第14話 義妹と俺と1/3の鈍感な感情Part2

 合コンから帰って来た。今日はひとまず義妹を抱かなかったことを褒める。

 俺は明日から、モエ、ノゾミ、アヤカの3人とデートをする。そして、必ず潜んでいるあろう義妹を炙り出す。今回こそ絶対に義妹を抱かない!


 俺の固い意志は、股間の固い意志よりも固い。


「待ってろ! 梨紗! 俺はお前を抱かないぞぉぉ!」

 

 開け放した窓から発せられる俺の叫びは、やまびことなって返ってくる。


「うるせぇ! 何時だと思ってるんだ」


 フッ無粋なやまびこだな。

 明日からのデートを考えて……。俺は自家発電に勤しむ。

 先ほど嗅いだ、女たちの香りを思い出す。

 

「俺は再生可能エネルギーだぁぁぁ!」

「うるせぇ! いい加減にしろ」


 俺は、隣の部屋から聞こえるやまびこのタイミングで果てた。


 

 ***


「ふん♪ ふん♪ ふん♪」

 

 シャワーを浴び、ご機嫌な朝の身支度だ。美容師おすすめのヘアオイルとワックスを混ぜ、紙に塗り込む。毛束を割くように形を整えていく。

 梨紗は、恋愛モノが大好きだ。この類の映画をみると、大体泣く。

 梨紗は、辛いものが苦手だ。この類の料理を食べると、大抵残す。

 

 そこで、俺の企てた計画は以下の通り。

 ・仕事帰りに映画(恋愛モノ)を観に行く。

 ・その後の食事は火鍋だ。

 この「」に掛ければ必然と梨紗は脱落するはずだ。

 

 仕事? なにそれ、美味しいの? そんなものに身が入るはずがない。

 パソコンの右上に表示される時間ばかりを気にしながら退勤時間を待つ。


「よーし! 終わった。皆お疲れ様。俺は接待だから帰る」

 『せったい』これは、セッ◯スしたいの略だぜぇぇ。

 

 モエと待ち合わせた六本木ヒルズの映画館でビールとポップコーンを注文する。

 映画が始まるが、俺は映画なんて観てないぜ。終始モエの表情を監視する。さながら映画泥棒だ。


 ――! 涙確認! パターンブルーです。梨紗率50%。


 続いて、火鍋屋さんへ行く。


「イラッシャイマセ〜」

「何飲む? んー。あ! 青島ビール」

「じゃ、俺も同じので」


 そして、火鍋、といってもそこまでは辛くない。辛いものが苦手な梨紗が食べられない程度の辛さを注文。火鍋が来るまで映画の話をする。


「映画、面白かったね。私、涙止まらなかったもん。奏斗くんはどうだった?」

「あ、ああ。おれはモエちゃんしか見てなかったから(監視のためにな)内容が全然入ってこなかったよ」

「もう、なにそれ口説いてるの?」


 口説くか口説かないかは、君がこの火鍋を食べられるかに掛かっている。君は今のところ1ペナルティだからな。


「オマタセシマシタ〜」

「わぁ。美味しそう」

「さぁ。食べよう。」


 俺はモエをじっと見つめる。食べたふりをするかもしれない。一時も目を離すものか。


「ちょっと、そんなに見つめられたら食べれないって」

「あぁ、ごめん。つい」


「っ! 辛ーい。ちょっと辛すぎるかも……。」

 

 それ以降、白湯スープの方のみ食べるモエ。

 辛いの苦手! パターンレッドです! 梨紗率100%

 

 たしかに、最初に出会った時から怪しかった。身長も梨紗と同じくらいだし。

 

「今日はありがとう。気をつけて帰ってね」

「うん。またデートしようね」


 そう言って、モエと別れた。


 俺はこの日も再生可能エネルギーを自己発電し、眠りについた。


 ***


 今日はノゾミの日だ。

 昨日、モエを回避できたのは大きな収穫だ。今日は期待できるかもしれない。

 その日の仕事も、勿論上の空だ。定時字ぴったりに会社を出る。


 昨日と同じ映画館の、同じ映画を観る。勿論、スクリーンには目もくれず、ノゾミの瞳に注目すること1時間50分。涙の1滴も流さないノゾミ。


 第一関門突破ぁぁ!


