第20話
「……本棚に穴が開けられたらいいんだけど」
やめい。
どうにかして見ていたい様子のソフィアだったが、結局俺たちはそれ以上は何もできないため、席へと戻った。
二人も、勉強しているだけのようだしな。席に戻ってからもソフィアは上機嫌だ。二人のことはまだかなり気にはなっているようだけど、ひとまずといった感じで鞄から袋を取りだす。
「これ、ノベルと漫画ね」
「ありがとな」
ノベルは現在五巻まで出ていて、漫画は三巻まで出ている。
結構な荷物になってしまっただろう……本当に感謝しかない。
ソフィアから受け取った袋をそのまま鞄へとしまった。
特にこれで予定はなくなってしまったのだが、まだソフィアは図書室に残るようだ。
というか、さっきからずっと高崎たちが座っているはずの席の方へ視線を向けている。
「気になるのなら、また見える位置に移動したらいいんじゃないか?」
「……でも、見られたらできることもできなくなっちゃうじゃない。あたしは、さすがにお邪魔虫にはなりたくないわ」
俺も同意見だ。俺だって二人がどうなるのかは気になるところだが、これ以上情報を得ることはできないだろう。
「……ていうか、告白ってどんな感じなのかしらね?」
「ソフィアは、告白とかしたことないのか?」
「あたしからはないわね。されたことはあるけど」
ソフィアは……やっぱり告白されたことはあるんだな。
俺としては、されたこともなかったので、どちらの気持ちも想像することしかできなかった。
「される側としては、やっぱり緊張とかするものなのか?」
「……どうだった、かしらね。最初は結構ドキドキしてたかもしれないけど、それも回数が増えていったらもう当たり前みたいになっちゃってよく分からなくなっちゃったわよ」
「日常化しちゃったってことか……。ていうか、そんなに告白されてたのか?」
「なんかもう男子の間で流行ってたみたいよ。あたしに告白して誰がオーケーもらえるか、みたいな」
「うわ、それはなんかちょっとやだな」
「そうなのよ。……まったく知らない相手から告白されても困るって話よ。なんか、告白を一発逆転の手段みたいに考えてる人たちが多かったけど、告白ってそれまでの積み重ねが大事じゃない?」
「まあ、そうだな」
確かに、好きな人がいたとして、それまでまったく関わりがないのに告白してもうまくいくことは少ないだろう。
告白されて意識するようになる、ということもあるのかもしれないがそれは稀なのかもしれない。
「だから、あたしとしては告白に関してドキドキって感情はないのよ。でも、婚約者って便利よ? そういう告白祭りをシャットアウトできるし」
「……周りに、普通に話してたもんな」
それでクラスの一部男子生徒がショックを受けていたんだよな。
まあでも、実情を知っている俺としては、男子生徒たちも別に本気でショックを受ける必要はないんだけどな。
俺たちは、お互いに本当に好きな相手ができたら婚約は解消でもいいという話だし。
「そうそう。名前は出さずに優人のこと話すの、結構楽しいのよね。あんた話題に出すたび、びくっ! ってなるし」
「……だってこっち見てくんだもん。ヒヤヒヤしてたっての」
「楽しめていたのなら良かったわ」
楽しんでいるのはソフィアだけだって……。
特殊な楽しみ方をしているソフィアにため息を吐きつつ、でもまあ話題に出されることは別に嫌ではないという複雑な気持ちでもある。
「そういえば、優人は告白したこと、されたことはあるの?」
「いや……したことはないし、されたことあると思うか?」
「あると思ったから聞いたんだけど」
いつもの冗談だろうか、と思っていたが真面目な顔だ。
どこまで本気か分からないがそこは今の質問への返答に関係する場面でもないか。
「俺はないぞ」
「そうなのね。意外だわ」
「意外か?」
ソフィアのように目立つ容姿ではないし、褒められる特技があるわけでもない。
モテる要素には、決して容姿がすべてではないと思うが、容姿が普通でモテる人というのはだいたいコミュ力が高い。
俺は、そのコミュ力もかなり低いのでどうしようもなかった。
しかし、ソフィアの意外そうな顔は変わらずだ。
「だって一緒にいて落ち着くわよ? 見た目だって悪くないと思うし……案外恋愛ってのは難しいもんね」
……そ、そんな素直に褒められると照れる。
恥ずかしさを表に出さないようにしたかったが、頬が熱くなっているので隠せてはいなさそうだ。
「あれ、照れてる?」
「……い、いや別に」
「隠したって無駄よ、照れてるじゃない」
俺の頬を指差し、彼女はからかうように笑ってくる。
どうやら、バレてしまっているようだ。このくらいの褒め言葉で喜んでしまう自分が情けない。
「今まで……あんまり褒められたことなくてな。嬉しかったんだよ」
「……そう素直に言われると、こっちもなんだか恥ずかしくなってくるわね」
そう言って僅かに赤くなった頬をかきながらソフィアがいうと、そのときちょうど高崎と久喜の二人が歩いていくのが見えた。
勉強会が終わったのだろうか? 鞄を持って談笑しながら歩いていく二人は完全に二人の世界に入っているようで、俺たちのことは気にしてないようだった。
まあ、そもそも座っている位置的に振り返らなければ視界に入ることもないだろう。
「……この後、放課後デートって感じなのかしら?」
「そうなんじゃないか?」
「……ちょっと気になるけど、さすがに尾行は気持ち悪いわよね。二人がうまくいくことを祈りましょう」
両手を合わせたソフィアを真似するように、俺も両手を合わせておいた。
二人の恋がうまくいきますように。
そんなことを考えてからソフィアに視線を戻すと、彼女は考えるようにで腕を組む。
「放課後デートって……何をするのかしら」
「食事とかじゃないのか?」
俺は自分の経験からの意見を伝えてみる。完全に、昨日のみの経験だ。
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