18

1時間目は持久走。先生に呼び止められる。体育大学を卒業した経歴が、説明されなくとも、上半身の隆々としてる筋肉ではち切れそうな、炎のように真っ青なシャツから伝わってくる。


「吉岡、ちょっと走り方を直した方が良いぞ 体幹がブレブレだし、1歩1歩ごとになんか、足を Stick してる感じがある」

「足をスティック。」

「そう 杖を地面に突き刺すみたいに、落とす足に力が入りすぎてる それ早い内に直さないと膝を痛めるぞ」

「えっと、具体的にはどうやって走ればいいんでしょうか。」

「力を抜くことだ 吉岡は着地の時に膝を伸ばして脚を一本の棒にする癖がある 足なんて重力に任せてれば勝手に落ちてくんだから無理に落とそうとする必要は無いんだぞ ちょっとリハビリを兼ねて先生と併走してもらっても良いか?」

「あっ、はい。」


走ることは、断続的に前へ前へとジャンプする感覚に似てる。上向きへ、前向きへの力を足の先から送り出すだけで、それ以外の力は一切必要ない。重力に任せて軽やかに着地できるから、体幹のブレが抑えられて、かなり走りやすくなってると思う。


走りやすくなってると思うけど、私の体力が足りてない。走り込みの必要性が、頭の中でアラームとして鳴り響いてるのは、先生の熱血さに感染したからだ。


続く2時間目は家庭科室での座学。更衣するには休み時間が足りないので、体操服のままで教室を移動する。黒板には「調理中の火事」って左上に大きく書かれてる。


「家がオール電化の人は?あ、全員!?へえー、そうなんだー じゃあ、イワタニ使ったことある人は?・・・半分くらいかな」


私は隣の手を上げてる子に聞く。


「イワタニって何?」

「キャンプとかに使う携帯カセットコンロだよ」

「あ、イワタニカセットフー?」

「そうそれ」

「停電時でも使えるやつね。」

「そうそう」

「はいそこ聞いてねー はい、今回は、調理に潜む火災の危険を確認していきますねー 私が説明するより映像を見てもらう方が早いから、さっそく見ていきましょー」


先生は、テレビで着衣着火の教材映像を流す。化学繊維で出来たニットのカーディガンを着てる女性が、油を敷いて火をかけ、しばらく置いたフライパンに手をかざしたその途端、服に火が付いて、一瞬にして全身に燃え広がった。表面フラッシュ現象というらしい。


「ちょうど皆さんが着ている体操服は、化学繊維でできていますね 化学繊維の服は非常に燃えやすくて、着衣着火によって火傷したり、それで亡くなっちゃう人もいるんです」


あと、服に火が付いたときは床の上に転がって火を消せば助かるらしいことも習った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る