 続いては火鍋だ。

「オマタセシマシタ〜!オ客様昨日モ来テマシタ〜」

「店員さん、余計なこと言わないで下さい」

「シツレイマスー」


 さぁ! 食え! 辛さに動じるな! ノゾミぃぃぃ。


「んっ! 結構辛いね」


 一口食べて、それ以降はモエと同じように白湯スープで食べるノゾミ。

 見損なったぞ! ノゾミ……。これで梨紗率50%


「今日はありがとう。気をつけて帰ってね」

「うん。またデートしようね」


 そう言って、ノゾミと別れた。


 俺はこの日も再生可能エネルギーを自己発電し、眠りにつくことになる。

 明日は最後の砦、アヤカだ。


 ***


 朝起きて、カーテンを開けると爽やかな天気が目に映る。紺碧の空には、雲が1つしか無い。

 ――そこは、雲があっちゃダメだろっ!

 スマホを確認すると、関西と東北と俺のLINEグループ【義妹を抱かないプロジェクト】にメッセーが届いていた。

 

『モエ(梨紗率100%)、ノゾミ(梨紗率50%)。今日のアヤカが期待大です!』


 そう返信し、家を出た。通勤ラッシュのこの時間、珍しく眼の前の席が空き、座れる。電車の液晶に映る今日の星座占い、第1位。

 ――今日はツイてる! 幸運の女神は我に微笑んでいる。


 さて、待ち合わせの時間だ。アヤカはオフィスカジュアルな格好。こんな一面も新鮮だ。映画館の座席に座り、涙ウォッチング。

 ――楽々クリアぁぁぁ!


 次は、難関の火鍋だ!


「オ客サン、マタ来たねー。ソンナニ火鍋好キカ?」

「……いいから、いつもの!」

「奏斗くん、ここの常連なんだね」

「ま、まぁね」


 さぁ! 食え! アヤカぁぁぁ。

 アヤカは辛い火鍋をたくさん食べる。

「辛くて美味しい〜。お肉おかわりしていい?」

「はい! 合格です! どうぞいくらでも食べて下さい」


 ――決まりだ! 間違いない。女神様、俺は今日、初めて義妹以外を抱けそうです。

 

 LINEの通知音が鳴る。

『どう?』

『アヤカ、合格です!間違いありません』

 

『ズッポシやっちまうべ!』

『素人童貞卒業おめでとうやで!』

『おい! 俺の義妹を何だと思ってるんだよ。怒るぞ!』

 

「アヤカちゃん。今日……ウチくる?」

「いくいく〜」


 ***


 遂に、遂に俺はやり遂げるんだ。

 義妹に童貞を奪われ、毎回毎回、義妹を抱き。罪悪感と背徳感に頭を抱えた日々からの開放が待っている。


 そして、ここ数日の自己発電の日々からの開放。


 メガソーラーぁぁぁ

 



 いたした。


  

 「壊れるほど愛しても、1/3も伝わらない」

 心の中に、なんとかシェイドの歌が流れる。

 

   薄れゆく意識の中、洗面所に向かうミオの気配。化粧を落としているのか。水道の音が心地よい。

 我は、今までにない賢者の時間を過ごし、まどろみの中に落ち、眠りについた。


 

 ――朝、幸福の女神の恩恵に包まれながら、目が覚める

 女神のご尊顔を拝もうと、布団をめくると、上目遣いで俺を見つめる梨紗がいた。

 


 ――梨紗?



 なぜ、生まれたままの姿の梨紗がいるんだ?


 「お義兄ちゃん! まだまだね! 私の我慢強さをなめるなよ♥」



「んがぁぁっぁぁぁ! またもや義妹を抱いてしまったぁぁぁぁぁ」

 

 

 会社に行くと、上司に呼び出される。

 お前、仕事のタスク全然終わってないじゃないか。次の人事考課が楽しみだな。

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