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解決の糸口が一向に見えない悩みを、私は初めて打ち明けた。相手は由加さん。だって、私がタイムリープしてることを知ってるのは由加さんだけだから。
でも、いざ相談するとなっても、頭がぐちゃぐちゃすぎるせいで、私は自分が何を話したいのか頻りによく分からなくなった。でも由加さんは、支離滅裂な私の話を熱心に聞いてくれた。
・時間が前に進むなんてのは嘘で、この世界は始めから、私が2年生でいられる1年間をひたすら繰り返す風にしか作られてないんじゃないの?
「サザエさん時空の話を聞いてる気分。」
「言われてみれば。」
でも、それってフィクションの世界の話じゃん。現実の時間はそんな流れ方、しないじゃん。
私はグラスが結露してるコーヒーを1口飲む。大至急で口の中の渇きを潤すことしか考えてなくて、香りとか味とかは分かんなかった。良い豆を使ったらしいけど。
「私も高校生くらいの頃に考えたことある。」
「え。そうなんですか。」
「どうせ自分が物語の中のキャラクターだったとしたら、私が生きる意味は何なんだろうねって。」
由加さんは、自分用に淹れたアイスコーヒーのグラスと氷をぶつけて、カランカランと軽やかな、かわいい音を鳴らして言葉を続ける。ストローをクルクル回すのは辞めないままで。
「考えたことは、ない?」
もし私たちが自分の心だと思ってたものが、誰かに操られたフィクションの産物に過ぎないのだとしたら。
だとしたら私が時々、死にたいとか、消えたいって思ってしまうのはどうしてなんだろう。
「神様は、私に早く死んでほしいのかも。」
ストローは12週目を終えたタイミングで止まった。そして由加さんは軽やかな、かわいい微笑みをこぼして、答えてくれた。
「ホームズとドイルの関係みたい。」
「ドイルって、コナン・ドイルのことですか?」
「うん。彼はホームズをスイスで殺したの。有名な話だよね。ファンの声がうるさくて、復活させられちゃったけど。」
「あの、でもそれは、私たちの現実とは違うじゃないですか。」
由加さんは深呼吸して「あのね、」と切り出した。
「もし私たちとこの世界がフィクションだったとして、少なくとも私たちにとって、私たちとこの世界は現実、でしょ?違う?」
「それは、そうです。」
「ね、私たちとかこの世界が現実なのか、架空なのかっていう質問は考えるだけ無駄なの。ここが私たちの現実。それでいいじゃん?」
グラスを空にした由加さんはコースターごと厨房に持って行った。このお話はこれで終わりみたい。そんな由加さんの背中に私は、もう1つ悩みを投げてみた。
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