第8話
「招待とかって……誰が招待したとか履歴残ったりしないのか?」
「あっ、そういえばそうだったわ。それだとあたしと優人の関係が怪しまれちゃうわね……」
「な、なら別に誘わなくてもいいから……大丈夫だ」
別にクラスラインに入っていなくても、そう大きな支障があるわけではないだろう。
「でもあたしが招待したってことがわかったら、面白くなりそうじゃない?」
スマホを握りながら無邪気に小悪魔が微笑む。もはや小悪魔じゃない、悪魔である。
ソフィアの話している場面のことを考えると、胸が痛くなってきた。
「……一人で、楽しまないでくれ」
「一緒に楽しめばいいんじゃない?」
俺はソフィアに比べて愉快な性格はしていないんだ。
首を横に振りながらスマホを取り出した俺は、彼女と連絡先を交換する。
ひとまずそれで満足してくれたのか、ソフィアはスマホを片づけ、彼女も勉強道具を取り出す。
どうやら、課題に取り組むというのは本当のようだ。
俺たちの間では、文字を書く音などが響いていく。
課題自体は別に難しくはない。三十分もすればだいたいは片づいた。
こうなってくると、次はどうしようかという気持ちが浮かんでくる。
ソフィアはあたらしい勉強を始めたばかりだ。明日の授業の予習をしているのか、あとどれくらいで終わるかは分からない。
ここで帰ってしまうのもなんだか悪いような気がしてくる。
かといって本を取り出して読むというのも……な。
今読んでいるのはラノベであり、ソフィアに見られるのは避けたい。
彼女がどう思うかは分からないが、あまりいい印象を与えるとも思えない。
さて、どうしようか。
俺も予習か復習でもしようか? ……でも、ほとんどの教科書をクラスに置いてきてしまっている。
明日提出予定の課題を終わらせるためにいくつか持ってきてはいたし、それでも見ていようか。
鞄を漁っていると、ソフィアのペンが止まり、ぽつりと問いかけてきた。
「そういえば、優人って普段は図書室にいるの?」
突然の質問に、少し驚きつつ頷く。
「図書室……にいる日もある、って感じかな?」
「そうなのね。あたしは学校終わったらだいたい家に帰っちゃうわよ」
「俺も、別に毎日いるわけじゃないし……図書室だけじゃなくて、部室とかに行くこともあるし……」
って今それは彼女の質問には関係なかっただろうか。
ソフィアは「部室?」と呟きながら小首を傾げる。
「部室って、優人って部活に入ってたの?」
「あ、ああ。文芸部だ。でも、まあ文芸部自体は活動してないけど」
「よくある名ばかりの部活動の一つよね。うちの学校多いわよね」
「そうだ。部室はあるから、自由に使えるし……まあ俺以外に行く人はたまに行くんだ」
「へぇ、それって便利そうね。今度行く時は教えなさいよ。あたしも行くわ」
……え?
嬉しそうに話すソフィアだが、俺としては少し迷ってしまっていた。
別に、部室に部外者を入れてはダメというからではない。うちの部活動に、そんなしっかりとした決まりなんてない。
迷っていた理由は、俺が部室に行く時は、基本的に執筆活動をする時だからだ。
……ま、まあ別にソフィアが行きたい時には執筆をしなければいいだけだよな。
「分かった……まあ、行きたい時に言ってくれたら案内するからな」
「それじゃあ、また今度にお願いしちゃうわね」
本当に行くのかどうかは分からないが、ソフィアは楽しそうだ。
……ちゃっかり、今後の予定も作られてしまった。
これからも、学校で絡まれることが確定した瞬間でもある。
「そういえば、今日教室でのあたしたちの会話聞いてた?」
ソフィアがイタズラっぽく微笑み、問いかけてくる。
その問いかけにびくっと肩が跳ね上がってしまい、ソフィアはくすくすと笑っている。
……まだ返答していないのに、もう答えてしまったようなものだ。
今更、否定することもできないだろう。……盗み聞きしていて、気持ち悪いとかは思われないだろうか。
「……まあ、聞こえてたよ。別に聞くつもりはなかったけど」
盗み聞きしていた、と思われたくなくて申し訳程度に否定してみたが、これはこれで気持ち悪いかもしれない。
素直に認めて謝罪した方が良かったと思うけど、もう今更遅いよなて。
「あたしの婚約者の写真とか見たいって言われたんだけど、まだ撮ってなかったでしょ?」
そう言ってスマホのカメラをこちらに向けてこようとする彼女に、慌てて顔を隠す。
「と、撮るなってっ。バレちゃうだろ」
「冗談よ冗談」
ソフィアは俺の焦りとは真逆に楽しそうに笑っている。
……勉強する手はとまっていて、完全に俺をからかう状態に入ってしまった。
「優人だって、あたしとの写真があったほうがいいんじゃない? 誰かに見せてとか聞かれるかもしれないわよ?」
その心配は不要だ。
「見せる相手……別にいないから、大丈夫だ」
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