13
「恵美は赤い車を今朝にも見たんだよね。」
「うん。反対車線を走ってった。」
「ふーん。仕事に向かってるんだとしたら、帰りは今の私たちと同じ方向に走っていくはず。」
「うん。」
「オッケー。」
真未はハドソンの前を少し通りするとバックで駐車場に乗り入れると右にハンドルを切った。一連の動作に隙が無い。
「ねえ、どこ行くの。」
「この道は数kmくらい交差点が無いから、この道を遡っていけば多分すれ違う。」
「確かに。」
「恵美の言う事故の時間が本当なら途中で出会せるはず。それで見つけ次第尾行する。」
「それで、最終的にはどうするの?」
「まあ、見てなって。」
私は真未が車を運転してる事実に頭がバグって、興奮しかけている自分に気付いて、目を閉じて、深呼吸をいっぱいした。そして目を開いたときに信じられない速さで右脇を抜けていく緋色の閃光が。
「真未!あれ!」
「オッケーっ!」
歩道の縁石がない部分にバックしすぐフォワードへ面舵一杯アクセル全開。この一件が解決したら壊れるんじゃないかってほどうるさいエンジンが車内を唸らせている。真未はニッコニコの悪魔的な笑顔であの221Bを追いかけてる。
時速100kmを越えるくらいになって、ようやく赤色の車との距離が狭まってきた。でも、もう少しでハドソンの地点に到達してしまう。その前にどこかで運転を辞めさせなくちゃ。
「ねえ、もっとスピード出せないの?」
「底までベタ踏みしてこれなんだよ。ちょっとでもハンドルミスったら死ぬから話しかけないで。」
私は黙った。真未の均整な顔立ちから笑顔が抜けて、なんだか、このまま衝突してでも止めてやろうと言わんばかりの覚悟を感じた。その余裕のなさ。冷や汗が横顔を伝って、綺麗な金髪の長髪を湿らせてた。夕日に照らされた彼女を、私は何故だか、格好良いと思った。
ぷおおおおおおおおおおおおおっ!
クラクションを聞いて我に返った。すぐ目の前には誰が見ても飲酒を疑うであろうふらつきの赤い車がいた。
それでも赤い車のふらつきは大きくなる一方で、私たちのクラクションを聞いて、よりスピードを上げてしまったみたいだった。真未はアクセルから足を上げた。
諦めが私の頭に広がった。事故で亡くなる人を助けようとした私の気持ちは砕け散った。ハドソンさんは死んでしまうんだ。せめて、気付いていながら、助けてあげられなかった罪なんて無いってことを、誰かに言ってほしかった。
「ねえ恵美、あれ見て。」
この車は緋色の隣で対向車線を塞いでた。真未が顎で指した窓の外を見ると、バンパーがひしゃげて、電柱に食い込んでいるのが見えた。ハドソンすぐ近くの、私がおでこをブッたのと同じ電柱だった。
「捕まってて。逃げるよ。」
真未はハンドルを左に切って、元の車線に戻った。そのままアクセルをベタ踏みしてった。
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