第18話
もしも、お互いの両親にデートの感想を聞かれた時に、具体的な話ができるように色々な経験をしておいた方がいいはずだ。
そう、これはあくまでそういう経験の一つ。特に意識する必要はないだろう。
俺は差し出されたフォークをじっと見て、それからソフィアの唇を見てしまう。
一度、ソフィアが使ったフォークだ……ってだから意識をしちゃダメだ。
俺は深呼吸を一つしてから、差し出されたフォークにぱくりとかぶりついた。
……あっ、美味しい!
「うまいな、こっちも……! 凄いチョコレートがしっかりしてる」
「そ、そう……でしょ?」
ソフィアはまるで自分が褒められたかのように嬉しそうに頬を染めていた。
でも実際、俺はソフィアに感謝していた。
今日、ソフィアに誘われなければ、俺はおそらく一生このケーキの味をしることはなかっただろう。
「じゃ、じゃああたしはそっちのケーキを――」
そうだった。ソフィアもショートケーキを食べたがっているはずだ。
俺はすぐにフォークで一口分を取ってから、ソフィアに向ける。
「うえ……?」
「どうぞ。食べてくれ」
「……」
ソフィアは俺が差し出したフォークを見て、まだ先ほど褒めたときの照れがぶり返したように頬を赤く染める。
……あれ? さっき俺が食べさせてもらったから次は俺の番かと思っていたんだけど、違ったんだろうか?
いや、やり方が違うのかもしれない。確かに、さっきのソフィアはもう片方の手を添えるようにしていたっけ。
そうだ、こうだ。この構えじゃないとダメなんだ。
「……な、なんでちょっと満足げな顔なのよ?」
「え? いや、なんかうまくいっているなと思って」
「……ああ、もう!」
ソフィアは少し声をあげてから、俺のフォークへとぱくりと咥えた。
いい食いっぷりだった。それほど、楽しみだったんだろう。
「ど、どうだ?」
「……美味しい、わね」
よほど美味しくて興奮しているのか、さらに顔を赤くして小さく頷いた。
そんなことをしていると、新しいケーキが運ばれてくる。
店員さんがニコニコと食べ終わった皿を片付け、新しいケーキを運んできてくれた。
……俺もアルバイトとかは考えたことあるけど、やっぱりこんなに優しい笑顔を浮かべることはできないし、たぶん俺には一生無理だ。
そんなことを考えながら、俺たちはケーキを食べていったのだった。
月曜日。
昨日のデートは無事終わり、おそらくは家族から何か言われることもしばらくはないだろう。
……まあ、俺の場合、別に両親から何か聞かれるようなことは元々なかったのだが。
俺はいつものように学校へと行くと、すでにソフィアたちが教室にいた。
俺の近くの席を占領するように話していた彼女たちの前を過ぎるようにして、自分の席についた。
ソフィアと一瞬目があったような気がした。
昨日は……楽しかったな。
食事をした後はまっすぐ家に帰ったのだが、どのケーキも非常に満足できるものだった。
今度、一人で行こうかなと思うくらいにはハマってしまった。
「あっ、そうそう。前に夏樹が話してたお店に昨日、行ってきたわよ」
「え、まじ?」
ソフィアがそう戸塚にいったところで、スマホを取り出す。
写真でも見せているのだろうか。戸森たちがソフィアのスマホへと群がっていき、皆が見ていく。
「パスタは普通に美味しかったけど、やっぱりケーキが最高だったわよ」
「うわー、あーしも行きたかった! お姉ちゃんが良かったって言ってたんだよね! なんで誘ってくれなかったの!」
バシバシと戸塚がソフィアの背中を叩いている。
白岡、蓮田の二人がソフィアの写真を見ながら、頬を引き攣らせている。
「ていうか、ソフィア……食べ過ぎじゃない!?」
「これ全部頼んだの!? それでそのスリム体型なの!?」
確かに、あの撮影した写真全て見ていたら、ソフィアが食べ過ぎなのではと思われることだろう。
しかし、ソフィアは全くその指摘を気にしていないようで、笑顔で答える。
「他の人と一緒に行ってきたのよ。その人と半分ずつ食べたからそんなに食べてないわよ」
……っていっても、結構な量だとは思うけど。ソフィアもかなり大食漢のようで、まったくペースが落ちることはなかったんだよな。
まあ、たぶん俺の方が全体的に多めに食べていたとはいえ、それでもソフィアも相当カロリー自体は摂っていたと思う。
「え? まさか、男!?」
「そうよ。ほら、この前話してた婚約者の人とよ」
ソフィアは自然な動きで視線を外すように、こっちを見てくる。
だから、そうからかうような目でこっちを見てくるんじゃない。
周りの人たちはただちょっと視線を外したくらいにしか思っていないかもしれないけど、俺はドキリとさせられるから。
「えー、マジで? めっちゃ仲良しじゃん! ずる!」
「何よー! 恋人いない同盟はどうしたのよ!」
「ていうか、婚約者の写真はないの? ケーキもいいけど、そっちの方もみたいんだけど!」
「そうねぇ……たぶん、あんまり写真とか好きじゃないと思うんだけど、本人に聞いて撮ってみようかしら?」
だから、こっちを見ないでくれ。
ていうか、写真なんて残したら確実に俺だと判明してしまうわけで、それだけはさすがに断らせてもらいたかった。
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