第11話 義妹と俺と結婚式

 「小暑の候 皆様にはますますご清祥のこととお慶び申し上げます

 このたび 私たちは結婚式を挙げることになりました」


 結婚式の招待状が届いた。

 東北出身の大学時代の友人からだ。

 大学生の頃から付き合ってた九州出身の彼女と結婚したのか。


 ――これはめでたいな。


 場所も東京だし、行くか。


 ***


 結婚式当日。会場となるホテルに向かう。

 チャペルの後ろの方に座ると、


 「横島奏斗!BBQ以来やな」


 関西が隣に来た。

 神父の前で待つ新郎、父親と腕を組み向かってくる新婦。

 新婦の友達がうるうるとした瞳で見つめている。


「ここになんの涙ポイントがあんねやろうな。やっぱり両親への手紙やろ」

「女ってのはそういうもんなんだよ」


 

 新郎新婦が指輪を交換して、接吻して、退場して、太陽の下で花びらを投げつける。

 ――ここらへんは、結婚式のテンプレだ。ちょっと割愛しよう。

 

 いよいよ、結婚披露宴が始まる。

 席次表を見ると、俺と関西は同じテーブル。

 同じテーブルには関西の他に、新婦側の友人が4人。


 新郎新婦の入場。拍手でお迎えすると、テーブルのキャンドルに火を灯していく。

 早く酒を飲みたい関西が文句を言いだした。

 

「こんなん各自チャッカマンでつけたったらええねん」

「お前の感性はどうなってるんだよ」


 新郎の上司の挨拶。


「話長いおっさんやな。伏線張り過ぎやで、回収するまでにワンピース終わってまうで」

「休載し続けるよりいいだろ!」

 

 続いて乾杯の挨拶。


「これまた長いのう。シャンパンが温ぅなってまうやんか」

「祝いに来てるのか? 酒飲みに来てるのか?」


「そら、酒飲みに来たに決まってるやろ。ご祝儀分は飲むで」

「食べ放題にきた客の精神!」



 「あははは。お2人、バリおもしろか!」


 同じテーブルの新婦友人たちが話しかけてくる。

 新婦の高校時代の友達3人と、新婦とは同郷ということから、東京で仲良くなったというミオ。

 ――かーーーっ! 皆、九州美人ばい!

 

 これも結婚式の醍醐味だ。当たり席を引いた。

 関西につられて、俺も酒が進む。


 ケーキ入刀が始まる。皆がスマホを構え新郎新婦を囲む。


「それでは皆さま、こちらのスクリーンを御覧ください」

 

 会場は暗くなり、半分以上が知らない人の写真をBGMと共に観る時間が始まる。


 続いて、素人芸の最高峰、「余興」を見ながら胸を痛める。

 

 最後に、新婦の手紙で案の定、号泣する関西。


 式は滞りなく終わり二次会へと移動する。


 ***


 結婚式近くのパーティー会場。

 披露宴とは打って変わってラフな雰囲気だ。


 参加型のゲームが始まり、皆のテンションも上がる。

 司会者がゲームの説明をする。


「ペアでネクタイゲーム!」


 ペアになって、女性が男性のネクタイを結ぶという単純なゲーム。

 勝者は景品が貰える。


「奏斗くん、わたし、あの美顔器欲しかー。一緒に参加してくれん?」


「もちろん!」

 ――ネクタイ着けてくれるなんて、新婚さんみたいじゃないかー。


 壇上に上がる俺たちを含めた5組のペア。


「さぁ、男性はネクタイを外して、女性はそのネクタイを持って下さい」


 俺の外したネクタイの両端を掴むミオ。


「よーい! スタート」


 ネクタイを俺の首にかけるミオ

 ――はぁぁぁん! いい匂い!


「え? むずかしか! どうやってやると?」

 ――九州弁、可愛かぁぁ!どげんかなってしまいそうばい!


 ゲームの結果は散々だった。

 壇上を降りると、ミオが酒を飲みまくる。


「ちょ、ミオちゃん、そんなに飲んで大丈夫?」

「やけ酒やけん! あーーん。美顔器ほしか!」


 案の定、ミオが潰れた。


「わたし、ミオちゃんと今日、初めて会ったけん、住んどるとこ知らんっちゃね」


 披露宴で席が一緒だった子たちも困っている。

 しょうがない。


 ――私が、引き出物として持って帰りましょう!


 お土産に「明太子」ではなく「」を持って帰ってきてしまった。


「んっ。ここどこ?」

「潰れちゃったからウチに連れてきたんだ」

「そうやったんや。ありがとう奏斗くん」


「お礼、してあげるばい」

 フォォォォ! わたしは既にバリカタですよぉぉ! ケーキ入刀ぉぉぉ!



 いたした。


 

「結婚前には目を大きく見開いてみよ。結婚してからは片目を閉じよ」


 イギリスの聖職者、トーマス・フラーの言葉が心に響く。


  薄れゆく意識の中、洗面所に向かうミオの気配。化粧を落としているのか。水道の音が心地よい。

 我は、今までにない賢者の時間を過ごし、まどろみの中に落ち、眠りについた。


 

 ――朝、昨日の結婚式の余韻に浸りながら、幸せな気分で目が覚める。

 もしかしたら、昨日の出会いで俺もいつか、この子と結婚しちゃったりして。

 

 将来の新婦の顔を拝むため、ベールを上げるように布団をめくると、上目遣いで俺を見つめる梨紗がいた。

 


 ――梨紗?



 なぜ、生まれたままの姿の梨紗がいるんだ?


 


 くそ!九州弁もネイティブに話せるのかよぉぉぉぉ!




「んがぁぁっぁぁぁ! またもや義妹を抱いてしまったぁぁぁぁぁ」


 


 アーメン。

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