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Outside Garden にて。
翌日の朝刊。新聞社の配達時間以降に読む今朝の朝刊。朝日新聞の地方版には「飲酒運転の自損事故」という数行の記事が載っていた。運転手にも命の別状はないとのこと。
「お手柄だったね、エミちゃん。」
由加さんは、そうやって私を褒めてくれた。人が死ぬ事故を1つ防げたことが、果ては街一帯が壊滅する大火災を防げたことが、自分でも誇らしかったし、褒められて素直に嬉しかった。
「エミちゃんエミちゃん、こっち来て。」
バイト制服を着た私は、由加さんから柔らかい手招きで呼ばれて、囁き声で耳打ちされた。
「私がエミちゃんに車の鍵を貸したってことは内緒で、ね。」
「それは、そうです。もちろん、内緒で。」
私たちはお互い、自分の口に人差し指を当て合って、ヒソヒソ声で共犯の契りを結んだ。私は責任をもって銃のキーホルダーが付いた鍵を由加さんに返した。
「いいよ、持ってなよ。また使うときがあるかもだし。私はあの車、使えないから。」
「私はもう、きっと使いませんので。今回の1件で車の怖さを思い知ったので。たぶん真未ちゃんのせいで一生運転できません。トラウマってヤツです。」
「ありゃりゃ。それなら、確かに返却いただきました。また必要なときがあったら言ってね。」
「だから、私まだ高校2年生なんですけど。」
教室にて。例によってヒソヒソ話。
「あの車の持ち主さん、修理費とか保険のこととか、色々と大丈夫かなあ?」
「そんなの、飲酒運転するのが悪いんだから気にすること無いでしょ。そのくらいの罰はきちんと背負ってもらうべきだと思う。」
「それは、そう。というかなんで、あっ。」
口に人差し指を当てる真未を見て、私は口を両手で塞ぐ。それから、周りをチラチラ見回すフリをして、真未の耳に質問を囁く。
「なんで真未は車の運転ができるの?」
真未も私に耳打ちで返してくれる。
「昔、事務所にいたときに色々とあってね。車に興味があるって言ったら、とある俳優さんから車の運転方法を教えてもらえたの。」
は?事務所って何?大御所の俳優さん?
「ね、ねえ、もしかして真未って、昔、本物の芸能人だったことがあるの?」
「うん。あれ、知らなかったの?」
「芸能人っぽいよね~とはいつも思ってたんだけど。」
「ありゃ、これ、内緒にしたままの方が良かったかな。」
「なんでよ。」
「じゃあ、秘密がバレちゃったついでに私からも質問ね。」
「なんでもどうぞ。」
「なんであの車が交通事故を起こすってこと、知ってたの?」
やっぱり来た。どう答えたら良いんだろうって、一晩 (厳密にはベッドに入って寝る前の数分だけだけど) 考えた。ら、別に真未なら正直に話しても良いかってなった。
真未なら私の話すことを、きっと信じてくれるって、私は結論付けた。
「あのね、私、タイムスリップしてるみたいなの。」
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