12
カフェから慌てて飛び出すと、ちょうどドアの前に居た誰かにぶつかった。
「あ、ごめんなさ・・・って、恵美じゃん。」
「あれ、真未、こんなとこで何してるの?」
「バイト終わって帰ってるところ。もしかして恵美も?」
「うん。ごめん、急いでるの。」
「え、ねえ、どこ行くの?」
「ハドソンさん。付いて来ないで。」
店の裏にある駐車場へ走って行く私の後ろには、それでも付いてくる真未が見えてた。ピッピッとロック解除の音を鳴らすワインレッドな軽の運転席に乗り込んでドアを閉めた。内装はツヤツヤのブラック。
シートベルトをして、座席を前に引き出して、バックミラーを確認して、サイドミラーを開いて、エンジンのスタートボタンを押す。カーナビが起動して、ダッシュボードも点灯したけど、アクセルを踏んでも手応えがしない。エンジンがかかってない。
こういう車には誰も読まない分厚い取扱説明書があるはずだと思って、助手席のところにある引き出しを手前に開こうとするも、手が届かない。代わりにドアが独りでに開いて、真未が乗り込んできた。彼女はドアを閉めて、周囲の無人を確認してから、ヒソヒソ声で私に言った。
「私、運転できるよ。」
「え、なんで。」
「免許は持ってないけど。」
「それは、そう。私だって持ってない。」
「運転席代わって。」
「だめ。付いてこないで。降りて。」
「でもエンジンのかけ方が分かんなくて困ってる。でしょ?」
「トリセツ見れば分かるから大丈夫。危ないから降りて。」
「私は取説なんて見なくても運転できるから、ほら、代わって?」
「真未を巻き込みたくないの。」
真未は深呼吸した。
「あのね、私は恵美の力になりたいの。そんな切羽詰まった顔で車を運転しようとしてるのに、何も助けてあげられないなんて情けないじゃん。ねえ、私に運転させてよ。」
「でも、死ぬかもよ。」
「えぇ・・・?何するつもりだったの・・・?」
「交通事故を止めに行くの。」
「ふーん。面白そう。」
真未は私のシートベルトを外してきて、それから一旦降りて、私の右手にあるガラスをこんこんとノックしてきた。結局、私は助手席に座ることになった。
「大丈夫。私はもっと上手く出来るから。」
真未がスタートボタンを押すと、エンジンがかかった。
「えっ、すごい。」
「ふふん。」
「どうやったの?」
「車はブレーキを踏まないと進まないのさ。」
運転席左手のレバーを下げると、ガチョンという音が鳴ると、ダッシュボードのビックリマークが消え、真未はギアをDにして、車を発進させた。
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