第6話
「まあ、さすがに桐生院さんはレベチだよな、やっぱり」
「お母さんもモデルとかしてたんだよな?」
「そうそう。そんでお父さんも俳優だもんな。ほんと、凄い人だっての」
「桐生院さんも将来は、そういう道に進むのかねえ?」
「まあ、そうなんだろうなぁ。今もちょこちょこモデルとして活動してるわけだしな」
「でも、それなら芸能活動である程度融通のきく学校とかに進学した方が良かったよな?」
「まだそこまで本格的に活動するってきめてるわけじゃないんじゃないか? たぶんだけど、勉強もしたいんじゃないか?」
俺も、彼らが話しているように、色々と気になっていることはあった。
彼らが言うように世の中にはもっと芸能活動に向いた学校もあるわけで、なぜよりによって勉強にある程度力を入れているうちの学校を選んだのか、とか。
まあ、ソフィア以外にも、クラスの話を聞いている時にはその人に対して、色々と疑問を感じることはあった。
……盗み聞き、なので俺から直接質問することはなかったけど。
人の話を聞くのは好きだ。
だからきっと、俺は本を読むのが好きなんだだろうと思う。
本には、様々な物語が感じられる。キャラクター同士の物語はもちろん、それを通して作者という人間がどんなことを考えて作品を作ったのか、とか。
それには作者が誰かに伝えるための思いがこめられているわけで、作品を通じて会話しているような気分になれるからだ。
「……でも、桐生院さんがこっちのクラスにいてくれて助かったよな」
「な。おかげでクラスラインから、桐生院さんの連絡先も知れたしな」
え、クラスライン……あるの?
クラスの人たちでそんな話をしている様子はなかったが、いつの間に。
いや、でも聞いたことがあるぞ?
……最近では入学前に同じ学校の連中でつるんでいるということもあるそうだが、彼らもそんな感じなのかもしれない。
ハブられていたことに今更ながらにちょっと傷ついてしまった。
い、いやまあ、自分から関わっていこうとしていないんだから、そうなるのは仕方ない。
それでも、誰かが声をかけてくれるかも……なんて自分にとって都合よく考えてしまうことに、ちょっと自己嫌悪もしてしまっていた。
行動しない者には、そのチャンスも来ないよな。
ため息を吐いていると、教室の扉が開いた。視線を向けると、ソフィアの姿があった。
友人とともに登校していたのか、校内で会ったのか。
数名とともに教室へと入ってきた彼女に、近くにいた女子が挨拶をしていた。
「桐生院さん、おはようー」
「おはよー」
ソフィアが鞄を置くと、彼女の周りに派手めな女子が集まっていく。
……派手な印象を受けているのは彼女らが髪を染めていて、制服を着崩しているからだ。
俺は彼女らを、勝手ながらAグループの女子たちと呼んでいた。
俺はクラスの女子達を大きく四つのグループ――A、B、C、Dに分けて覚えていた。
Aがクラスの目立つ連中、ソフィアやその周り、あるいは目立つ運動部の男子などがここに入ってくる。男子達はソフィアに対しても臆せず話しかけられる度胸を持っていて、毎回すげぇなと心の中で感心していた。
Bがクラスの普通くらいの連中、小金井や井野がここに所属している。特に目立つようなこともなければ、悪目立ちするようなこともない存在たちで、クラスの大半がここだ。
Cはクラスでも地味な存在だ。俺が言うのもアレだが。
クラスでは静かであるいは極少数でいることが多い。二次元好きの人たちがここに集まっていて、彼らは日々自分のやりたいことを楽しんでいる。
そして最後のD。
Dは、クラスの空気のような存在。所属は俺のみ。
俺も、Cの人たちのように自分の好きなものを開示できるくらいの度胸があれば、もう少し友達もできたかもしれないが……あそこまで自分の気持ちを伝えることは難しかった。
他人と何かを共有するのって、難しい。意見の食い違いとかもあるし、そういったぶつかり合いを極力避けて生きてきたわけだし。
上も下もあるわけではないが、クラスで何かをするときは大体の場合Aグループの人たちの意見が通りやすいくらいだ。
俺はそんな彼らのグループの話に時々耳を傾けながら、本を読み進めていく。
うちのクラスに特別いじめとかはないし、どちらかというと仲が良い方だと思う。
まだ入学してからそれほど経ってないからだろうか? あるいは、皆いい人たちだからだろうか? 後者だったらいいんだけど。
その優しさもあって、俺のように一人でいたい人も過剰にハブられるとかはない。
そう、皆が優しいからこそ、俺はぼっちなんだろう。
……ちょっとくらいは声をかけてもらってもいいと思っているんだけども、だったら自分から関わっていけって話であり……都合よく考えてしまう自分にため息を吐くしかない。
まあ、一人が嫌いではないというのも事実なので、今日もペラペラとラノベを読み進めていると、比較的近くの席であるソフィアがギャルと話を始めた。
ギャルの名前は、確か戸塚、だったか。
「そういえば、ソフィア、なんか休日にお見合いあるとか言っていたけど、どうだったの?」
思わず、吹き出しそうになった。
ソフィア、友人にもそんなことを話していたのか。
ソフィアはちらと一瞬だけこちらを見たような気がした。
気のせい、だよな。
「どうだったって、何が聞きたいのよ?」
笑いながらのソフィアの言葉に、戸塚が目をキラキラ輝かせる。
「ほら、やっぱソフィアの両親だしお見合い相手も凄いんかと思って。ほら、お金持ちとか、どこかの社長さんとか、あっ、それとも有名な芸能人さんとか!?」
……やめて! ハードル上げまくらないで!
戸塚が期待しているようなお見合い相手とはまったくレベルの違う俺は心が痛い。
平静を装ってラノベを読んだままでいたのだが、さっきから全く頭に文字が入ってこない。
ソフィアが一体どんな返事をするのかとヒヤヒヤしていた。
「さすがにそういう人じゃないわよ。ていうか、あたしは同年代の人じゃなきゃお見合いなんてしない、って言ってたし」
「あっ、そっか。じゃあ、将来有望な芸能人とか? 金の卵的な!?」
「それも違うけど……まー、いい感じの人ではあったわよ?」
ソフィアがそう言ったので、思わず顔を向ける。
それが、まずかった。ちょうどソフィアもイタズラっぽく笑った顔をこちらに向けていたから。
……自意識過剰とかではない。確実に、俺を見ていた。
……からかっている、んだろうな。俺が彼女に好かれるようなことをあの場ではしていなかったと思うし。
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