……入ってないっていうか」

「群れるの嫌う系? 孤高の一匹狼的な?」

「そんなかっこいい理由じゃなくて…………完全にタイミングを逃したっていうか……」


 ソフィア、ちょっと笑いそうになるんじゃない。


「やば。道明寺は……登録してる名前が道明寺優人、と。とりあえず誘っとくね。んで、本庄はどうする? ぼっち貫く?」

「んで、オレはぼっちなんだよ……オレも、タイミングがなかったんだ。ついでに、教えてくれ。なんか、宿題の答えとかでまわるときもあんだろ?」


 本庄はニヤニヤと打算的な考えで提案してくる。

 ……クラスライン、そんな使い方もあるのか。本庄はスマホを取り出し戸塚に向けると、彼女は面白いものでもみるように口元を緩めている。


「いやいや、自分でタイミングなくすようなことしてない? 草生えるんですけど」

「……てめぇ」


 戸塚は完全に本庄との距離感を覚えたようだ。まだ高崎と久喜が緊張しているから、戸塚がうまく場を和ませるようにしてくれているんだろう。

 軽い冗談を残しつつ、本庄もグループラインへと誘った。


 ……なんだかんだ、クラスラインにも入れて助かったな。

 心中で密かに喜んでいると、戸塚が旅のしおりと書かれたものを取り出す。


 まだ、大まかにしか作られていないが、班決めの前に配られたものだ。

 二泊三日の林間学校のスケジュールが書かれている。


 一日目は、基本的に移動日だ。バスを利用しての移動となり、だいたいお昼頃には向こうに着くそうだ。


 その後は、軽く周囲の散策をしつつ、皆でカレー作りを行うとのこと。

 夜は宿に人を招いて、軽いお話を聞き、翌日の山での歩き方を含め、仕事の話などが聞けるそうだ。


 二日目からが、本番だ。

 日中はそれぞれで決めたコースを巡り、山登りだ。

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