第19話
放課後。俺はソフィアから呼び出しを受けていた。
昨日話していた本を貸してくれるということだったのだが、図書室集合になった。
教室で本だけ貸してもらうというのは目立つので、このような運びとなったのだが、ソフィアの負担が大きかったかもしれない。
図書室へと入ると、長い机がいくつも並んでいる。普段は全く人のいないそこだが、今日ばかりは生徒が座っていた。
うちのクラスの男女だ。
確か、男の方が高崎で女の方が久喜という名前だったか。
二人は特に俺に気づいている様子はなく、一緒に勉強か何かをしているようだ。
……も、もしかして付き合っているのだろうか?
なんだか楽しそうな雰囲気があり、ちょっと気にはなったのだが俺は左側の通路へ向かう。
本棚に囲まれているため、向こう側の様子は分からない。
二人とも、図書室であるため声を抑えて話してはいるのだが、それでも耳を澄ますと少しだけ聞こえてくる。
断片的ではあるが、笑い声がしてきて、何やら盛り上がっているようだった。
会話の中から、おそらく付き合っているわけではなく、たまたま一緒に勉強しているんじゃないだろうか、という風に感じられた。
まだちょっと二人の間には壁があるようなんだよな。
ただ、そのせいもあり余計に気になってしまった俺は、彼女らの席にもっとも近い本棚へと近づき、本を手に取りながら耳を澄ませる。
……ここなら、向こうからは見えず、声も聞こえるからな。
「……いやぁ、ありがとね久喜さん。僕、あんまり数学得意じゃなくて」
「ううん。私もいつも英語教えてもらってるんだし、お互い様だよ」
……いつも、か。俺も結構図書室には通うのだが、見かけたのは今日が初めてだ。
もしかして普段は別の場所で教えているのだろうか?
人並みに気になってそこで耳を澄ませていると、ちょいちょいと肩をつつかれる。
「……っ」
思わず声をあげそうになって視線を向けると、そこには楽しそうな笑顔を浮かべているソフィアの姿があった。
声を抑えられた自分を褒めてほしいくらいだ。
「何してるのよ」
囁くような声で問いかけてきた彼女に、俺は少し気まずくなる。
今俺がしていた行為は、二人の話を盗み聞きするというものだ。
あまり、褒められたことではないだろう。後ろめたさもあり、俺は肩を落としながら席に戻ろうとして、ソフィアに腕を掴まれる。
「あの二人、気になっていたのよね?」
「……あ、ああ。でも、盗み聞きはよくないと思って――」
「……いいじゃない。あたしも、気になってるのよ」
ソフィアは目を輝かせながら、先ほど俺が陣取っていた場所に戻る。
俺もソフィアの隣に並び、誤魔化すように本を手に取る。
「……つ、付き合ってるのかしら?」
「いや……話し聞いている感じ、まだそういう関係じゃなさそう、だったな」
「……へ、へぇ」
ソフィアはなんだか楽しそうだ。……そういえば、彼女が好きな漫画とかはラブコメが多かったし、こういった恋バナ的なものは好きなのかもしれない。
俺も、好きだ。
二人は問題を解きながら、何やら会話をしている。
ちら、とソフィアが本棚の陰から顔を覗かせる。
さすがにそれはバレるのでは、と思ったが……俺がここにくる前の席の状況を思い出す。
高崎と久喜の二人は、確かこちら側に背中を向けるような形で座っていた。
だから、大丈夫なのだろう。
ソフィアがこちらに戻ってきた。
「楽しそうだわ」
「……そうだな」
「うまくいっていそうね。……あのままなら問題なく付き合えそうね」
「だな」
「ど、どっちから告白するのかしら」
どっちだろうか。
高崎も久喜もどちらもクラスではあまり目立たない立場だ。
どちらも積極的ではないため、確かに想像はできなかった。
「やっぱり、高崎からじゃないか?」
「それはどうしてよ」
「ほら、こういうのはやっぱり男からってことが多くないか?」
「詳しいのね」
詳しい、と言われてた俺はその理由が漫画やアニメなどで得たものだったため一人ひっそりと落ち込んでしまった。
「あたしは、久喜さんからだと思うわね」
「……そうか?」
「久喜さんとは少し話したことがあったけど、意見をしっかり言う子なのよね。だから、本当に好きなら絶対久喜さんから告白すると思うのよ」
……な、なるほど。
俺よりもしっかりとした理由を持っているな。
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