第17話



 それも、一般的ではない趣味だと、余計に相手からしたら疑問があるんだと思う。


 執筆していることを伝えられればいいけど……それをソフィアに否定されたら、結構落ち込む。

 ていうか、今こうやって悩んでいる間にもすでに落ち込んでいた。


 自分の趣味に自信を持てていなないことが情けないという気持ちもあるし、ソフィアに嫌われたくないという思いもあって……。

 小首を傾げてきて、さすがに返事に時間をかけすぎてしまっていると思い、俺は慌てて口を開いた。


「俺は……その、漫画とか読んだり……ゲームしたりとか?」


 一番無難なものだ。こういった趣味は、周りの人もしていて否定されたことはなかった。

 そして、この趣味だって嘘ではない。実際、ゲームや漫画も好きだ。

 ……一番、ではないけど。

 俺の言葉にソフィアがピンと背筋を伸ばしてから、目を見開いた。


「あたしも、よく読むわよ! 移動中とか暇な時間多いし!」

「え、そうなのか?」

「今めっちゃハマってるのは、ヒトコイなんだけど知ってる!?」

「あ、ああ……確か、亜人と人間の恋を描いた漫画で……今度、アニメもやるっていう……」


 今人気の作品、などはだいたい目を通しているのですぐに分かったのだが、ソフィアまで好きだったとは。


「そうそう。あれどのキャラが好き? あたし、田中とメデュちゃんのペア超好きなんだけど!」


 この作品は最初からある程度カップリングのようなものがされていて、そのペアごとの恋愛模様を楽しむような作品だ。

 作品全体として大きな物語の谷や山があるわけではないのだが、雰囲気がとてもいい。


「お、俺もその二人はかなり好きだけど、一番は吉野とラーアのペアかな……」

「あっ、そっちもいいわよね! なかなかいいセンスしてるわね! ヒトコイ読んでるなら、めきめき荘はどう? あれも似た感じでいいわよ」

「めきめき荘、聞いたことはあるけど読んではなかったな」


 確か、あの作品はライトノベルが原作だったはずだ。コミカライズで一気に伸び、ノベル自体の売り上げも大きく上げたはずだ。

 気にはなっていたのだが、現状読んでいる作品などを買っていたらお金が結構ピンチだった。


 アルバイトとかしたほうがいいのかもしれないけど、俺がコミュ障だから難しいと思って、今はまだ何もしてないんだよな……。

 小説家になって、その稼ぎで買えるのが一番いいんだけど、それができるような立場ではない。


「漫画持ってるから今度貸すわよ。あ、それともノベルのほうが良かった? ラノベなんだけど読む?」


 思っていたよりも、ソフィアは色々なジャンルに手を出しているようだ。

 彼女の仕事柄、移動時間などに読んだりしているのかもしれない。


「……読みたい」

「分かったわよ。じゃあ、明日にでも持っていくわね」


 俺はこくりと頷いた。

 ……楽しみだな。


 デザートは食後にということでまずはパスタが運ばれてくる。こちらももちろん美味しくいただいていく。

 それを食べ終えた後は、デザートであるケーキだ。

 まずはチョコレートケーキとショートケーキが持ってこられた。

 とりあえず、注文の量が多いかったから、まずはこの二つからだ。

 ソフィアは目を輝かせながら、運ばれてきたケーキの写真を撮っていた。

 俺の方に置かれたケーキも写真を撮った彼女は、それからフォークを手に取った。


「そ、それじゃあ食べましょうか」

「そうだな」


 ……とはいったのだが、どうしようか。

 二人で半分ずつ食べるという話だったが、ケーキの形は三角形だ。

 どのくらいが半分なんだろうか? じーっとショートケーキを眺めている。

 それに、ショートケーキといえば上にのっているイチゴがメインだろう。

 これを半分こにはできない……どうしようかと思っていると、ソフィアはすでに嬉々として食べ始めていた。


「あっ、美味しいぃ。甘すぎなくて、食べやすいかも。そっちはどうよ?」


 ソフィアが早速気になったようでこちらに声をかけてくる。

 まだ食べていなかったので、俺は急いで一口を食べる。


「こっちも美味しいな。スポンジがなんかめっちゃうまい」


 これ、生クリームとかなくてもいいんじゃないか? っていうくらいスポンジがいい。

 とりあえず、ソフィアと同じようなペースで食べていき、半分になったところで彼女の方に皿を向けたのだが、ソフィアはチョコレートケーキにさらにフォークをさした。


 あれ? もう半分を超えているんだけど。そんなに気に入ったのだろうか?

 だったら、別にソフィアが全部食べてもいいとは思っているが、この後まだまだケーキは届くんだよな。


 全部食べられるのだろうか?

 なんてことを考えていると、こちらに彼女がフォークを向けてきた。


「はい、どうぞ。あーん」

「うえ!?」


 なんと、ソフィアは一口分をこちらに向けてきた。

 笑顔を浮かべながらフォークを少し揺らす。もう片方の手を添えるようにしながらこちらに向けてきたソフィアは首を傾げる。


「ほら、このくらいで恥ずかしがるんじゃないわよ。せっかくのデートだし、このくらいはするもんでしょ?」

「……た、確かに?」


 俺はよく分からないが、ソフィアがそういうのだからきっとそうなんだろう……!

 今日はデートをしっかりとした、ということをお互いに印象付けておく必要がある。

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