第3話「宇宙って突貫工事で作ったんでしょ」
(何言ってんだこいつ)
「宇宙って本当に意味不明じゃん。ビックバンから始まって、膨張し続けてるって。しかも、膨張速度は遅くなるどころか速くなってるっていうしさ」
(仕方ないんじゃない? 宇宙だし。人知の及ぶところではないって言うか……)
「もともとさ、物理学って力学と電磁気学だったわけで、この二つで大半は語れたわけじゃない? それがさ、技術の進歩で、いろんな実験や研究ができるようになって、相対性理論やら量子論やらの考え方が出てきたりして」
(待って。急に専門的な話になるのやめて)
「まだ何も言ってないよ。ただの歴史だよ」
(それもう、歴史の年号覚えるの苦手なやつに、こんなの数字じゃん、理系でしょ? とか言ってくるやつじゃん)
「そんな人いるか?」
(いるいる。この世には数字と文章しか存在しないと思ってて、両者の区別が理系と文系だと思ってる人)
「ほえー」
(ほえー?)
「ヨーグルトの上澄みに出てくるよな」
(は?)
「あれよな。みかんの白い筋もそうだけどさ、そこが一番栄養素があるとか言われても、いやデザートだし、栄養よりは美味しさを取りたいんだけど、みたいなときあるよな」
(何の話?)
「焼き鳥も串から外さない方が美味しいとか言われても、串から取った方が食べやすいし、食べにくくて美味しいものより、美味しさが多少減ろうが、食べやすい方が良くない? ってなるんだよな。だいたい今って、一つの串を複数人で分け合う機会ってあまりないし、一人で食ってんだから好きにさせろって」
(いや、ごめんて。よく分からないけど、代わりに謝るから許せよ)
「とにかくさ、宇宙もそうだし、素粒子もそうだよね。精密なことができるようになったら、これまでの物理学が通用しなくなった」
(急に戻すな)
「これまでの物理学が近似だったっていうのは分かったよ。だったら、もうちょっと、それに寄っていて欲しいんだけど。量子力学とか急に別の話するじゃん」
(うーん、でも、この世界って人間が法則を作る前からあるじゃない? だったら、人間の法則に従ってないといけないってことはないでしょ)
「でも、急に辻褄合わないのおかしくない?」
(知らんがな)
「だからさ、宇宙なんか無かったんだよ」
(お前も急に話飛ぶじゃん)
「地球はあったよ? でも宇宙は無かったんだよ。壁紙みたいな感じで、地上から見て矛盾のない宇宙を見せていたんじゃない? 恒星とか惑星とかも力学でちゃんと説明つくように動かしてさ」
(今はあるじゃない、宇宙)
「だからそれを、突貫工事で作ったんじゃない? ってこと」
(誰がよ?)
「そりゃ、神様的なあれだよ」
(またいい加減なこと言ってる)
「最初は壁紙宇宙でごまかせてたんだけど、途中からごまかせなくなってさ。だから急に作らなきゃいけなくなったんだよね。まったく、困ったものだよ」
(現状、俺も困ってんだけど)
「だからさ、まず基礎的な部分を一気に作ったわけ。骨組みみたいな感じの」
(神様にも、骨組みから作ろうみたいな概念あるの?)
「でもおかしな話さ、これを昔からある感じにしなくちゃいけないわけ。『何もないところから高密度の熱い宇宙が生まれて膨張して、今の宇宙が構成された』って歴史があるはずだからね。10年前に買った包丁が、手入れしてないのに今でもザクザク切れますとか、ちょっとおかしいだろ? 錆びついてた方がリアルじゃん」
(そういう設定で作ればいいだけじゃない? 神様なんでしょ?)
「そう簡単には行かないんだよ。まあ、この宇宙は僕が作ったんだけど」
(作ってない作ってない)
「明らかに足りないんだよね。宇宙にある全物質、太陽系のある銀貨系以外にも何億何兆って銀河系があるんだけど、そこにある物質をすべて足しても爆発的な膨張を起こすには足りないんだよ。これじゃビックバンは起こせない」
(それバンドの新譜タイトルか何か?)
「でもそんなの気づかなかったからさ。深く考えずに宇宙をババっと作ったんだよ。そしたら、おかしなものが生成されちゃったんだんだよね。つまり辻褄合わせ。これが未知のエネルギーといわれるダークエネルギーってやつ。本当に謎。宇宙を作った側も何だかわからない」
(適当なもん作んなや)
「会社で作ってんだよね、これ」
(あ、うん?)
「会社でさ、プログラム組んでて、バグに気づいたんだよ。あれ何か変なオブジェクト生成されてるなーって」
(えぇ……?)
「『あヤバ、ちょっとこれ上司に聞いてみないと……』って、顔をあげて探したんだけど、上司は部長と何か話しててさ、ちょっと声かけづらかったんだよね」
(そりゃそういう時あるけどさ)
「うんまあ、もうすぐお昼休憩だし、そのあとでいっかーみたいな」
(よくねぇよ)
「だから今、お昼ご飯食べてんの」
(今も!?)
「いやだからさ、宇宙が生まれて、138億年とか経ってるわけで。よく言われるけど、これを一年とかに換算したら、人間が生まれてからまだ数分しか経っていないわけで。宇宙膨張に気づいてからは数秒ですよ。プロジェクト期間が長かったとしても、作った側の寿命で考えると、やっぱりまだお昼休憩終わってないんだよ」
(もっと責任持って!!)
「その結果、ダークエネルギーっていう原因不明のバグは、上司が気付くまで増殖し続けて、宇宙膨張を加速させてるってわけ。めでたしめでたし」
(もう、ぐっだぐだだよ)
「観測して初めて事象が確定するようになったのも、会社の所為。人間がここまで観測網を伸ばすと思ってなかったからさ。だから観測した瞬間に会社が作ってる。納期はいつもギリギリ」
(ギリギリ)
「ギリギリでいつも生きていたいから」
(リアルは手に入れなくていいから)
「いや、僕はちゃんと言ったよ? そんな予算とかないし、壁紙宇宙のままでいいじゃないですかって。でも主任がさー、これで行きますとか言っちゃってさー。ちょっと意識高くなーい? みたいな」
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