17
大雨上がりの下校中、ふと薬の飲み忘れに気付いて、私は鞄から錠剤を出して飲む。手元に飲み物がない時でもスッと飲めちゃうからありがたい。
ちょうど通りがかりの公園から、わーきゃー楽しそうに遊ぶ小学生たちの騒ぎが聞こえてくる。大小さまざまの池も気にしないで踏み付けられ踏み潰され踏み倒されてクレーターまみれのグラウンドは、雲の合間から顔を出す太陽に照らされて、満月のようにキラキラしてる。
元気すぎる小さい子たちの様子を見てると急に体から力が抜けて、足が勝手に向かうベンチに、ふらふら、背もたれのヘリをやわっと握って、とさっと腰掛ける、と、隣にはいつの間にかシンヤ君が座ってた。気付かなかった。
「こんにちは。」
びしょ濡れのシンヤ君は、眩しそうに目尻の下がってる目を細めて、私の方に耳も目も向けてない様子。光り輝く月の世界を眺めて、ぼーっとしてる。こんな子が、本当に一人芝居なんて打てるのかな。私の気を引くためなんかに。小学生だし。
「シンヤ君、どしたの。ずぶ濡れてるけど。」
「雨でびしょびしょになった。」
ひとまず、また田んぼに突き落とされた訳ではなさそうで安心。でも、今のシンヤ君は傘を持ってない。雨の中であの、月の上の子たちと一緒に遊んでたわけではなさそうだし、一体、どんなわけでびしょ濡れなんだろう。
「傘はどうしたの?」
「僕は風邪引かないから。傘なんて要らない。」
なんか、心配。ねえ真未、その説はやっぱりあり得ないと思うよ。
「シンヤ君は、みんなと遊ばないの?」
「うん。」
「遊ぶの嫌い?」
「嫌い。」
「そっか。」
シンヤ君の横顔は陰に覆われて、笑顔でもなく、でも怒りも読み取れない灰色。
「私も・・・、あの子たちと渡り合うには体力も元気も足りないかな・・・。」
「うん。」
私たちは、おじいちゃんとおばあちゃんみたいにベンチに座り続ける。2人して元気ハツラツな小学生たちを眺めて、私たちはひたすら子どもらを静かに見守って、一緒に何も語らずに天人たちを見つめ続けることに飽きたのかもしれない。シンヤ君は俄に立ち上がって、私の手をぎゅっと掴んで引いてきた。手は冷たく湿ってた。
「お姉さんはお腹、空いてる?」
「まあ、うん。」
がっしりとホールドしてくるシンヤ君の手は段々と暖かさを私の皮膚に送り出す。無理に振りほどくことも無いかと思って、私はシンヤ君に引かれるまま付いてく。火曜限定:地獄のハバネロ餡パンは、匂いから辛すぎて、流石に一口も食べられない。
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