第22話




 木曜日。

 ……この前、高崎と久喜を図書室で見かけたからか。

 ついつい、彼らを目で追ってしまう。

 二人は教室では特別関わり合いがあるわけではないようだ。

 ……ただ、席がわりと近くであるため、時々一言、二言話している。


 ごくごく自然な会話なのだろうけど、知っている俺とソフィアからすれば、なんとも意味深だ。

 ソフィアは、尊い、と話していたがなんとなく気持ちは分かる。


 高崎も久喜も、どちらもクラスには友人がいないようだ。

 ……人のこと、言える立場ではないが。


 ただ、昼休みになると別のクラスから友人が来て、一緒に学食などに出かける……という感じだ。


 友人たちは同じ中学だったのか、あるいは部活動とかだろうか。

 俺とは違って活発的だなぁ。


 昼休み。俺は珍しく、ソフィアに呼び出しを受けていた。

 場所は、文芸部部室。俺が常に鍵を管理しているため、昼休みだろうと中に入るのは簡単だ。


 一人になりたい時などに、俺はここに来ているわけだ。

 一人になれる場所であるため、密会をするにはうってつけの場所だ。

 俺が先に部室に到着すると、少し遅れてソフィアがやってきた。


「いきなり呼び出して悪かったわね」

「いや、大丈夫だ。でもどうしたんだ?」

「作戦会議よ」


 席についたソフィアが、両肘をつき意味深な表情でこちらを見てくる。

 作戦会議、と言われてもピンとはこなかった。そんな作戦会議が必要な話題があっただろうかと思っていると、


「林間学校、あるじゃない」


 ソフィアがそう言って来て、俺は少し憂鬱なイベントを思い出していた。

 ゴールデンウィークに、二泊三日の林間学校があるんだよな。

 山登って、キャンプファイヤーして……そんな感じで生徒同士が馴染めるようにするための交流会という位置付けだ。


 ……入学から一ヶ月後に行われたとして、すでにある程度グループというのは決まっているものであり、この交流会は俺のような立場の人間へのトドメのようなものになるのではないかと思っていたが、俺はわりとこのイベントが楽しみだった。


 もしかしたら、友達とかできるかもしれないし。

 ただ、問題もある。

 林間学校の最中は、基本的に班行動を行う。


 クラスの男女の人数によって多少変わるが、うちのクラスの場合は男三人、女三人での班になるだろう。

 俺が少し憂鬱に感じているのはここだ。

 ……班決め、大丈夫だろうか。


 俺なんて、確実に余る側なので最初から不安なのだ。班決め自体は好きな人同士で、ということになるのでちょっとばかり困っていた。


 もしかして、ソフィアの作戦会議もそこに関係しているのだろうか?

 ちょうど、今日の六時間目にその班決めが行われるため、確かに事前に決めておいた方がいいというのはあるが……ソフィアは四人グループだし、問題はなさそうだが。


 ……いや、でも逆に四人だと、今回の班決めではうまく分けられないのだろうか。

 それでソフィアが例えば一人になるようなことがあり、相談したのかもしれない。


「作戦会議って、今日の班決めのことか?」

「さすが、話が早くて助かるわね。……ほら、この前の高崎くんと久喜さん。二人が同じ班になれるようにしたほうが良さそうじゃない?」


 ……うん。どうやら俺の推理はまるで見当外れだったようだ。

 ソフィアのようなコミュ力の塊が班決め程度で悩むことはないか。


「確かに……それは一理あるかもな」

「……そこで、あたしは考えたのよ。あたしのグループを二人ずつに分けて、久喜さんを誘うのよ」

「……天才か」

「でしょう」


 ふふん、と得意げに胸を張る。

 教室での久喜さんを見ていれば、一人で行動していることが多い。


 ソフィアたちが声をかければ、恐らく簡単に誘うことはできるだろう。

 ただ、問題は高崎の方だ。あちらも一人で行動しているから、誘えばどうにかなるとは思うが。


「高崎はどうするんだ? ソフィアから誘うのか?」

「それも考えたんだけど、そこで優人に協力をお願いしたいってわけよ」

「……俺?」

「案はいくつかあるんだけど、例えばあたしと優人の関係を公開しておけば、スムーズに人も集まるんじゃない?」

「俺との関係を暴露することに意味はあるのか?」

「反応、楽しそうじゃない?」


 ソフィアの自己満足じゃないか。

 ……別に、俺としても積極的に隠しているつもりはないが、もしも発覚した時の反応は恐らく微妙なものになるだろう。


 「なんであんなやつが?」、「まったくつりあってないだろ」、みたいな反応になり、その視線に晒されることを想像したら、吐きそうになってきた。


「いや……それはやめてくれ。次の案は?」

「優人が高崎くん含めての三人の班を作ってもらってあたしたちがそこに合流するってやり方よ」

「……まあ、現実的だけど……でも、ソフィアたちの班なんて人気じゃないか?」


 それこそ、複数球団競合のドラフトみたいなもんだろう。

 男子たちがこぞって応募してくるわけで、そこから俺たちが選ばれるというのは少々イカサマを疑われるはずだ。

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