第15話
遅れてはいけないと思い、待ち合わせ場所に、三十分ほど前についた俺は駅前できょろきょろと周囲を見渡していた。
……人が多い。
普段、休日は家に引きこもっていることが多かったので、俺の知らない世界がここには広がっていた。
……今まで、あんまり意識して道行く人を見ていなかったけど、なんか男女のペアや家族づれの人が多い。
だいたいが誰かと一緒に行動していて、一人ぽつんと佇んでいる俺はとても、場違いな感じがしてきてしまっていた。
それにしても、思っていたよりも早く着いてしまった。
とりあえず時間でも潰していようかと思いながら、待ち合わせ場所の駅前の時計塔前に来ると、ソフィアが座っていた。
時計塔を中心に、石造りの円状のものがある。本来の用途は分からないが、多くの人がそこをベンチのように扱っていて、ソフィアも同じように座っていたのだ。
彼女は手鏡を見ながら、髪などを確認している様子だった。
やはり、デートともなればそのくらいはするものなのだろうか……?
俺はどうだろうか。気持ちはもちろんしっかりとあるのだが、服装だけでいえばコンビニにでも買い物に行くような感じだ。
……せめて、態度はしっかりとしないと、だよな。
そんなことを考え、ソフィアに声をかけようとしたときだった。
二人組の男性がソフィアへと近づいていった。
俺とは違ってオシャレな格好をしていて、髪まで染めている。
チャラい感じの二人組は……知り合いだろうか?
「ねえねえ、そこのお姉さん」
「かわいいね? どう? これから一緒に食事でもいかない? 奢るよ?」
笑顔と共に声をかけた男性たちは、恐らく大学生くらいだろうか。
気さくな感じであるが、知り合いではないようだ。……も、もしかして、これがナンパというやつだろうか!?
ソフィアは視線をちらと向けはしたが、無視を決め込んでいる。
完全拒否の構えであったが、男性二人は諦めが悪いようでソフィアの左右に腰掛けようとする。
……さすがに、止めに入った方がいいだろう。
ああいう手合いなら、別に特に緊張することもなく接することができる。
むしろ、ソフィアに声をかけるきっかけをくれて助かった。
俺はそそくさとソフィアの方へ近づくと、こちらに気づいた彼女が口元を緩めた。
「ごめん、待たせたか?」
「いえ、大丈夫よ。そういうわけで、あたしは用事があるので」
ソフィアは男性二人にそう言ってからこちらにやってくる。
さすがにナンパもそれ以上しつこくしてくることはなく、俺は無事ソフィアを助けることができたようだ。
「早かったじゃない優人」
彼女は身につけていた可愛らしい時計を見ながら、そう言っていた。
服全体もそうだけど、小物一つとっても彼女には似合っている。
そういえば、教室と違って今の彼女はツインテールにしている。
……わざわざそれにしたのは、俺の要望が原因ではないだろうか。
とにかく、すべてが美しく、さすがモデルをしているということもある。
……やっぱり、彼女の隣を歩くのは地味だったかもしれない。
「どうしたのよ?」
「いや……ソフィアは服を選ぶのがうまいと思ってな。どうやってそんなに似合う服を選んでるんだ?」
ソフィアのようになれるかはともかくとして、俺もせめてソフィアと出かける時はもう少し気をつけたいとも思った。
俺の言葉に、ソフィアは嬉しそうに笑う。
「まああたしの場合は母さんに色々と教えてもらったことがあるわね。まあでも、ファッションなんて結局自己満足の世界よ? 流行だってすぐかわるし、なんなら流行らせたい服っていうのもあるわけで……最終的には自分の着たいものを着るのが一番よ」
「いや、でもソフィアと一緒に歩く時はもうちょっと意識した方がいいのかと思ってな」
「今の優人の服だって、別に変じゃないと思うけど……まあでもそこまで言ってくれるなら、今度時間があるときにでも一緒に買いにいきましょう」
「……あ、ああ」
ソフィアに色々と教えてもらえるのなら、その方が確実だろう。
彼女の言葉に頷いて、俺たちは歩きだす。
ソフィアが行きたいといっていたお店は、集合場所から歩いて十分ほどの場所だった。
到着した俺たちはソフィアが予約をとっていてくれていたようで、すぐに中へと案内してもらえた。
……ソフィア、なんだか色々と慣れているな。
きっと、これまでもデート経験豊富なんだろう。
お互い席についたところで、俺たちはメニュー表を開いていた。
「ここのお店、デザートのケーキが美味しいってあたしの友達が話していたのよ」
「ってことは、今日はそれが目的なのか?」
「もちろんっ。あたしはパスタ少なめにして、ケーキ食べまくるつもりだけど、優人はどうする? ていうか、優人って甘いの大丈夫? あたし、色々食べたいから一つのケーキを半分とかにして優人に半分食べてもらおうかと思ってたんだけど……」
なるほど……それで俺が呼ばれた部分もありそうだな。
俺は体作りの一環で昔から食事量は多めだった。なので、恐らく普通の人の倍以上は食べられる。
デート、と聞いて少し身構えていたが呼ばれた理由が分かれば、なんだか落ち着くことができた。
「甘いの好きだから大丈夫だぞ」
「ほんと? じゃあ、全部注文しちゃいましょうか!」
「ぜ、全部? 俺、そんなにお金ないっていうか……」
「気にしなくていいわ。この前のお礼もかねて奢るわよ」
「い、いやでも……」
「あたしこれでも結構稼いでるんだから。遠慮しなくていいわよ」
い、いいのだろうか。なんだか俺が情けないヒモみたいに見えないだろうか。
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