第14話
……ど、どうしよう。
女性から電話なんて、母さん以外に今までなかった。
落ち着くために深呼吸をしようとしていたが、着々とコールの回数は増えていってしまう。
このままだと電話が切れてしまう。居留守をしたことになる。
そうなったら、無視をしたということで印象が悪くなってしまうかもしれないだろう。
俺は意を決してから、スマホを耳に当てた。
「も、もしもし」
『あっ、いきなりごめん。今大丈夫だった?』
電話越しに聞くソフィアのことは、いつもと違って新鮮だった。
初めての女性との電話でわずかに緊張はあったけど、俺はそれを悟られないようにしながら頷いた。
「ああ、大丈夫だけど……どうしたんだ?」
『ちょっとね……あー、その』
歯切れの悪い様子だ。また何か、あったのだろうか?
何か迷っているような様子のソフィアを心配していると、
『暇だったらでいいんだけど、デートに行かない?』
「ででででデート!?」
ソフィアはよく突拍子もないことを言うのだが、今回はいつも以上に予想の斜め上からの攻撃だった。
いつもの「冗談よ」という言葉を待っていたのだが、ソフィアから続いてきたのは慌てたような声だ。
『い、いやそんな重苦しく受け取らなくてもいいんだけど……なんか両親が優人とは最近どうなのかって聞いてきたのよ。放課後とかに話しているけど、って言ってたけど、なんか怪しんでるっていうか、休日に遊びに行ってきてもいいぞって感じの空気だしてたのよ。だからまあ、証拠写真でも取りに行こうかなって思ってただけで、ほんと面倒なら別に断ってもいいっていうか……』
早口でまくしたてるように言っているのは、まるで言い訳でもしているかのようにも聞こえたが、気のせいだろう。
……両親……確かに、そうだよな。
俺たちが知り合ってからの休日だし、ソフィアの両親は一緒にお出かけするくらいには考えていたのかもしれない。
でも、デートとかってそんなに頻繁にするものなのだろうか?
世の中のカップルの一般を調べようかとも思ったけど、でも俺たちの場合、かなり特別な関係であることも確かだ。
とりあえず、ソフィアも困って電話をくれたわけだし、返事をしないと!
「それなら、行こうか」
『え? ほ、ほんと? ……大丈夫? 用事とかなかった?』
なんだか声が少し嬉しそうになっているようにも感じる。
……そんなに、ソフィアの両親が圧力をかけていたのだろうか?
うちの両親なんて、たぶんもう婚約者ができたから将来安泰くらいに思っているようで何も言ってこない。
ソフィアの両親は疑り深いな。
「用事ってほどの用事は、別にないから大丈夫だ」
もちろん時間があれば、執筆する時間にあてたいけどでも……。
ソフィアと一緒に出かける機会なんて、おそらくこれから先そんなにたくさんあるわけではないと思う。
今の俺たちの関係が終わってしまえば、なくなってしまうわけで……そうしたら、俺の性格を考えたらもう二度とこんなチャンスはないと思うし。
『良かった……それじゃあ、お昼一緒に食べにいくって感じで、駅前とかに集合でいい?』
「ああ、大丈夫だ」
『あたし、行きたいお店あるんだけど、優人はどこか行きたい場所はある?』
行きたい場所、と聞かれても思いつかない。すぐに思いついた食事できる場所がマグドナルドとかファミレスくらいしか思いつかなかった……。
それも、行きたい場所というかとりあえず腹を満たす場所、というかんじだし。
「特にはないから、ソフィアの行きたいお店で大丈夫だぞ」
『ほんと? それなら、その行きたいお店がイタリアン系なんだけど、パスタとかって大丈夫?』
「ああ、大丈夫だ」
『それじゃあ、ちょっと混むから駅前に十三時くらいに集合よ』
弾んだ声とともにソフィアが電話を切る。
あと二時間か。歩いて二十分もあれば着くので、今から着替えて行けば大丈夫だろう。
電話を切ったところで、あることに気づいた。
俺……服、ないぞ。
休日、外に出歩くことがほとんどなかったので、服は本当に最低限のものしかない。
外に出るといってもちょっと本屋に行くとか、アヌメイトに行くとかだった。
と、とりあえず、服を確認する。
白のシャツと青のジーンズ。
春休みになったときに久しぶりに春服を着ようと思ったら、サイズがいつの間にか合わなくなってたんだよな。
成長期ということもあり、一年前と比べてかなり身長が伸びていたということで、急いで購入した一着だ。
……まあ、どちらも綺麗にしまってあったので大丈夫だろう。
モデルでもあるソフィアの隣に並んで歩いたときに、見劣りする可能性はあるが、それは何を着ても同じだろう。
それにしても、で、デート、か。
ソフィアの隣にいる自分の姿を想像してしまうと、あまりにも差があるために落ち込みそうだ。
彼女の隣に並んで歩けるほどの人間ではないが、せめて見栄でもいいから胸を張っていくしかないだろう。
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