第25話



 ワイシャツの下は汗で、グショグショだ。少し不快感がある。俺の健闘を祝うかのように、開けられた教室の窓から爽やかな風が入ってくる。


 一部始終を見ていたソフィアが、周りに気づかれない程度にこちらへぐっと親指を立ててきたので、俺も机にぐったりとしながら小さく親指をたてて返した。


 

 六時間目。班決めの時間となった。

 俺のように事前に工作していた人もいれば、今からメンバーを集める人たちもいる。

 そんなこんなで、俺が声をかけておいた高崎と本庄を手招きで呼び寄せる。


「……う、うえ?」

「……んだよ?」


 高崎は本庄を見て、少し怯えた様子である。こら、本庄。高崎をいじめるんじゃない。

 俺も本庄も身長が高く、高崎は俺たちより一回り小さい。


 なので、俺たちに囲まれている高崎は完全に肉食獣に怯える草食動物のように見えるかもしれない。


 心配そうな様子で久喜がこちらへちらちら視線を送っている。

 違うんだ、俺たちは別にいじめているわけじゃないんだ!


 本庄は高崎の様子を見て、困ったように頭をかいてからこちらを見てくる。


「オレ、抜けよっか? 一緒にいても、やだろ」

「え……?」


 驚いたように高崎がそういって、本庄が立ち去ろうとする。

 いやいや、待て待て。俺は慌てて彼の手を掴んだ。


「いや、お前と一緒がいいんだよ。俺は、二人と友達になりたくて声をかけたんだから。……だから、勝手に抜けないでくれ」


 そういってから、少し恥ずかしくなって後悔する。

 ソフィアの頼みであったとはいえ、友達を作りたいという気持ちは嘘ではなかった。


 ただ、俺は事前シミュレーションをしていないとロクなことを言えない自分のことが苦手だった。

 また、悶々ポイントを作ってしまったのだが、本庄は「お、おう……」と微妙な反応を示しながらも、残ってはくれた。


 高崎も、そんな俺たちのやり取りを見てか、少しは落ち着いたようだ。


「ご、ごめんね。僕、ちょっとビビりで……」

「い、いや……こっちも、こんな見た目だしな。ビビらせて、悪かった」


 ……とりあえず、高崎と本庄も話をすることには成功したようだ。

 こういうとき、ソフィアだったらうまく場をとりまとめられるのかもしれないが、俺は間に入って見ていることくらいしかできない。


 万が一、喧嘩でも始まれば押さえるくらいはできると思うけど……この場では何の意味もない。

 沈黙が、場を支配する。ま、まずい。誘ったのは俺だし、何か話題を提供しないと。


「それで……あとは女子の班と合流できればいいんだけど、ど、どうするかね」

「……あ、余ってるところに合流させてもらうとか?」


 そういいながら久喜のことを目で追う高崎。うん、絶対一緒にさせてあげるから、ちょっと待ってて。


「まあ、どっかしらあまんだろ」


 本庄は特に興味はないようで、あとは任せるという感じだ。人選としては、悪くなかったな。

 ……そういえば、ここからはどうするのだろうか?


 ちらと、ソフィアの方を見てみると、やはり大人気のようで男子グループから声をかけられていた。

 その前に、ソフィアは久喜を手招きし、パーティーに追加している。


 戸森がソフィアに抱きついて、挨拶をしていて……それを高崎が羨ましそうに見ている。

 こっからどうするんだと思っていたのだが、そこでソフィアが周りの誘いを断りながらこちらに向かってきた。


 ソフィアと俺が向かい合う。それから、彼女はいつもの調子で笑いかけてきた。


「それじゃあ、一緒の班にしましょうか」

「……ああ、よろしくな」


 堂々と、ソフィアは教室で声をかけてきた。俺とソフィアが、今の関係になってからこうやって教室で話したのは初めてだ。

 「え?」という周りの反応とともに、少し静かになる。

 それをかきけすように、戸塚が声を上げた。


「よろしくねー!」


 戸塚が元気よく、バンっと肩を叩いてくる。その身体的接触を伴うノリには一生慣れることはないかもしれないな……。


「ああ、よろしく。そういうわけで、高崎、本庄。一緒の班になる人たちだ」


 俺がそう伝えると、高崎と本庄はどこか驚いた様子だ。

 まさか、女子の班がこうまで簡単に決まるとは思っていなかったのだろう。

 高崎の視線は久喜に向けられたままであり、久喜は慌てた様子で頭を下げる。


「よ、よろしく、お願いします」

「う、うん。よろしくね」

「……よろしく」


 高崎と本庄も同じように挨拶をしていく。

 とりあえず、真っ先に俺たちの班が決まったので、黒板にメンバーの名前を書いていく。

 クラスメートたちはやはりソフィアと一緒の班を狙っていた人たちもいるようで、ちらちらと視線が俺たちに向いたが、本庄が周囲を見るとその視線もすぐになくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る