第24話




 昼食を終えた後、俺たちは別々に教室へと戻っていく。


 ……さて、ここからは時間との戦いだ。

 教室に着いた俺は、すぐに行動を開始する。

 六時間目まで、あまり時間はない。すぐに動かないと、俺が候補にあげている二人が別のグループに取られてしまうかもしれない。


 高崎、本庄の二人へ視線をやる。高崎は一人、席について次の授業の準備をしている。

 本庄はつまらなそうな表情でスマホをじっと弄っていた。めちゃくちゃ指が高速で動いている。何かのゲームをやっているのか、それとも誰かと連絡を取り合っているのか。


 とりあえず、本庄は後回しだ。彼のクラスでの評価を考えれば、すぐにスカウトされることはない……はずだ。

 その前に、高崎に声をかけないと。

 俺は席をたち、高崎の方へと向かう。……緊張してきた。


 ソフィアにはああ言ったが、自分には少し荷が重い。

 最初に比べると、歩幅が小さくなっていく。高崎の近くまで歩いていき、そのまま素通りをして廊下に出たくなってしまう。


 ……一度、誤魔化すように廊下に出て、深呼吸。


 お、落ち着け。このくらい、どうということはない。

 あくまで、用事があって声をかけるんだからな。


 事前に脳内でシミュレーションをする。

 大丈夫、脳内の俺はきちんと話せている。シミュレーションを終えた俺は、それから教室へと戻り、高崎の席へと向かう。


「ちょ、ちょっといいか?」


 ……いきなり、きょどってしまった。

 それでも俺は、友達を作るんだという強い意思をもち続けた。


「え? あれえーと、確か……道明寺くん、だっけ?」

「あ、ああ道明寺優人だ。よろしく」

「うん、よろしくね」


 少し困ったように笑いながら、開いていた教科書を閉じる。

 ああ、作業中に声をかけてしまって、申し訳ない。

 俺なんかのために時間を割かせてしまったことに、申し訳が立たなくなる。


 ていうか、なんでここで自己紹介なんてしているんだ俺は。

 シミュレーションと全く違うことをしてしまった自分に悶々とする。


 家に帰ったら絶対ここでの会話を思い出して叫びたくなるやつだ。

 でも、ここまで来たのだからもう後戻りはしない。


「高崎は……今日の林間学校の班決めとかって相手はもう決まってるのか?」


 とか、という言葉はいらないだろう俺。また悶々ポイントができてしまったことに愕然とする。


「え? いや、まだ決まってないけど……」

「で、できれば俺と一緒に組んでくれないか? あと、もう一人も誘うつもりだから、その……ど、どうだ?」


 とりあえず、短い言葉ではダメかと思い無理やり口を開いた結果、その後に続く言葉が思い浮かばず、なんとも変な会話になってしまっている自覚はある。


 ソフィアとは、仮の婚約者という割り切った関係があったから自然に話せていたのだが、俺の元来のコミュ力はこの程度だ。


「え、うん、いいよ! 僕も、誰と一緒になろうかって迷ってたんだ。よろしくね」


 しかし、高崎は嫌がる様子はなくぱっと明るい表情で頷いた。


「あ、ああよろしく。そ、それじゃあ、また六時間目にな」

「うん、またね」


 高崎は、笑顔で俺を見送ってくれた。

 ……神。

 神だ。絶対、久喜と一緒に組めるようにするからな、高崎。

 きょどりながら、俺は安堵の息を吐く。


 さて、この調子で次は本庄だ。

 まだスマホを弄っていて、ちょっとばかり忙しそうに見える。


 今声をかけたら邪魔してしまうだろうか? でもなあ、後になってもしも本庄が埋まってしまったら下手したら俺と高崎が一緒の班になれなくなってしまうかもしれない。

 今のうちに、確認しておかないとな。


「本庄、ちょっといいか?」

「ん? なんだよ」


 彼は声を抑えるようにして、こちらをじっと見てきた。

 睨んでいるわけではないのだろうが、目つきが鋭い。

 それでもまあ、別に怖いとかで緊張するということはない。


「林間学校での班はもう決まってるか?」

「いや、別に……決まって、ねぇけど」

「それなら、俺と高崎の班に合流しないか? 今、一人足りなくて困ってるんだ」

「お、おう……別に、いいけど」

「それなら、六時間目よろしくな」

「……おう」


 すんなりと話が通った。良かった良かった。

 俺は小さく安堵の息を吐いてから、自分の席へと戻る。

 とはいえ……最初に話しかけた時の緊張感による疲れは凄まじい。

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